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第20話 『昼の街 出発』

 そして、約束の休日。朝からだ――A M 9:00。一琉の家には九時十五分に、と言われていた。

 昼夜逆転させるのはなかなか肉体的に不安だったが、まあその辺は異様なテンションでどうにかなった。言われた時間に玄関で待っていたら、重低音の馬鹿でかいクラクションを鳴らされた。来たか。


「ちるちるー! 迎えにきたよん☆」


 運転席の窓には有河が顔を出していて、映画界のスター女優のようにサングラスをくいっと上げる。停まっているのは中型トラックだったが。助手席にはまひるがちょこんと座って、小さく手を振っている。


「今日は一日、おかーさんにトラック借り切ったからね! さ、乗って乗って! 荷台だけど」


 載せてくれるらしい。


 一琉が後ろに回ると、荷台の大きな箱に被せられた暗緑色のカーテンがぺらりとめくられた。


「乗って」中から出てきた委員長が手を貸してくれる。


「ああ、悪い……よっと、あっ!」

「きゃあっ」


 手を引かれた瞬間、車体がぐらりと揺れたせいで勢い余って、委員長共々倒れ込んだ。金属の冷たい床に打ち付けられ……たのは委員長で、一琉はその上だ。


「ったた……ケガはない?」

 言いながら頭を抑えている委員長に、今度は一琉が手を貸す。

「ああ、俺は平気だけどな、大丈夫か……」


 ゆらりと体が振られている。有河……あいつ、確認もなしに発進しやがった。ちゃんと免許持ってんのか……?


「なぁに委員長と揉みくちゃになってんだっ」加賀谷の野次が飛んでくる。

「ならおまえが手を貸せ」


「男に貸す手はない」

 ……どっかいってろ。


 扉を閉めると、中はかなり暗くなった。天井の青白い蛍光灯のおかげで、まったく見えないということはないが。しっかりと遮光してあるようだ。


「しばらくこのままよ。トラックで街を回って、まひるちゃんの知っている場所がないか見て回るから。お店回りとかは、それからね」


 委員長の説明に一琉は了解と返し、あたりを見回した。委員長、棟方、加賀谷。どうやら一琉が最後の乗客だったらしく、もう全員揃っていた。一琉の前をふらふらと歩いている委員長を除いて二人は、荷台の壁を背もたれにして、半分眠るように座っている。やはり眠いか。一琉は加賀谷の横に腰を下ろした。尻が冷たい。痛い。


(ふーむこれは……なんだか囚人みたいだな)


 だが、不思議と悪い気はしなかった。


 ガタゴトと揺れる振動が、移動している気分を高めるからだろうか。


 前方、運転席に通じる小窓の、閉められたカーテンの隙間からわずかに差し込む一筋の光――建物か電柱か、遮られてチラチラと目にまぶしい。


 昼の世界だ。


(ここから先は、未知の領域)


 天国か地獄か。


 トラックが停まった。外からバタン、とドアを開けて閉める音が聞こえた。どうやら、ついたらしい。一琉はすやすやと寝ている棟方を起こす。おい、ついたぞ。


「ん……」

 棟方は、ダッフルコート型の黒衣のだぼったい袖口で目をこすってふらりとしながら起き上がろうとする。


「大丈夫か、棟方」


 生活リズムを大きく崩すとこうなるのかもしれない。普段の生活リズムが整っていればいるほど。あわてて駆け寄ってくる委員長に棟方のことは任せて、加賀谷には一発蹴りを入れて叩き起こす。


「あっさ、だっよーーん」


 有河の声と共に、細く開いた隙間から溶岩のように、強い日差しが流れ込んできた。

 さて、出よう。

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