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公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活  作者: ハル
◆第一巻 プロミッシング・ルーキーズ(有望な新人たち)
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第22話 テレポート(挿絵あり)

「巨人!いざ、参る!」


 ミズキが巨人に向かって叫びながら、ものすごいスピードで突進する。

 巨人はそれに気がついたらしく、振り返ると、こぶしを振り上げ、一気に振り降ろす。

 こぶしに叩き潰されるかと思わせたその直前に、ミズキは、まるで自分の重さなど羽ほどもないかのように、落ちてくるこぶしの上にポーンと軽やかに飛び乗り、さらにそれを足台に巨人の頭上はるか高くに飛び上がった。


「いまだ、撃てっ!」


 剣を逆手に持ち替えながら上空から叫ぶ。


『雷撃!』


 クリスは、両手に雷のエネルギーを集めて、前に大きく突き出した。雷のかたまりが激しく放電しながら、クリスの手から放たれる。そして、それは一直線にミズキに向かい、直撃した。

 そして、その瞬間、激しい雷で爆発したかのようにまばゆい光が放出された。


「ぐあぁぁぁ」


 ミズキの口から断末魔のようなうめき声がほとばしる。



挿絵(By みてみん)




 だが、それでも体勢を崩すことなく、巨人の頭上で上下反転をして真っ逆さまに落下していく。


「ハアアァァァ」


 ミズキが気合いを発すると同時に、身体の発光が激しくなり、落下速度がさらに速くなる。

 あまりの速さに、発光した残像が稲妻のように見えた。

 すぐにその光はすべて刀身に集まった。刀が放電しながら、まばゆいばかりの光を放つ。

 そして、自分の身体が巨人とぶつかる瞬間、刀を巨人の額につきたてた。刀はまるで砂を刺したかのように、いとも簡単に巨人の眉間に突き刺さった。同時に刀身に蓄積されていた雷の光が一気に巨人の額に流れ込む。体全体が一瞬だけ白く発光した。


「グオーン」


 巨人は体をのけぞらせ、それまで聞いたことのないような断末魔の叫びを上げた。そして、もがきながらも、額に突き刺さった形になっているミズキの刀を払おうとする。だが、その前に、ミズキは、そのまま体を翻し一回転し、反動で額から刀を抜き、片ひざで着地する。

 そのまま巨人に背を向けたまま立ち上がり、刀を鞘に戻す。


「雷鳶」


 そう言ったとたん、地面に崩れ落ちた。


『ヒール!』


 すかさず、ルティが最後の力を振り絞ってミズキに回復呪文を飛ばした。そして、自分自身も疲労困憊で体を支えられず、その場に倒れこむ。


 巨人は、額に開いた穴から小さな稲妻をビリビリと放電させながらも、前に進もうとしたが、やがて金属が軋むような音を立てると、完全に停止し、仰向けに倒れた。そして、地面に横たわったままピクリともしなかった。先ほどまで不気味に赤く光っていた目は、光を失い真っ黒になっていた。


「今度こそ、やったか」

 

 剣を杖に立ち上がったグレンが、倒れた巨人を見ながら歩き出す。


「ミズキ、ミズキは?」


 パルフィがふらつきながらも周りを見回すと、ミズキはまだ地面に倒れたままだった。そして、ルティの回復呪文を受けたにもかかわらず身動き一つしていない。


「ミ、ミズキ、ぐうぅ」


 クリスは、全身が砕けちってしまいそうなほどの激痛に呻きつつ、ミズキに向かってよろよろと歩み寄る。

 しかし、数歩歩いたところで、激しく咳き込んだ。


「ゴホッ、ゴホッ」


 クリスは口に当てた自分の手を見やって、血を吐いたことを知った。内臓がやられているのだ。だが、クリスはそれにかまわず、ミズキのそばに行こうと足を踏み出す。しかし、足が自分の体重を支えきれなかった。ガクンと崩れ落ちそうになるところを、今度は、グレンが自分の痛みに耐えながら横から支えた。


「大丈夫か、クリス……」


 グレン自身も、苦痛に耐えながらクリスの左から抱えてやり、声をかける。


「な、なんとか……」


 息も絶え絶えにクリスがかろうじて答える。


「……そ、そういう、グレンは大丈夫かい?」

「ケッ、肋骨が何本か折れて、血を吐いているだけだ、問題はない」


 クリスを肩で支えてミズキの方に歩きながらグレンが言った。だが、時折見せる苦痛に歪む顔と、荒い息がそれが強がりにしか過ぎないことを証明していた。


「そ、それは、心配したらいいのかな、それとも安心したらいいのかな……ふふ、うっ、ゴホッ」


 クリスは笑おうとしたが、また咳き込んだ。


「無理するな。だが、口がきけるなら上出来だ。とりあえず、ここでじっとしてろ」


 そう言って、グレンは倒れているミズキのそばに座らせた。


「ぐうぅ」


 クリスは、呻きながらも地面に腰を下ろす。

 だが、このような状態にもかかわらず、クリスは安堵していた。本来なら死んでも文句は言えないところだったのだ。


(二度目で慣れた分だけ、負担が少なかったのかもしれない……)


 二度目に呪文を発動させたとき、一度目よりもスムーズな発動だった。おそらくそのおかげでこの程度ですんだのだ。


 こうしている間に、グレンは、ミズキのそばにかがんで首筋に手をやり脈を取っていた。

 周りを見渡すと、パルフィとルティもよろよろとこちらに向かってくる。


「ミ、ミズキは?」


 パルフィが心配そうにたずねる。


「大丈夫だ、脈はある」

「そうですか、よかった……」


 ルティがつぶやくように言いながら、精根尽き果てたようにしゃがみこんだ。


「たが、このままだとまずいな。早く手当てをしてやらねえと」

「すぐにここを出ましょう」

「問題は、どうやってここから出るかだな……」

「……」

「ここから出る方法は知ってるか、クリス?」

「たぶん、あの部屋の装置を操作しないといけないんだと思う」


 ケフェウスは、あの部屋から昇降機の鍵をかけた。つまり、装置と昇降機の扉が何らかの形で連動していると見て間違いない。ただ、それはおそらくクリスたちでは不可能である。

 小部屋を見ると、ケフェウスは何やら懸命に装置を操作していた。

 まさか巨人を倒されるとは思っていなかったのだろう。クリスたちを構う余裕はないようにみえる。


「ということは、昇降機とやらの扉をなんとかこじ開けて出るしかねえってことだな」

「待って。これ何の音?」


 パルフィがグレンを制して、あたりに耳を傾ける。


「ギギギギ」


 と何か金属のこすれる音が聞こえてくる。しかもそれは、先ほどの巨人が出てきた空洞からだ。

「ま、まさか」


 パルフィがそう言うのを見計らったように、空洞の奥から巨人が出てきた。しかも一体出てきたと思ったら、そのあとにも、そしてその後にも新たな巨人が姿を現した。今度は四体である。


 ケフェウスの声が聞こえてくる。


『みなさん、お疲れ様でした。まさか、一体倒されることになるとは思いませんでしたが、おかげで、貴重な記録がとれたので、よしとしましょう。それでは、次は四体と戦っていただきますよ。まあ、すぐにあの世に行くことになるでしょうがね』

「……う、うそ」

「まだいたのかよ……」


 状況は絶望的であった。一体倒すのも命がけで、 全員がもうほとんど歩けないぐらいのダメージを受けたのだ。いまならゴブリンにもやられるかもしれないぐらいだ。巨人をさらにあと四体、しかも同時に倒すのは、不可能であった。


『ん? もしかして、一体しかいないと思い込んでいたのですか? ハハハ、それは、残念でしたね』


 ケフェウスの勝ち誇った笑いが耳に障る。だが、クリスたちは、それに反応する余裕は一切なかった。


 四体は壁の中から出てくると、周りを見渡すしぐさを見せた。そして、クリスたちを見つけると、一瞬動きを止め、そして、戦闘態勢に入ったかのように目が赤く光る。

 クリスは呻きながらも何とか立ち上がろうとしたが、かなわず、床に手をつき巨人を見上げるのが精一杯だった。

 グレンはよろけながらも立ち上がり、クリスたちの前に出て剣を構えたが、もはや立っているのもやっとであった。

 パルフィも立ち上がって呪文を唱えて、手のひらに火の玉を出したが、「シュウ」という音ともに、消えてしまった。

 ルティは肩で息をしながら呆然と座り込んだままだ。そして、ミズキはまだ意識を取り戻していない。


(こんなところで……)


 つい数日前までは、平和な村で厳しいけれども充実した修行を行っていた自分が、今ここで果てようとしていることに、クリスはまだ信じられなかった。


(アリシア……、ごめん、君の仇は取れそうにもない……)


 自分を助けてくれた恩に報いることができなかったことに、後悔の念を感じる。


「ギギギギ」


 言いようのない金属音をさせ、四体が襲い掛かってきた。


 その瞬間だった。


「えっ?」


 クリスたちの目の前に突然三体の影のようなものが現れ、それは三人の男女の形になった。

 そして、その三人は、出現すると同時にそのまま巨人と戦い始めたのだ。


 クリスたちは、目の前で起こっていることが理解できず、呆然としたまま固まっている。

 三人のうち一人は初老の戦士のようで、小柄ながらも光を帯びた二本の剣を振り回して二体を相手にしている。残りの二人はクリスよりもやや年上に見える男性と女性であった。女性の方は幻術士、男性の方は魔道士らしい。

 しかも、クリスはその魔道士に見覚えがあった。


「あ、あの人は……」


 魔道士には珍しく、長身でがっしりとした体つき、威風堂々とした立ち回りと強力な呪文。一度しか会う機会はなかったが、いつか必ず自分が追いつきたいと思った人物。


「クリード……」


 クリードは、呆然としているクリスたちを振り返って叫んだ。


「遅れてすまない。中に入るのに思いのほか手間取ってしまった」


 まだこの状況を理解できていない彼らに、今度は幻術士が声をかける。


「あんたたちを、助けに来たのよ」



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