第25話 死者と生者の救済(挿絵あり)
その日エミリアは、魔幻語ギルドのそばにあるギルド成員用の宿舎に備えられている診療室にいた。
当時十六才とまだかなり若かったが、すでに十分研鑽と経験を重ねており、高度な治癒呪文を使える祭司に成長していた。そのため、ギルドに在駐している救急回復士が非番の時は代わりに呼ばれていたのである。
その日の午後のことだった。
エミリアが診療室で書き物をしていると、診療室付き助手のメアリーが深刻な表情で駆け込んできた。
「先生っ、大変です。いまギルドから重傷者の連絡がありました。ミッション中に魔物に襲われて、剣士が一名瀕死の状態だそうです。まもなく、テレポートで直接こちらに到着します」
メアリーはエミリアよりも数歳ほど年上だったが、もうすでに何度も一緒に働いていて、エミリアの腕をわきまえている。話し方は、目上を敬うものだった。
「分かりました。参りましょう」
エミリアはすぐに立ち上がり、メアリーとともに隣の部屋に向かった。診療室の隣は重傷者をテレポートで運び込むための部屋となっている。そのため調度品などは一切なく、ただ、幻術士がテレポートがしやすいように魔法陣が描かれている。
エミリアはその部屋に行き、到着を待った。
「せ、先生、来ました」
メアリーが緊張した面持ちで言った。
魔法陣が低く唸るような音とともに光りだし、それは光の筒となった。そして、その光が消えたとき、四人組のパーティが現れた。そのうちの二人が両側から、重傷者と思われる剣士を肩に担いで、もう一人はテレポートを唱えたと思われる幻術士らしかった。
四人ともマジスタとしてはまだ若く、エミリアより一つか二つ年上のように見えた。
その男性は見ただけで瀕死の重傷と分かった。服は胸のところが大きく裂けており、上半身は血だらけだった。意識はあるようだが、すでに朦朧としており、顔色は土色になりつつあった。
「さ、祭司さま、お願いします。私の回復呪文ではもうどうすることもできなくて……」
回復士らしい女性はエミリアを見て、その若さに驚いたようだが、祭司の祭服を見て、そのまま彼女に話しかける。
ギルド宿舎の救急処置室にいるのは高ランクの回復士だけである。一瞬、エミリアの若さを見て不安そうに見えたものの、すぐにそれを思い出したのか、敬意ある話し方だった。
「わかりました。すぐにベッドに運んでください」
「アラン、アラン、しっかりしろ。もう宿舎に戻ってきたぞ。もう大丈夫だ」
「ううぅ……」
アランと呼ばれた剣士の男性は、弱々しいうめき声を出すだけで、まともに返事が出来ないようだった。
魔道士らしい男性と、幻術士の女性がアランをベッドに乗せる。
「メアリーさん、この方の上着を取ってください」
「はい」
メアリーはすぐにアランの血だらけの上着を胸のところからハサミを入れて、開く。
その瞬間、メアリーが大きく息を呑んだ。
パーティのヒーラーに回復呪文を受けたためか、出血も止まりつつある。しかし、メアリーが上着を脱がしたときに、見えたのは、目を背けたくなるようなひどい有り様だった。右肩から左の腰まで巨大な数本のツメでえぐられた大きな傷があった。その傷は深く、内臓も相当に傷つけられているのは間違いなかった。
それと同時に、冷酷な事実がエミリアに突きつけられる。
(これは……、もう助からない)
おそらく、自分の呪文では、いや、どんな大魔幻語使いであっても、この男性を救うのは不可能に見えた。というよりも、常人ならとっくにすでにこと切れていてもおかしくないぐらいの状態なのだ。
魔道剣士として強い肉体と精神力を持っていること、そして何より魔力のためにまだ生きているのは明白だった。
「もしもし、聞こえますか。今から治療しますからね。私の名前はエミリアです、分かりますか」
「……はい、エ、エミリアさん」
エミリアの呼びかけに意識を取り戻したアランが、弱々しくうめくような声で答える。
「あなたのお名前は何ですか」
「ア、アランです……」
「アランさん、今楽にしてあげますからね」
そう言って、エミリアは鎮静呪文をかける。
それまで、苦痛に顔をゆがめていたアランは、その呪文のためかいくぶん表情が和らいだ。そして、再び意識を失った。
「ア、アラン、目を開けろ」
「アラン、しっかりするのよ」
意識を失ったのを見て、仲間たちが慌てて呼びかける。
「大丈夫です。私の呪文で眠っているだけです」
エミリアが安心させるようにうなづきかける。
「さ、祭司様、どうか、アランを助けてやってください。アランは、アランは、オレのせいで……、オレをかばうために……。うううっ」
そばに付き添っていた魔道士が泣き崩れた。
エミリアは応急的な呪文をいくつかかけた後、沈痛な表情で顔を上げ、顔面蒼白で立ちつくしている他のメンバーたちに話しかけた。
「アランさんにご家族はいらっしゃいますか」
「は、はい。確か両親と、お兄さんがいると聞いています」
幻術士らしい女性が答える。
「それでは、ご家族の方に急いでここに来てもらってください」
「そ、それは……、もしかして……」
幻術士がうろたえた声を出す。
この状態で家族を連れてくる理由、それは聞くまでもなく明らかだった。
「お願いします。早く……」
それを聞いて、魔道士が
「そんな、そんな。助けてくれ、お願いだ。アランを助けてくれ」
半ばパニックになったように立ち上がり、エミリアに取りすがろうとする。
「下がってください。そのようにされては治療ができません」
穏やかな声で、優しく言い聞かせるようにエミリアがたしなめる。
「た、頼む、この通りだ、アランを助けてくれ」
しかし、魔道士はその声など聞こえないかのように、エミリアの両腕を掴み、必死に懇願する。その顔は自責の念からか、苦痛に引きゆがんでいた。
「お下がりなさい」
エミリアは特に声を荒げたわけでも、大きな声を出したわけでもない。むしろ、いつも通りの優しく柔らかい物腰である。しかし、その声には何か聞く者を従わせる威厳と神々しさがあった。
魔道士が雷で打たれたようにビクっとする。
「は、はい。すみません……」
そして、正気を取り戻したかのように、腕を離し、あわてて後ろに下がった。
「お気持ちは分かります。しかし、今はこらえてください」
「は、はい……」
魔道士が落ち着きを取り戻したのを見て、エミリアはまた幻術士に向き直る。
「事態は一刻を争います。今すぐご家族を連れてきてください」
「わ、わかりました。行ってきます」
そう言って、幻術士が隣の部屋に走っていった。おそらく、魔法陣を使ってどこかにテレポートするのだろう。
やがて、魔方陣が発光し、また静寂が戻った。
それから一刻後、エミリアは懸命にアランの治療を続けていた。
アランの容態は、ここに運び込まれてきたときよりも確実に悪くなっている。もともと、この時点で生きていること自体が奇跡なのだ。エミリアのさまざまな回復呪文のおかげで、悪化の速度が遅くなっているにすぎない。このままいけば、まもなくアランの生命の火が消えることは間違いなかった。エミリアは焦っていた。
「ご家族の方は、まだですか?」
「まだ何の連絡もありません」
メアリーが応える。
(だめ、もう間に合わない……)
エミリアは自分のこれまでの経験から、愛する者の臨終に立会い、最後の言葉を交わすことがどれほど大きな意味を持つか分かっていた。「死に目に会えなかった」「最後に一言声をかけてやれなかった」という思いが後悔や負い目という形で後に残れば、立ち直るのに大きな妨げになるのだ。
これは、亡くなる者にとっても同じで、伝えたい思いを伝えずに亡くなると、心残りがいっそう大きくなり、いつまでも霊のまま地上をさまよったり、最悪の場合は妄執だけが残り悪霊になることすら起こりうる。たとえ死が避けられなくても、逝く者と遺される者、両者の魂を救わなければならない。エミリアは必死だった。
(もう、仕方がない……この呪文だけは使いたくなかったけれど……)
エミリアは、このような場合に備えて、非常手段として自分が編み出した呪文を持っていた。それは、自分の生命エネルギーを直接相手に注ぎ込み、魂が抜けないようにする術だった。
ただし、この呪文には大きな欠点があった。それは、エミリアが自分の生命力とマナを対象者に注ぎ込み続けなければならないため、他の呪文が唱えられないことだ。つまり、この術をかけることは、今行っている回復呪文をすべて止めてしまうことであり、それは、アランの命を救うのを放棄することを意味していた。
たとえどんな偉大な魔幻語使いであっても、今のアランの命を救うことはできない。それは、最初から分かっていたことではあった。しかし、だからといって、ここで回復呪文をやめてしまうのは、つらい決断であった。この呪文は回復させるためではなく、あくまで死を受け入れて、それを遅らせるだけでしかないのだ。とは言え、ここで決断を遅らせて、家族の到着に間に合わなければ、それこそ、誰も救えなくなる。
エミリアは覚悟を決めた。そして、アランの胸に手を当て、呪文の詠唱に入る。すぐにエミリアの体が薄い緑色の光に包まれる。そして、胸に当てた手からその光がアランにも注ぎ込まれ、アランも薄い光に包まれた。
アランの顔色はみるみるうちに生気を取り戻した。
それを見て、パーティのメンバーたちが声を上げる。
「アランの顔色がよくなったわ」
「アラン!」
「いいえ、これは私の生命力を注いでいるだけです。もう、アランさんは私の生命力を借りてしか命を維持できないのです……」
「そ、そんな……」
一瞬、事態が好転したのかと勘違いしたパーティのメンバーたちは、エミリアの言葉を聞いて、状況がよくなるどころか、もう取り返しのつかないところまで来ていると知り愕然とした体で立ちつくした。
重苦しい雰囲気が部屋を覆う。
「メアリーさん」
しばらくして、エミリアが隣に控えていたメアリーに声をかけた。
「はい」
「アランさんのご家族が到着される前に、お顔を拭いてあげてください」
「承知しました……」
メアリーが言われたとおりに、水で濡らした布で顔をぬぐってやり、切り開いた服を元に戻した。
そのときだった。
低く唸る音とともに隣の部屋の魔方陣が光りだした。
「先生っ、戻ってきたみたいです」
メアリーがそう言うのと同時に、光が消え、幻術士が診療室に入ってきた。後ろに、老夫婦とアランの兄らしき人物------すなわち、これがクリードだった------もついてきている。
「祭司さま、遅くなって申し訳ありません。ご家族をお連れしました」
「ありがとう。すぐに、こちらへ」
老婦人は、ベッドにアランを見つけると、駆け寄って取りすがった。
「ア、アラン、どうしてこんなことに……。ううぅ」
「さ、祭司さま、息子は、アランは、アランは助かるんですか?」
父親らしい初老の男性がエミリアに尋ねた。
母親もすがるような目で、エミリアを見上げる。
エミリアは沈痛な表情で、両親たちを見つめて答えた。
「……残念ながら、ここに運ばれてきたときはもう手の施しようがありませんでした」
「そんな、アラン、アラン。うううっ」
母親がアランの手を両手で握り締め、嗚咽し始めた。
「あ、あと、どれくらい……」
父親が尋ねようとしたが、最後まで言葉にならなかった。
「……」
エミリアは、一瞬言葉に詰まったが、はっきりと答えた。
「アランさんは……、もうまもなく天に召されます……」
「そ、そんな……」
「もう時間がありません。アランさんの意識を戻します。お別れの言葉をかけてあげてください。よろしいですか」
両親とクリードがその言葉にうなづくのを見て、意識を戻す呪文をかけた。
「……ん」
ほどなく、アランが目を覚ます。
「アラン」
「アラン、聞こえるか、アラン」
目を開けたのを見て、両親がアランのそばに顔を寄せ、口々に話しかける。
「……兄さん、それに父さん、母さんも」
声はやや小さかったが、意識ははっきりしてきたようだった。上半身の傷がなければ、朝に眠りから覚めたと言われても信じられるくらい、穏やかな表情である。
「アラン、ううぅ」
母親はアランの手を握り嗚咽し始めた。父親はだまってうなづいた。
「どこか痛むか」
クリードがアランに声をかける。
「ううん。大丈夫だよ。すこし眠たくてふわふわする感じがするだけで、気分はいいよ」
「そうか……。そうか……」
しばらく、言葉を探すようにクリードも両親も黙っていたが、アランが先に口を開いた。
「兄さん……」
「どうした、アラン?」
「兄さん、僕は……兄さんみたいに……偉大な魔幻語使いになれなかったよ」
その言い方は、すでにアランが死を受け入れていることを示していた。一瞬、クリードは言葉に詰まったが、すぐに言葉を継いだ。
「ばか者。もうお前は剣士としてもマジスタとしても一人前だ。それに、一人の男として立派だぞ。話は聞いた。仲間をかばって傷を受けたそうじゃないか。私は、お前のような弟を持ったことを本当に誇りに思う」
「ふふふ。兄さんが僕を褒めるなんて珍しいね……」
「何を言う、私はいつもお前のことを、いつか私を追い抜いていくのだと思っていたのだぞ」
「そうなんだ。それを聞くと、ちょっとうれしいな……」
アランは、静かに微笑んだ。
「父さん、母さん……」
「ああ、ここにいるぞ」
「……あんまり親孝行できなくて、ごめんね」
「ア、アラン。ううっ」
「何を言うんだ、アラン、お前はワシたちにとっては、自慢の息子だ。何、こんなケガ、またすぐに元気になるさ」
「ううん。僕はこれでも魔道剣士なんだ。自分の死期ぐらいは分かる。残念だけど……」
「で、でも、こんなに元気じゃないか……」
「違うんだ。これは、ここにいるエミリアさんの呪文なんだよ。エミリアさんが自分の生命力を注ぎ込んでくれているのがよく分かる」
「アラン……」
「うううっ」
「父さん、母さん、今まで、育ててくれて、本当に……ありがとう。僕は今まで、本当に幸せだったよ……」
アランの父親はそれを聞くと、こぶしで涙をぐいっと拭いて、微笑みながら言った。
「アラン。ワシたちこそ、お前のような息子を持って、心の底から幸せだった。お前はワシたちの誇りだ」
「アラン、アラン、うううぅ」
アランの母親のほうは、もう言葉も発することが出来ず、ひたすらアランにすがりついてむせび泣くだけだった。
「僕のパーティはここにいるかな?」
アランのパーティのメンバーたちは、クリードたちが到着してからは、家族の最後のひと時を邪魔せぬよう、やや後ろに控えていたが、それを聞いて、ベッドのそばにやってきた。一同全員が涙を流していたが、中でも魔道士の男性は顔が青ざめ、打ちひしがれていた。
「アラン、す、すまない。ゆ、許してくれ、オレなんかをかばって、オレが呪文を失敗したせいで、オレが、オレが……」
「何を言ってるんだライナス。君のおかげでなんとか魔物を倒して、脱出できたんじゃないか。僕がこうなったのは自分の未熟のせいだよ。それに、あのとき君をかばわなかったら、僕は一生後悔していたに違いない。だから、自分が後悔したくないからこうしたんだ。君のせいじゃないよ」
「だ、だけど……」
「いいんだ。それよりも、僕の分までがんばってくれよ。ずっと見てるからな。修行をサボったら、ひどいぞ。そうだな、天から雷でも落としてやる」
そう言って、アランは微笑んだ。その微笑みは、まるで死を受け入れて、乗り越えたかのようにおだやかで、透き通っていた。
「ア、アラン」
とうとう魔道士は大声を上げておいおい泣き出した。
「みんなも元気でね。楽しかったよ……」
「アラン……」
回復士が泣きじゃくりながら言った。そのそばで、幻術士も涙を浮かべながらうなづく。
「ああ、そろそろ……、お別れ……かな……」
アランが、少し眠そうな声で、つぶやくように言った。
それを聞いて、その場にいた全員がエミリアを振り向く。
だが、エミリアは黙って首を横に振るしかなかった。
もう、エミリアの術ではアランの魂を留めておくのが 限界に近づいてきていたのだ。自分が倒れるまで生命エネルギーを注ぎ込むつもりでいたが、その前に呪文の強さが死の力に勝てなかったのだ。
「父さん、母さん、兄さん、そしてみんな。今まで……、ありがとう。こうやって……、最後に、みんなに会えて本当にうれしかった。なんだか、ちょっと……、眠たくなってきちゃった……」
アランの声がだんだん小さくなっていき、そして、本当に眠りに落ちるかのようにまぶたが少しずつ閉じ始める。
「アラン。後のことは何も心配せず、今は休んでくれ」
クリードが優しくアランの頬に手を当てていった。
「アラン」
「アランっ」
周りの者が口々にアランの名前を呼ぶ。
「みんな……、お休み。あぁ、明日もまた冒険日和かな……」
最後はつぶやくようにそう言って、ふうっと息を吐き、アランは眠るように目を閉じた。その顔は安らかに微笑んでいた。
そして、同時に、エミリアとアランを包んでいた、薄い緑色の光も静かに消えていった。
「アラン、アラン、アアァァ」
母親がアランにかぶさって大声を出して泣き始めた。
父親も涙を流しながら、その背中をさすってやる。
しばらくの間誰も口を聞かなかった。ただ、人々の嗚咽だけが部屋に響いていた。
やがて、クリードがエミリアを向いた。
「エミリア殿、と申されたか」
「はい」
「私はアランの兄でクリードと申します。このたびは、弟が大変お世話になりました」
クリードが頭を深々と下げた。
クリードは泣いてはいなかったが、憔悴しきった顔がどれほど深い悲しみを感じているのかを物語っていた。
「いえ、私の力不足で、申し訳ありません。もっと長く呪文が続けばよかったのですが……」
「何を言われる。私も一人のマジスタとして、そして同じ魔幻語を使うものとして、アランの傷がどれほど深かったか、そして、エミリア殿の術がどれほどご自身に負担の掛かるものだったのかも分かっております」
「いえ、私のことなどは……」
「そのおかげで、最後に言葉を交わすことが出来て、本当によかった。それに、アランも悔いを残さず逝けたと思います。本当にありがとう」
その言葉を聞いて、魔道士がクリードと両親の方を向いて、土下座した。
「も、申し訳ありません。オレの、オレのせいなんです。オレが呪文に失敗したせいで……」
そう言って、良心の呵責に耐え切れなかったのか、魔道士は頭を床にこすりつけたまま、また激しく泣き出した。
「ライナス君といったね」
クリードが、しゃがんでライナスの肩に手を置き、優しく面を上げさせた。
「私もマジスタの一人、この仕事がどれだけ危険か分かっているつもりだ。これは、私の両親も同じだと思う。君たちは君たちの能力の限り、懸命に戦ったんだろう? 君のせいじゃない」
「でも、でも……」
「一つだけ、頼みがあるんだ」
「はい、何でも、どんなことでもします」
「私からの、遺族からの願いだ。私の弟が命を賭して守った君は立派なマジスタになってくれ。そして、いつか、私たちが、アランが守ったのはこんなに偉大な人物だったのだ、と誇りを持てるようになってくれ。今となっては、それが願いだ。頼むから、馬鹿なことをしてアランが無駄死にしたとだけは私たちに思わせないでくれ」
「は、はい……。はい……」
魔道士は、それ以上言葉に出来ず、ただクリードにすがりついて泣くのみだった。