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公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活  作者: ハル
◆第二巻 未来の古代人たち
52/157

攻撃命令

 司令室から走って出ると、前方、昇降ホールの中央に、銀色の鎧に身を固めた兵士の一団が、隊列を組んで立っていた。その数およそ二十。どういう仕組みか兜の目の部分が不気味に赤く発光している。


 一同は慌てて立ち止まる。


「おいおい、話が違うじゃねえか」

「ベルグ卿の手の者か」


 グレンとミズキが剣を抜き、身構えた。

 ホールの中央に並んでいるといっても、ホール自体がかなり大きいために、クリスたちとはまだ距離がある。


(あの兵士たち、何処かで見たことがある……)


 レイチェルも一瞬、この時代の騎士かと思ったが、その特徴的な装甲と、赤い目に見覚えのあることに気がついた。


「あ、あれは、機械化歩兵だわ……」

「何だそれ?」

「人間の代わりに敵を倒すために作られた機械の兵士よ」

「ということは、旧文明の兵士か」

「そうよ、確かレーザーソードとフォトンガン……じゃない、剣と飛び道具を仕込んでるから気をつけて」

「分かった」

「了解」


 しかし、機械兵たちは戦おうとするそぶりを見せない。この距離なら、クリスたちが出て来たことに気づいているはずだが、微動だにせずただ銅像のように立っているだけだ。


「……にしても、こいつら、全く動かねえじゃねえか」

「いや、油断するな。罠かもしれんぞ。それに、どちらにせよ、奴らを越えなければリフトにはたどりつけまい」

「とは言っても、この人数で取り囲まれると厄介だな……」


 通常の戦闘では、火力は高いが防御力と体力が低いキャスターを後衛に置いて、剣士が前衛で矢面に立つというのが普通であるが、この人数差で普通に戦うと、あっという間に囲まれ、後衛のクリス、パルフィ、ルティにも敵が来るのは明らかだった。しかも、その上、レイチェルという、絶対に護らなければならない非戦闘員がいるのだ。


「しゃあねえな。クリス、ここは、オレとミズキが突っ込んで奴らを引きつける。お前たちはオレたちを援護しつつ、隙を見て、先にあの箱部屋に乗ってくれ」

「うん、わかった」

「お、見ろ。奴ら、やる気になったようぞ」


 ミズキの声に、前方を見ると、まるでどこからか命令が聞こえたかのように、一斉に機械兵たちが動き出していた。何やらギシギシと機械的な音を立てながら、こちらに向かってゆっくりと歩いて来る。

 そして、前列にいた何体かの機械兵が、左腕をクリスたちのほうに突き出した。


「ん、何の真似だ?」


 それを見て、レイチェルが血相を変えて叫んだ。


「あぶない。みんな、よけて!」

「えっ?」

「何だ?」


 その瞬間、いきなり、機械兵たちの手が白く光り、そこからこぶし大の光の玉が一斉に発射され、ものすごいスピードでクリスたちに飛んできた。


「くっ」

「うわっ」


 前衛のグレンとミズキは剣ではじき返し、クリスも地面に体を投げ出して、なんとかよけたが、前衛の二人の間を通り抜けて飛んできた一発がパルフィに直撃する。


「きゃあっ」


 バシッ


 激しい音とともに、光の玉が跳ね返され天井にぶつかった。


「パルフィ!」

「だ、大丈夫よ。シールド張ってるから」


 顔が青ざめていたが、よろめいただけですんだようだった。


「いかん、飛び道具が相手ではこの距離は不利だ。行くぞ、ミズキ」

「ああ」

「クリス、パルフィ、援護を頼んだぜ」


 そう言い置いてグレンとミズキは剣を構えて、機械兵の集団に向かってかけ出した。


「わかった」

「任せといて」


 クリスとパルフィは、すぐに呪文を唱え出す。


「うりゃああああ」


 グレンとミズキが猛烈なスピードで機械兵に向かう。機械兵たちは迎え撃とうというのか、その場で立ち止まり、今度は白く光る剣のようなものを手に出した。ブーンという何か震えるような低い音がしている。

 さらに、前衛の機械兵たちが、次々と光の玉を撃つ。しかし、二人はそれを軽々と避け、剣で弾き飛ばす。


「ケッ、そんなもん当たるかよっ」 


 そのとき、クリスたちの火の玉がグレンとミズキの横を通り過ぎて、先頭の機械兵に直撃した。数体が激しく燃え上がる。


「いっくぜえ」

「応!」


 グレンとミズキは、燃え盛っている機械兵たちをなぎ倒し、共に隊列の真ん中に切り込んでいく。


「どりゃあ」

「ハアッ」


 そして、 当たるを幸い遮二無二機械兵に斬りかかる。二人は機械兵たちがクリスたちに向かわないように、激しく立ち回って、多くの兵に斬りつけていた。機械兵たちの一部は、クリスたちにも向かおうとするが、少しでもそのそぶりを見せると、グレンかミズキの剣が飛んで来るため、そのうちに、機械兵は二人の周りに集まり始めた。


「よし、レイチェル、今のうちにリフトに行くよ」

「ええ」

「ルティは、回復呪文の用意を頼むよ」

「はいっ。分かりました」

「よし、行こう」


 クリス、パルフィ、ルティ、レイチェルの四人は、機械兵から距離を取り、壁伝いにシャトルリフトを目指して走り出した。


 グレンとミズキは比較的優位に戦いを進めていた。一人で二体を相手にしても捌き切れるほどである。そして、二人が激しく立ち回りながら剣をふるっているため、機械兵が囲みきれず、数的優位の利点をいかせていない。しかも、密集した状態で戦っているため、フォトンガンもあまり撃てずにいるようだった。

 二人は早くも3体を倒していた。


「フン、慣れればそれほど怖いわけじゃねえ」

「ああ。こやつら、みな動きが同じで、クセまで同じだからな」


(すごい。この人数差でこれだけ押してるなんて……)


 戦いは素人ではあるが、レイチェルの目には、まさに、グレンとミズキが機械兵をあしらっているように見えた。本来、機械兵は、単なる肉弾戦なら一般の歩兵どころか、軍の特殊部隊にも勝つといわれていたのだ。


 だが、いくら優位とはいえ、流石に20体全部を同時に相手にすることはできない。二人は、できるだけ敵を引きつけるように戦っていたが、端にいた数体がリフトへ急ぐクリスたちに気づいたようで、その場を離れて向かっていった。


「クリス、そっちに行ったぞ!」


 グレンが機械兵と切り結びながら叫ぶ。


 クリスが振り返ると、6体が横から迫って来ていた。リフトまでは、まだ距離がある。


「パルフィ、やるよ!」

「うんっ」

「ハアアッ」

「えいっ、やああっ」


 二人は走りながら攻撃呪文を撃ちまくった。炎が激しく燃え上がり、氷柱が飛び、光の玉が機械兵たちを包み込む。

 だが、うち2体は身体から激しく放電しながら倒れたが、残る4体はダメージを受けつつも、行く手を阻むようにクリスたちの前に回り込んだ。二人はレイチェルとルティを後ろにかばいながら立ち止まる。


 機械兵4体はレーザーソードを構えながら、ジリジリと距離を詰めて来る。クリスたちはそれに押されるように後ろに下がる。もとより、魔道士も幻術士も接近戦には向いていない。


 機械兵の2体が左手を前に突き出した。


「ハアッッ」 


 その隙を見計らって、クリスが呪文を発動した。機械兵の目に炎の壁が現れ、馬蹄形に広がり、周りを取り囲む。

 兵たちは、フォトンガンを撃つのをやめ、手をかざしながら、よろよろと下がった。


「今だ、パルフィ!」

「えいっ」


 掛け声と共にパルフィが両方の掌を重ね合わせて前に突き出した。そこから光がほとばしり、4条の光線となって、それぞれの機械兵の頭部に突き刺さる。

 すると、そのうちの2体が全く的外れな方向に剣を振り回し始めた。味方の機械兵にも当たっているが全く意に関せずといった体である。


「ごめん、かかったのは2体だけよ」

「上出来だ」


 そう言うと、クリスは氷の呪文を唱えた。何本もの鋭い氷柱がヒュンヒュンという音を立てて、機械兵に襲いかかる。


「ルティ、こいつらは僕たちがやる。今のうちにレイチェルと先に行くんだ!」

「はいっ。レイチェルさん、行きますよ」

「え、ええ」


 ルティがレイチェルを先導してリフトに向かって走り出す。

 そのときだった。パルフィの催眠呪文で、まるきり的外れなところをひたすら攻撃していた一体が、呪文が解け、我に返ったかのように、周りを見回した。そして、自分の横を走り抜けたルティたちに気がつくと、反転して、レイチェルの背後から襲いかかった!


「レイチェル、危ない!」


 クリスが叫ぶ。


「えっ? あっ、レイチェルさんっ!」


 ルティが機械兵とレイチェルの間に入って守ろうとしたが、まとめて蹴り飛ばされる。


「うわあっ」

「キャアア」


 二人が床に倒れこむ。


「レイチェル、ルティ! うわっ」


 クリスが助けに行こうとするが、もう一体の機械兵が切りかかって来るため、その場を動けない。パルフィも隣で、別の2体を相手に戦っている。

 ルティを蹴り飛ばした機械兵が、まだ床に倒れているレイチェルに向かってレーザーソードを振り上げた。


「あぶないっ!」


ルティが自分の体を投げ出し、彼女に覆いかぶさった。その瞬間、ルティの背中にレーザーソードが振り下ろされた。


「ルティ!」


 レイチェルの悲痛の叫びが響く。

 だが、激しい反発音がして、ルティを包む光の泡が見えた。シールドではじき返したのだ。反動で、機械兵がよろけた。

 とはいえ、レーザーソードの威力は強かったようで、一撃でシールドが消えてしまった。

 機械兵はレーザーソードが効かないと思ったのか、今度は左手を、レイチェルに覆い被さったままのルティに向け、フォトンガンを撃つ態勢に入った。

 シールドなしでこれを食らっては、ルティの命が危ない。しかも、ルティ以外にルティを回復できるものがいないのだ。


「ルティっ!」


 クリスは、目の前の1体に炎の玉を投げつけひるませ、蹴り倒し、今まさにフォトンガンを撃とうとしている一体に体ごと飛びかかった。不意を突かれたのか、機械兵も自らを支えられず、クリスと共に床に倒れる。その反動で、光の玉が発射されたが、これは天井に当たった。

 クリスは、即座に起き上がり、倒れている機械兵に馬乗りになる。だが、機械兵も負けじとクリスの頭に左の掌を突きつけた。そのとき、初めてクリスは、機械兵の掌に何かの射出口のような親指大の穴を見た。そして、そこから白い光がほとばしり球形になる。


「くっ」


 クリスは、撃たれる寸前で、左手でその手を反らし、発射された光の玉をギリギリでかわしつつ、右手をその頭に当てて念を込めた。


「ハアアッ」


 クリスの右手が赤く光ったとき、鈍い爆発音が機械兵の頭の中から聞こえて来て、ガクッと機械兵の動きが止まった。魔道エネルギーを直接流し込んだのだ。目の赤い光が消え、空気が噴出するような音とともに、頭部から煙が立ち上る。

 機械兵が動かなくなったのを確認して、クリスは立ち上がり、まだ半身を起こしたまま呆然としているレイチェルとルティに叫んだ。


「二人とも、早く!」

「は、はいっ」


 その声に、ビクッとして、二人は慌てて立ち上がってリフトに走り出す。

 クリスは背後に気をつけながら、それについていく。

 だが、今度はグレン、ミズキと戦っていた別の二体が、クリスたちに追いすがって来た。


「あ。危ない! えいっ」


 パルフィが呪文を唱えた。床が白く光って魔方陣が浮かび上がり、そのうちの一体が硬直したようにその場で動きを止める。しかし、もう一体は、魔法陣内にいなかったせいか、そのまま何事もなかったかのように、クリスたちを追いながら、左手を突き出した。


 パルフィが、両手を前に突き出したまま叫んだ。


「クリス、後ろよっ!」


 パルフィの叫びに、クリスは後ろを振り向きざま、用意していた火の玉を投げつけた。フォトンガンを撃とうとしていた機械兵に直撃する。機械兵は激しく燃え上がって倒れた。

 クリスたちはその隙にリフトのそばまでたどり着き、レイチェルがボタンを飛びつくようにして押して扉を開けた。三人は中に飛び込んだ。

 そして、クリスが振り向いて、パルフィたちに叫ぶ。


「乗ったよ。三人とも、早く!」


 同時に、リフトの前部に立ち、援護のために次々と火の玉を投げつけた。


 グレンとミズキはホールの中央で数体と、そしてパルフィはやや壁よりでまだ2体の兵士と戦っていた。その他の10体ほどはすでに倒され、煙を出したり、なにやらビリビリと小さな放電を繰り返して床に転がっている。


「パルフィ、先に乗れ!」


 グレンが機械兵士のレーザーソードをさばきながら、パルフィに叫んだ。


「分かった」


 パルフィが、最後に火の玉を投げつけて、2体のうちの一体にとどめを刺し、もう一体に背を向けて、リフトに向かって走り出した。

 クリスは、パルフィを追いかけて来る兵士に向かって呪文を唱えた。

 猛烈な吹雪が機械兵の周りで発生し、吹き荒ぶ。機械兵は、だんだんと動作が緩慢になり、やがて、凍りついて、そのままの姿勢で倒れそのまま動かなくなった。


「グレン、ミズキ、あとは、君たちだけだ!」


 パルフィがリフトに乗ったのを確認して、クリスが叫ぶ。


「いや、大丈夫だ。これなら何とかなるぜ」


 一体を切り倒しながら、グレンが叫び返す。

 すでに、グレンとミズキが戦っているのは残るは3体となっており、押し気味で戦っていた。


 だが、そのとき、司令室の扉が開いて、さらに別の機械兵が現れた。今度はおよそ十体。出てくると同時に、光の剣を出し、グレンたちに向かっていく。


「新手だ! 二人とも逃げるんだ!」


 その声に、グレンとミズキも気がついたようだった。


「チッ、きりがねえ。よし、ミズキ、オレたちもいくぜ」

「了解」


 互いに最後に強烈な一撃を食らわせて、よろめかせた後、グレンとミズキは敵に背を見せ、リフトに走った。

 それを見て機械兵たちも後を追った。まだ倒されずに残っていた最初の3体と、その後ろに今現れた10体ほどが背後に迫る。

 剣では届かないと見たのか、先頭を走っていた3体が左手を前に突き出し、次々とフォトンガンを撃ち始めた。

 だが、グレンもミズキも、撃たれるタイミングと、どこを狙っているのかが感じ取れるらしく、撃たれる寸前に避けていた。いくつもの光の玉が二人をかすめるように飛んでいく。

 それを見て、クリスが呪文を唱え、火の玉を手のひらに出した。しかし、機械兵がグレンとミズキの後ろにいるため、投げられないでいる。


「構わん。投げろ、クリス!」


 ミズキが叫ぶ。

 その声に、クリスが火の玉を投げつけた。

 炎が風を切る音と共に火の玉が一直線にグレンとミズキに向かって飛んで行く。

 二人にぶつかるかと見えたその瞬間、二人はタイミング良く体をひねって避け、火の玉はそのまま先頭の機械兵に直撃し、燃え上がった。もともとダメージが大きかったらしく、ギシギシという音を立ててよろけ始めた。だが、その後ろを走っていた機械兵が、その燃え盛る仲間を脇へなぎ倒し、何事もなかったかのようにグレンたちを追って来る。


「チッ、しつけえ野郎どもだ」


 二人はそのまま一気にリフトに駆け込むと同時に反転し、間合いに入ったとばかりに振り下ろされるレーザーソードを、剣で受け止めた。

 金属の鈍い音と共に火花が散る。


 そして、扉のすぐに内側で自らが壁となり、兵士を入れないように剣で押し返そうと試みるが、次から次から押し寄せる圧力に耐え切れず、押し戻すことが出来ずにいた。

 レイチェルも扉を閉めようとするが、閉めようにも閉められない。今無理に閉めると、グレンたちが外にはじき出されるか、機械兵を中に入れてしまうことになるのは目に見えていた。


「グッ」


 ミズキがうめき声をあげる。後ろの兵士が隙間からレーザーソードで突き刺したのだ。切っ先が脇腹をえぐった。見る見るうちに、ミズキの白い羽織まで赤く染まっていく。


「ミズキ!」

「だ、大丈夫だ」

『ヒール』


 すぐに、ルティが回復呪文を掛けたが、刺された瞬間に力が入らなくなったところをさらに押し込まれることとなった。


「ぐぐぐ」


 グレンが顔を真っ赤にして力を込めるが押し返すことができない。

 じりじりと、二人が押されて、それとともに機械兵が中に入り込んでくる。


 そのとき、


「二人ともよけて!」


 クリスがリフトの後方から叫んで、両手を突き出した。

 その瞬間、つんざくような雷鳴と共に雷がほとばしる。そして、ギリギリで脇に体を反らせたミズキとグレンをかすめて、先頭にいた2体の機械兵に直撃した。

 体中からまばゆいばかりの光を放ち、機械兵が一瞬動きを止めたのを二人は見逃さなかった。


「うらぁ」

「はあっ」


 気合の声と共に機械兵を蹴り飛ばす。クリスの雷撃呪文で自由が利かなくなっていたのか、その二体はビリビリと感電しながら、すぐ後ろにいた数体ともども後ろに吹っ飛んだ。


「いまだ、扉を閉めろ!」


 グレンの声に、反射的にレイチェルがボタンを押した。その瞬間、扉が閉まる。

 しかし、すぐに機械兵たちが立ち直ったのか、ガンガンと扉を激しく殴る音がする。そして、その振動がリフトにも伝わって、グラグラと激しく揺れ、その反動か照明もチカチカ点滅する。


「うわあ」

「キャアア」

 

 激しくゆらされて、バランスを崩す一同。

 パルフィが倒れそうになり、クリスにしがみつく。


「早く出すんだ!」


 パルフィを抱きとめながら、クリスが叫んだ。


『武器庫に行って!』


 レイチェルの叫び声に反応して、リフトが動き出す。そして、それとともにガンガンと扉をたたく音はだんだん小さくなり、やがて聞こえなくなった。もう耳に聞こえるのは、グレンたちの荒い息と、シャトルリフトの移動音だけである。


「あ、危なかった……」


 クリスにしがみついていたパルフィだったが、力が抜けたようにその場にぺたんとしりもちをついた。


「やれやれ、ちっとばかりヤバかったな、今のは」


 グレンもドカリと床に腰を下ろしてあぐらをかいた。


「みなさん、けがはありませんか?」

「大丈夫よ」

「うむ。大丈夫だ」

「クリス、あなた雷撃呪文なんて使って大丈夫だったの? ランク2の呪文なんでしょ?」

「ああ、なんとか……。あの時よりも上達したから、前回ほどはひどくはないよ……。そんなに連発は出来ないけどね」


 息を切らせてクリスが答えた。一発撃っただけだが、グレンとミズキと同じぐらい息が荒い。しかし、疲労が激しいだけのようだ。以前、ランク1になりたてで使った時は呪文に体が耐えきれず、瀕死の重症を負ったのだった。


「まあ、おかげで助かったぜ」

「レイチェルは、大丈夫かい?」


 クリスが、壁に持たれながら、レイチェルに視線を向けた。


「ええ。大丈夫よ……」


 だが、その言葉とは裏腹に、レイチェルは涙を流していた。


「ど、どうしたの?」


 確かに命からがらだったが、機械兵に襲われたぐらいで、涙を流すのはおかしい。先日、オークに襲われてケガをしたときもこんな反応は示さなかったのだ。


「ごめんなさい。恥ずかしいところを見せちゃって」


 涙を指で拭って、無理矢理のように微笑んだ。その様子が痛々しく感じられる。


「どうしちゃったのよ?」

「どうやら、私はリチャードの敵になったみたいね……」

「えっ?」

「さっきの機械兵は、本来なら私は攻撃対象には入ってないはずなの。私はこの基地の人間だからね。でも、私が狙われたということは、リチャードが私も攻撃するように命令したってことよ」

「それじゃ……」

「リチャードは、私も殺すつもりなのよ……」

「……」


 だが、それは、ある意味、理にかなったことであろうとはレイチェルにはわかっていた。この基地にとって最も脅威なのは、クリスたちでも、ウォルターたちでもなく、基地の動作原理を知っている自分なのだ。現に、自分はこうやって基地を破壊する計画を思いつき実行しようとしている。そのことから考えても、協力しない自分を始末しようとするのは、当然とも言える。しかし、だからといって、襲われる方はたまったものではない。しかも、リチャードは、自分にとって特別な存在だったのだ。


「大丈夫だよ。僕たちがついてるから……」

「そ、そうよ。あたしたちに任せておいてよ」

「ええ。ありがとう……」

 

 口々に励ましの言葉をかけるクリスたちに微笑みを返しながらも、レイチェルの表情は強張っていた。


【次回予告】

司令室前での戦いをかろうじて切り抜けたクリスたち。果たして、無事に、武器庫に到達し反粒子爆弾を入手することができるのか。そして、クリスは再度の戦いのさなか、ある重大な決断を迫られる。


「なかなか面妖な代物ばかりだな」


「やべえな、後ろから来るぞ……」


「何とか言いなさいよっ、クリス!」



次回『公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活』第二巻「未来の古代人たち」

第二十一話「リーダーの資質」をお楽しみに。


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