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公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活  作者: ハル
◆第三巻 幻術の国の王女
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パーティ・テレポート(1)

「じゃあ、まずはギルドに行って、ミッション完了の報告をしようか」

「おう」


 カトリアのオルベール宮殿を出発して4日後、アルティアの北市門から市内に入ったクリスたちは、早速、ギルドに出向いて、王宮への書類配達が完了したことを報告したのだった。


「へえっ、こりゃすげえや。おめえさんたち、カトリアの王様に署名もらってきたのかい?」


 ギルドの世話役であるローガンが、カウンター越しに書類の受取証を受け取り、驚いた声を上げる。


「ええ、まあ……」

「それによ、何日か前に、カトリアのギルドからの連絡があったぜ。また何か頼まれたそうじゃねえか」

「はい。カトリアで、魔物の相手を少し……」


 ここで、『王宮に住み込んでシルバードラゴンの子供と勝負する』などと言えば、あれやこれやと質問攻めに遭うのは間違いない。下手をすると、パルフィの身元まで勘ぐられる恐れもある。クリスは、言葉を濁した。


「王宮から、依頼がくるなんてよっぽど気に入られたんだな。しくじるなよ」

「あはは。まあ、何とか……」


 実は、そのミッションがどうにもならなくなって、ここに戻ってきたのだ。クリスは苦笑いしながら、曖昧に返事をした。


「あ、そういや、おめえさんたち、またカトリアに戻るんだろ。それなら、この書類を届けてくれねえかな」


 そう言って、ローガンがカウンターの引き出しを開けて、中から書類を取り出した。


「えっ、またなの?」


 クリスの横にいたパルフィが驚いた声を上げる。


「そうなんだよ。ちょうどいいランクのやつがみんな他のミッションで出払っててな。どうしようかと思ってたんだ」


 それを聞いて、一同は疑わしそうな表情で顔を寄せ合い、ヒソヒソと話し合う。


「また、ルーサー王子の罠かな?」

「怪しいわね」

「うむ。こんな短期間で二度もカトリア行きのミッションがあるというのはな……」

「でもよ、もうオレたちを誘い出す必要もねえだろ?」

「それは、そうですね。今回はすぐにカトリアに戻るのですし」


 それを聞きつけて、ローガンが割り込んできた。


「おいおい、何の話だ? そんなやばい橋じゃねえぜ。単なる、ギルド間の定期連絡文書だよ。いつもは、ここの職員がやってるんだが、あいにく人手不足でな。なに、そんなたいしたことじゃない。ルーンヴィルのギルドに届けるだけの簡単な仕事だ」

「なんだ、そうか」

「なら、問題ねえな」

「おお、引き受けてくれるかい。助かるよ。なら、ここにサインしてくれ、クリス」

「はい」


 クリスが、ローガンからペンを受け取り、差し出された用紙にサラサラと署名する。


「よし、これが届けてもらう書状だ。期日指定だから、遅れないようにな」

「はい」


 クリスは、渡された書状とミッション依頼書を旅人用の皮袋に入れた。

 一行はローガンに礼を言って、ギルドを出た。すでに、日が沈みかけて、影が長くなっている。


「じゃあ、行こうか。早くレイチェルに会わないとね」


 クリスが行こうとすると、グレンが引き留めた。


「ちょ、ちょっと待て、クリス。今頃気がついたんだが、オレたち、レイチェルがどこにいるのか知ってるのか?」


 それを聞いてパルフィたちも驚いた表情を見せる。


「えっ、何よ。あたし知らないわよ」

「わ、私もです」

「というか、誰も知るわけがないのではないか。私たちがフィンルート遺跡を去った時、レイチェル殿はまだ住むところも決まっていなかっただろう?」

「そうだね、僕も知らないよ」

「え?」

「お、おい、クリス……」

「じゃ、どうすんのよ。こんなところまできて、レイチェルがどこに住んでるか分からないなんて、バカじゃないのあたしたち?」

「大丈夫だよ。父さんの研究室と宿舎がどこにあるかは知ってる。父さんなら、レイチェルがどこにいるかは知ってるはずだからね」

「お、おお、そうか」

「なるほどな」


 レイチェルが眠っていた棺を発掘したのが、クリスの父ウォルターであり、また、旧文明研究の第一人者であることから、レイチェルの今後の扱いを決めるに当たって、大きな影響を持つことは間違いなかった。したがって、ウォルターならレイチェルの居場所も当然知っているはずである。


「で、親父さんは、どこに住んでるんだ?」

「王立学問所だよ。そこにある研究者用の宿舎に住んでるんだよ」

「ほう」

「よし、行こう」


 そんなわけで、一行は、王立学問所に向かったのだった。

 




 ところが……。


「あら、ウォルター先生なら、発掘に出かけてお留守ですよ」


 学舎や塔が立ち並ぶ、王立学問所の広い敷地の一画、研究者宿舎の受付で、クリスがウォルターに面会を求めたところ、係員の女性がそう告げたのだ。


「えっ?」

「先生は、今、南の国境沿いで見つかった遺跡の調査に、半月ほど前から出かけています」

「え、そ、そんな……」


 がっくりとうなだれるクリス。


「いつ戻って来られるのか、ご存じですか?」


 ルティが後ろから問いかける。


「さあ、こればっかりは……。調査が終わった時じゃないでしょうか」

「そうですか……」


 女性に礼を言って、クリスたちは宿舎を出た。そして、王立学問所の正門に向かって歩きながら、これからのことを相談する。


「……しまったな。まさか父さんが、こんなに早く次の発掘作業に出かけてるとは思わなかったよ」

「南の国境じゃあ、行ったとしても時間がかかり過ぎるな……」

「だが、どうする?」

「うーん」

「役所かどこかに聞いて回っても無理だろうな。レイチェルのことは伏せられてるだろうしね」


 フィンルート遺跡での一件、ならびにレイチェルの存在は、ともに表面化すると、あまりに社会的な影響が大きいため、おそらく秘密のままにされるだろうというのが、ウォルターの見立てだった。事実、あれから二ヶ月が過ぎた今も、アルティアの市民たちがそれを知った様子はない。旧文明を神と崇めるアルトファリアの市民が、旧文明人であるレイチェルが目覚めたことを知れば、大騒ぎにならないはずがない。何しろ、千年前に同じように目覚めたロザリアは、神格化され巨大な神殿まで建てられているのだ。


「……となると、やはり私たちがレイチェル殿の居場所を探り当てねばならぬということだな」

「とは言ってもなあ」


 アルティアは、大国アルトファリアの首都であるため、面積も広く、人口も多い。やみくもに探したところで見つかる確率は少なかった。


「うーん」


 一同が悩んでいると、パルフィが声を上げた。


「あ、そうだ!」

「何か思いついた?」

「ほら、レイチェルってさ、エミリアさんと仲よかったわよね。もしかして、エミリアさんならレイチェルの居場所知ってるんじゃない?」

「ああ。そうですね、姉もレイチェルさんに遊びに来るように言ってましたし、もしかしたら連絡をとっているかも知れませんね」

「おお、それだ」

「それじゃ、エミリアさんに聞きに行こう」

「だが、どうする? 今からここを出ると、着くのが遅くなるのではないか」

「だな。今夜は、ギルド宿舎に泊まって、明日の朝にしたほうがいいんじゃねえか?」


 エミリアの村はアルティアからは割と離れている。今から出ると、到着は夜遅くになるだろう。街道を通るとはいえ街の外に出れば灯りがないため、夜道は暗く危険である。それに、早朝にルートンを出て、ここまで来るのに歩きどおしで、一行はすでにかなり疲れていた。


「あ、それならさ、あたしのテレポートで行ってみる? エミリアさんの家なら、行ったことあるし、距離もそんなに遠くないから、あたしでもギリギリ一回で飛べそう」

「ほう」

「そういや、パーティ・テレポートが使えるようになったって言ってたな」

「うわあ。それは楽しみです」

「いいね。それならぜひ頼むよ」

「うん。じゃあ、ちょうど学問所の敷地内だから、ここで飛びましょう」

「分かった」


 テレポートは発動まで時間がかかる上に、詠唱中は術者結界内に無関係な者が入ってくると著しく術の精度が落ちる。そのために、往来の多い場所で唱えるのには向いていない。

 また、アルティア市内での呪文の詠唱は、攻撃呪文については緊急時以外、全面禁止であり、それ以外の呪文についても、みだりに使用しないように定められている。そのため、テレポート呪文も、発着ともに人気(ひとけ)のないところで唱えるのが普通となっているのだ。学問所の敷地は、外から人目につかず、今は夕刻であるせいかそれほどの人通りがないため、ちょうど良い場所といえた。


「みんな、あたしの周りに集まって」

「おお、ワクワクしてきたよ」

「おめえ、ちゃんと飛べるんだろうな?」

「アンタだけ途中で落っことしていっちゃったらゴメンね」

「ケッ」


 軽口をたたきながら、一同がパルフィの周りに立つ。


「じゃあ、行くわよ」


 パルフィが、印を組んで呪文の詠唱に入る。

 すると、地面が白く輝き、そこから光の筒が現れ、クリスたちを包む。

 それは、先日、アルキタス老師のテレポートで体験したものと同じだった。


「こないだと同じだな……」


 グレンが、パルフィの邪魔にならないように囁く。そして、しばらくして、フッと一瞬体が軽くなったような感覚があり、光の筒を通して見える景色が変わった。

 そして、光の筒が消えると、そこはもうこれまでとは違う場所だった。

 テレポートは成功したのだ。


「おお、すげえじゃねえか」

「ほんとだ、ちゃんと着いてる……」


 クリスたちが周りを見渡すと、何度か来てすでに見慣れたルティの村が、少し離れたところに見えた。


「あれは、私の村です。成功ですね!」

「見事だぞ、パルフィ」

「……いや、上出来なんだが、なんか微妙に村から離れてねえか?」


 出現したのは、村の目の前ではなく、少し離れた街道沿いの野原だった。

 ここからは村がはっきり見えているが、まだしばらくは歩かなければならない距離である。


「……ごめん、村の真横に……出るつもり……だったんだけど……」


 まるで全力で走ったかのように、はあはあと大きく息を切らせて、パルフィが膝に手をついた。


「思ったところに出現するのが……難しいのよ……」


「パルフィ、大丈夫かい?」

「よ、4人連れて飛ぶのが、こんなにつらいなんて思わなかったわよ……。疲れる……」

「ルティの家で休ませてもらいなよ」

「う、うん、そうするわ……」


 歩き出そうとしたパルフィだったが、疲労は思ったよりも激しいらしく、足下がおぼつかず倒れそうになる。


「おっと」


 すかさず、クリスが横からパルフィの腕を掴んで支えた。


「……かなり辛いみたいだね」

「は、初めてだったからしょうがないわね、慣れれば平気だと思うんだけど……」


 その様子を見て、クリスはパルフィの前に出て、背中を向けたまましゃがんだ。


「ほら」


 背中越しに振り返り、パルフィに促す。


「え?」

「おぶっていくよ。エミリアさんの家までもうちょっとあるからさ」

「え、い、いいわよ、そんなの……」

「なに、遠慮してるんだよ。いいから、乗りなよ」

「う、うん……、じゃあ、お言葉に甘えて……」


 気恥ずかしいのか、すこし頬を染めて、おずおずと、クリスの背中につかまった。

 クリスは、しっかりとパルフィを背負って立ち上がった。


「よいしょっと。じゃあ、行こう。あ、悪いけど、誰か僕の荷物持ってきて」

「あいよ」


 グレンが、クリスの旅人用皮袋を拾って肩に担ぐ。


「……わ、悪いわね」

「何言ってるんだよ。パルフィのおかげで、ここまで一瞬で来れたんだからさ。さあ、行こう」


 パルフィはしばらくの間は、遠慮がちに、クリスの背におぶさりながらも身を起こしていたが、やがて身体全体をクリスの背に預けた。そして、


「……ありがと」


 そうつぶやくと、うれしそうな表情で目を閉じた。




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