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公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活  作者: ハル
◆第三巻 幻術の国の王女
77/157

才能(1)


「フン、愚か者どもめが。だが、時が移る。早速、お前たちには死んでもらうとしよう」


 パルフィを人質に取られ、反撃の機会を失って立ち尽くすクリスたちを見渡し、ヴェルフェールが勝ち誇った顔で言い放った。


「くっ」

「くそったれが……」


(まずい、このままじゃ本当に皆殺しだ……)


 クリスは金縛りで身動きが取れないながらも、自分たちの状況を確認する。

 魔族たちに対抗できる力を持つのは、この中ではヘンリエッタとアルキタスのみである。だが、ヘンリエッタは金縛りの術で、そして、アルキタスは魔族の催眠呪文は効かない代わりに、パルフィを人質に取られたためやはり手が出せないでいる。また、キャセルは母親の異常を感じ取っているようで、心配そうにキュウキュウ鳴きながらヘンリエッタの体を押したりつついたりして、なんとか動けるようにしようと必死になっていた。


(最初からこのつもりだったんだ……)


 これだけの戦力差がありながら、ヴェルフェールから余裕が感じられたのは、おそらくこうなると分かっていたからだとクリスは悟った。確かに、相手の体を操れるなら、どんなに強大な敵と戦っても楽に勝てる。パルフィとアルキタスには催眠呪文が効かないことは目算違いだったようだが、結局、パルフィを人質に取ることで、アルキタスを戦闘不能も同然の状態にしている。

 アルキタスに目をやると、苦悶の表情でパルフィの方を見つめていた。いかにパルフィを助け出して、ここから脱出することができるか、必死に頭を巡らせているのだろう。しかし、パルフィが人質に取られ、喉元に小刀が押し当てられている状況では、アルキタスほどの大幻術師であっても、打つ手がないように思われた。

 魔族にとっては、パルフィの命など紙よりも軽いのは間違いなく、少しでもアルキタスやクリスたちが怪しい真似をすれば、迷うことなくパルフィの命を取るだろう。そして、第二王女の師であり護衛役のアルキタスとしては、無事にパルフィを助け出さねば、仮に自分が助かっても何の意味もないのだ。


 まさに、万事休すであった。


(どうすれば……)


 何か助かる方法がないか、必死に考えるクリス。

 だが、その時


 グウォグアアア


 突然、ヘンリエッタの咆哮が辺りに響き渡った。あまりの激しさに、ビリビリと空気が震える。

 そして、怒りの思念が脳裏に飛び込んできた。


 (ウォォォォ、この妖しげな術をやめろ。我を放せ。放すのだ!)


 ヘンリエッタもまた、金縛りにあったままの体勢で放置され、苛立っているようであった。力任せに動こうとしているらしく、ギシギシと体が揺れる。しかし、金縛りの呪文は強力で、それ以上は動けない。


「フン」


 ヴェルフェールは、バカにしたように鼻を鳴らした後、続いて何かを言いかけたが、ふと何かを思いついたような顔つきになり、ニヤリと陰のある微笑みを見せた。


「フフフ、体を動かせぬ割には威勢がいいではないか。では、そこまで言うなら動けるようにしてやろう。そのかわり、お前にはこの人間どもを殺してもらおうか」

(愚かなことを。我は、この国の人間たちと盟約を交わしてここに棲家を構えておるのだ。我らシルバードラゴンは誇り高き一族。己の命を惜しんで約定を違えるなど、できぬ)

「ほう、あくまでも我らに逆らうつもりか……。では、仕方がない。残念だが、人間の一体も殺せないのであれば、いくら攻撃力が高くとも役には立たぬ。お前もこの者たちと死ぬがいい」

(このような辱めを受けるぐらいなら、死んだ方がましだ。さっさと殺すがよい。だが、お前たちごときの魔力で我を倒せると思ったら大間違いだぞ)


 グォォォォァァァ


 そして、威嚇するようにまたヘンリエッタが咆哮を上げた。


「確かに、我らの力ではお前たちシルバードラゴンを倒すのは難しいだろう。だが、お前を殺すのは我らではない」

(……どういうことだ?)


 ヘンリエッタの不信の思念が伝わってくるのと同時に、クリスも疑問を感じていた。この場にいる中でヘンリエッタを倒せそうなのはアルキタスだけだが、アルキタスは催眠呪文にかかっていないため、アルキタスを操ってヘンリエッタに攻撃させるのは不可能である。パルフィの命と引き替えにヘンリエッタを倒すように脅すのかとも思ったが、ヘンリエッタとてもシルバードラゴンである、いくら金縛り状態であっても、そう易々と倒れないように思われた。


「フン、こういうことだ」

 

 ヴェルフェールの言葉に、クリスが我に返る。

 再び、ヴェルフェールの金色の目が妖しく瞬くのが見えた。

 それと同時に、ヘンリエッタの体が大きく動き出した。両翼を広げ、首を伸ばしたあと、やや背を曲げて力を込めるような姿勢になる。

 

(な、何事だ、我の体が……)


 ピィピィピィ


 ヘンリエッタが動き出したのを見て、体が元に戻ったと思ったのであろう、キャセルが嬉しそうな鳴き声をあげて体をすり寄せた。

 だが、ヘンリエッタが催眠呪文から解き放たれたわけではなかったのだ。


(グオォォォ、今度は何をしたのだ。体が勝手に……、我の思い通りに動かぬ……。いや、ま、待て、やめろ、止めるのだ)


 なぜか、ヘンリエッタが激しく狼狽する。

 その理由は、すぐに明らかになった。

 いきなりヘンリエッタが、嬉しそうに顔を擦り付けていたキャセルの横腹をものすごい勢いで蹴り飛ばしたのだ。


 グシャアアアッッッ


 何か硬いものがひしゃげる激しい音が辺りに響き渡る。


 キュピィィィ


 完全に不意を突かれた形となったキャセルが、かなり離れたところまで吹っ飛ばされ地面にたたきつけられる。身体から鱗が何枚も剥がれ飛び、血しぶきが舞った。


「キャセル!」


 パルフィが、悲鳴のような叫び声を上げる。


 グゥゥゥゥゥ、キュルルル


 よほどの衝撃だったのか、しばらくの間倒れたままピクピクと動くだけだったが、やがて、苦痛に呻くような呻り声を上げて、よろよろと立ち上がった。蹴られた箇所の鱗がはがれ落ち、身体中が血と土埃まみれになっており、ヘンリエッタの攻撃力のすごさを物語っていた。


 キュゥキュゥゥゥゥゥ


 キャセルは、翼を広げて、悲痛な鳴き声を上げる。そして、ヘンリエッタのそばに戻って来ようとした。


 グウォグアアア


 おそらくは、キャセルに近づくなと言っているのだろう。その咆哮を聞いて、キャセルは一旦立ち止まったものの、やはり、また近づこうとしては、ヘンリエッタに吼えられ、混乱してどうすればいいのか分からない様子だった。だが、キャセルが人間で言えば幼児にしかならないということを考えれば、やむを得ないだろう。いきなり母親に蹴り飛ばされ、近づくなと言われているのだから。もしかすると、ヘンリエッタが操られているということも理解できていないのかもしれない。


「ハハハ、この慌て様はちょっとした見物だな」

「あ、あんた、なんてことすんのよ! ひどいじゃないのよ。そんなことやめて!」

「ククク、黙って見ておれ。お楽しみはこれからだぞ」


 ヴェルフェールがいかにも満足そうにニヤリと笑った。他の兵士たちも、相変わらず一言も言葉を発しないが、おもしろがって見ているのは一目瞭然だった。


(ま、待て、我を殺すのではなかったのか?)


 ヘンリエッタの動揺した思念がクリスたちの頭に響く。


「心配するな。子より先にお前が死ぬことになる」

(そ、それは、どういうことだ? なぜ、我が……、グオオオオ、また、我の体を操るのか。か、体がいうことを聞かぬ。グウォォォ、止めろ、止めてくれ。この子に手を出すな。この子だけは……、グワアアア)


 自分がキャセルを攻撃しているのに、自分が先に死ぬとはどういうことか、それを問い詰める前に、ヘンリエッタは再び操られ、口を大きく開き、今度は火の玉をキャセルに向かって放った。


 ゴーッという風を切る音と共に、人間の顔の倍はあるぐらいの大きな火の玉が、キャセルに向かって飛んでゆく。

 

「キャセル、避けろ!」


 ピィィッ!


 キャセルは、巨大な火球が自分に向かって飛んでくるのにたまげたようだったが、必死で身をよじってギリギリで(かわ)した。勢い余って、その場でズシンと倒れ込む。

 火球はキャセルをかすめた後、すぐ近くにいたクリスたちに向かう。


「えっ?」

「うわっ」


 クリスたちも驚いて逃げようとするが、金縛りの呪文がかかっているため、避けることができず、自分たちを(かす)めて行った炎の玉の熱気に晒された。


「む。いかん」


 アルキタスが、呪文を唱えてクリスたちにかけた。一瞬体の回りに透明な壁のようなものが光り、すぐに消える。防護壁の呪文を唱えたのだ。

 茫然としていたクリスたちが我に返って、アルキタスに呼びかける。


「せ、先生!」

「なんとかならねえのかよ」

「師匠殿、私たちの金縛りを解いてください。このままでは……」

「ならぬ。今解いたところで、奴らにいいように使われるだけじゃ」

「しかし……」


(止めろ。止めてくれ。たのむ、我が子を傷つけるなど……)


 ヘンリエッタも必死に懇願するが、ヴェルフェールには一切響かないようだった。


「何の話だ? 私は知らぬぞ。お前が勝手に自分の子を痛めつけているのではないか。ひどい話だな。ハハハ」


 ヴェルフェールがいかにも楽しそうにしらばっくれる。


 グオオオオ


「ひ、ひでえ……」

「やめて。もうやめてよ!」


 だが、こうしている間にも、ヘンリエッタが次々と炎の玉をキャセルに向かって撃つ。

 さすがにキャセルも、母親の近くにいると危ないと思ったらしく距離を取るが、それでも遠くに逃げ去ることもせず、ピィピィと必死に呼びかけながら、何とかしてそばに近づこうとしている。しかし、そのたびにヘンリエッタの放つ炎の玉にさらされていた。


 ピイィィ


 次々と襲いかかる炎の玉。 

 キャセルも、必死に避けようとするが、完全にはかわしきれていない。

 クリスたちの攻撃でもびくともしなかった鱗が、かするたびに弾け飛び、血しぶきが舞う。そして、確実にキャセルの生命力を奪っていく。


 キュウゥウ


 悲しげな叫びがクリスたちの胸を締め付ける。


(や、やめろ、やめてくれ……)


 ヘンリエッタが、必死に懇願するが、ヴェルフェールは全く聞く耳を持たなかった。


「我らに逆らうからだ。馬鹿が。だが、心配するな。親子共々あの世に送ってやる。そこで、仲良く暮らせばよい。私も、それくらいの優しさは持ち合わせておるからな。ハハハハ」


 グウォォァァァァァ


(ア、アルキタス……、た、頼みがある)


 おそらく、このままヴェルフェールに訴えても意味がないことを悟ったのだろう、ヘンリエッタが、必死で自分の体を止めようとしつつ、今度はアルキタスに呼びかけた。


(アルキタス、頼む。そなたの呪文で、我を、我を撃つのだ)

「何と申された?」

(こ、このままでは、我はこの子を殺してしまう。その前に我を殺してくれ)

「し、しかし……」


 思わぬ頼みに、さすがのアルキタスも動揺を隠せない。


(構わぬ、早くしろ。そなたも人の子なら、子を思う気持ちも理解できるだろう……。グウウウウウ、ま、また、体が)


 グウォオオオオオオ


 また、ヘンリエッタが、ことさら大きな炎の玉を撃つ。

 キャセルが慌てて避けようとするが、完全には避けられず、右の翼に直撃した。


 ビィィィィ


 一瞬、翼が激しく燃え上がり、銀色の鱗が何枚もはがれ落る。そして、そこに傷を負ったらしく、血が滴り落ち、銀色であるはずの翼は鈍い赤色に染まっていた。


「キャセル、逃げて! ヘンリエッタに近づいちゃダメ」


 パルフィが身をよじりながら叫ぶが、聞こえていないのか、それとももう周りを気にする余裕がないのか、キャセルは傷だらけになりながらも、それでも、母親に近づこうとする。しかし、その歩みは遅く、力のないものだった。


 ピィィ……


 鳴き声も段々弱々しくなってきた。


(は、早くしろ……。我を殺すのだ!)


「だが、この状態では、貴殿を倒すような呪文は撃てぬ」


 アルキタスは、自分自身にかけている呪文のほか、クリスたちにも金縛りにする呪文とヘンリエッタの流れ弾に当たらないように防御壁の呪文をかけ、維持していた。そのため、シルバードラゴン成体の鱗を突き破るような強力な攻撃呪文が撃てない状態でいたのだ。


(げ、逆鱗げきりんだ。逆鱗を狙うのだ。我の顎の下に一枚だけ逆さに生えている鱗があるだろう)

「む、確かに……」


 ヘンリエッタの顎の裏辺り、最初からそのつもりで注目していないと気がつかないようなところに、一枚だけ逆さに生えている鱗があった。


(それが、我の弱点だ。そこからならそなたの呪文も通るはず。それを狙って撃て……グウウウウウ)


 ヘンリエッタは、また体が操られるのを、必死で押しとどめようとしているのか全身に力を込める。


(は、早くしろ……)


 アルキタスは、苦渋に満ちた顔で頷いた。


「……分かり申した。こうなってはやむをえぬ」


 そして、右手を突き出し、左手で印を組み、呪文を唱える。すぐに、ブーンという音と共に、右手の肘から指先までが淡く発光しはじめた。


 魔族の兵士がそれを見て警戒の様子を見せる。うち一人がパルフィの喉元に突きつけた小刀をこれ見よがしに、アルキタスに見せつけた。

 だが、アルキタスは自分の呪文に集中していた。

 そして、さらに呪文を唱えると、発光する箇所が段々と指先に集まっていき、そしてその分だけ、濃縮されたように色が濃くなっていく。そして、人差し指の先に全ての光が集まったとき、


「ハアッ」


 という気合と共に、人差し指を向けた。

 一条の光線が、一直線にヘンリエッタに向かって飛んで行く。

 そして、狙い過たず、一枚だけあごの下に生えていた逆鱗に直撃した。

 その光が、逆鱗から体内に吸い込まれるように消えた瞬間、ヘンリエッタの体全体が白く発光する。


 グウォオオオオオオオオアアアアアア


 まばゆいばかりの光の中、まさに断末魔の叫びをあげ、ヘンリエッタの体がまるで雷に撃たれたかのように伸び上がり、一瞬硬直したかと思うと、ブクブクと泡を吹き、口から血を流して、もだえ苦しみだした。


 グウォオオオオ


「ヘンリエッタ!」


 キュピィィ!!


(我が子よ、つ、強く、誇りを持って、生きるのだ。そ、そして、我の代わりに、この地を守って……くれ……。に、人間たちよ、この子を……頼む……)


 すぐに巨大な体がよろめきだして、まるで、最後の言葉のように聞こえる雄叫びを上げ、ズウウウンという、地響きと共に地面に倒れた。


「ヘンリエッタ!」


 クリスたちが口々に叫ぶ。


 ピイイイイイイイ


 それを見たキャセルが、悲痛な鳴き声をあげながら、よろめきながらも必死にヘンリエッタに駆け寄る。


 キュウゥゥゥピィピィ


 そして、ようやくたどり着いた母親の体をつついたり、口でくわえて引っ張ろうしたり、最後には体当たりまでして懸命に目を覚まさせようとしていたが、ヘンリエッタの体はもうピクリとも動かなかった。


「ヘンリエッタ殿、すまぬ。許してくれ……」


 アルキタスが悄然とうなだれる。


「ヘンリエッタ……」

「なんで、こんな……」


 クリスたちも沈痛な表情でうつむく。


「あ、あんたたち、何でこんなひどいことするの? あたしたちが何したっていうのよ! バカバカバカ! あんたたちなんて、絶対許さないんだから!」


 パルフィも、後ろから羽交い絞めされ、喉元に小刀を押し当てられているのもかまわず、怒りと悲しみにわめいた。激しく動いたせいで、小刀の先がパルフィの喉を傷つけ、血の滴が垂れる。


「ハハハ、まさか、本当にシルバードラゴンを倒してしまうとはな。せっかくの見世物が台無しではないか。だが、子の前で親を殺すとは、むごいことをするものだ。お前も相当な悪だな、ハハハ。だから言っただろう。親の方が先に死ぬと」

「あ、あんた、もしかして、こうなることを見越して……」

「フン、シルバードラゴンは己の子供に対する愛情は深い。少し頭を使えば、簡単なことだ。こうすれば、我らの手間も省けるというものだしな」

「ひ、ひどいわ……」

「げ、外道が」

「ほざいておれ、ハハハ」


 自分の思惑通りに事が運んだことに喜びを感じているのか、ヴェルフェールは上機嫌で高笑いした。


「こ、こんなことして、私たちに一体なんの恨みがあるのよ。あんた、人の心がないの?」

「我らは、人間ではないゆえ人間の心は持ち合わせておらんが?」

「そういうことを言ってんじゃないでしょ。あんたたちだって、親から生まれたんでしょうよ。こんな酷いことして平気なの?」


 そう言って、パルフィがヘンリエッタの方を見る。

 ピイピイと半ばパニックになったかのように、母親の元で鳴くキャセルの悲痛な声が辺りに響き渡る。


「では、聞くが、お前たち人間は、他の動物を殺さないのか?」


 ここで初めて、ヴェルフェールはパルフィの方を振り返った。そして、これまでとは異なりバカにしたような笑みはなく、真顔でパルフィに問いかけた。


「えっ?」

「他の動物を殺して食料にするではないか? それに、えさを求めて自分の田畑に近づく動物を害獣と呼んで殺すだろう?」

「そ、それとこれとは別じゃない」

「それだけではない、お前たち人間は、狩と称して殺す必要のない下等動物を遊興や訓練のために殺すと聞くぞ。それは、我らのやっていることと何が違う?

「そ、それは……」

「我らにとってみればお前たち人間という生物は、下等生物であり害獣そのものだ。したがって、我らが生き抜くためには、数を減らさねばならぬし、お前たちを殺したところで何の痛痒もない」

「そ、そんな……」

「無論、これは殺される側からすると理解のできない論理だろう。それゆえ、お前たちに理解してもらいたいなどとは思っていない。だが、お前たちにも我らの考えが分かるはずだ。同じことを他の生物にしているのだからな。お前たち人間は、この世界で生物の頂点にいるつもりだったのだろうが、そうではない。お前たちは、狩る側ではなく、狩られる側なのだということをわきまえるのだな」

「……」

「まあ、よい。所詮、下等種族には理解できぬ話だったようだ。では、次はそのシルバードラゴンの幼体に死んでもらうとしよう」


 そう言うと、ヴェルフェールは、いまだに悲痛な声で鳴きながら必死でヘンリエッタを起こそうとしているキャセルに一瞥をくれた。




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