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公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活  作者: ハル
◆第一巻 プロミッシング・ルーキーズ(有望な新人たち)
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第21話 サムライナイトの本懐

「おいおい、冗談だろ」

「くっ、まだ動けるのか」


 巨人が動き出すのを見て、グレンたちはあわてて戦闘態勢に戻る。

 ケフェウスが嘲笑が響く。


『ハハハ。その程度の雷呪文で、この鉄の巨人が倒せるとでも?』

「チッ」


 巨人は、完全に立ち上がると、やや背を曲げ戦闘の構えをとり、力を込めるようなしぐさをする。そして、その構えを解いたとき、何事もなかったかのようにクリスに向かって攻撃してきた。しかも、今度は先ほどまでよりも速いスピードである。


「クソッ」


 クリスのもとに行かせないようにしようと、グレンが間に入って立ちはだかるが、巨人はそれを片手で払いのけた。グレンは、飛んでくる巨人の平手を剣で受け止めようとするも、吹っ飛ばされ、地面にたたきつけられる。


「ぐはっ」

「グレン!」

「だ、だめよ、全然効いてないわ」


 巨人はダメージから立ち直ったのか、まったく最初と変わらないのは明らかだった。

 そして、巨大なこぶしを握り大きく腕を振りかぶって、これまでにみたことのないようなスピードで、クリスに突っ込んでくる。その目はまるで怒っているかのように赤くギラギラと光っていた。


「クリス、逃げて!」


 パルフィが叫ぶが、クリスは肩で大きく息をしており、もう立っているのが精一杯で、避けることもできない。


「いかん!」


 すんでのところでミズキがクリスに飛び寄り、脇に抱えて、飛んできたこぶしをよける。空振りしたこぶしはミズキをかすめて、床を激しくたたいた。あまりの強さに「ズン」と鈍い音がして、この巨大な部屋全体が揺れる。

 巨人は、さらに二人の後を追おうとするが、そうはさせまいとパルフィの火の玉が巨人に直撃した。巨人は振り返り、床を震わせながらパルフィに向かって歩いていく。


「クリス、意識はあるか?」


 ミズキはクリスを自分の後ろにかばいながら、攻撃に備えつつ、背中越しに話しかける。巨人は今パルフィとグレンが相手をしていた。


「う、ぐううっ、だ、大丈夫だ……よ……」


 もはや立っていることさえできず、ガクッと片膝をついて、息も絶え絶えにクリスが答える。体中がバラバラになるような激しい痛みがクリスを襲っていた。意識が飛んで、目がかすんでいくのをぎりぎりで踏みとどまっているような状態だった。

 雷呪文を撃った瞬間、ルティの回復呪文は確かにクリスに命中していた。しかし、それ以上に呪文によるダメージが大きすぎたのと、体内の臓器がボロボロに傷ついており、ルティの呪文では治癒しきれなかったのだ。見た目はあまり傷を負っていないように見えたが、体内が傷ついていたのである。それでも、彼の呪文がなければ、さらに深刻な状態だったであろう。

 確かに、クリスの予想したとおり、準備段階までは以前に唱えたときよりも負担が少なかった。この分なら、さほどのことはないのではないかと、甘い期待も抱いたが、実際に、呪文を発動したときの反動は予想以上だったのだ。


「ルティ、クリスを見てやってくれ」


 ミズキがルティに呼びかける。


「は、はいっ」


 ルティも疲労でよろついていたが、クリスの元に駆け寄って、もう一度回復呪文をかけた。

 緑色の淡い光にクリスの体が包まれる。しかし、それほど回復したようには見えなかった。


「やはり、体内が激しく傷ついてます。私の呪文では回復し切れません……」

「い、いや、それでも大分マシになったよ」


 クリスはルティたちを見上げて、無理に微笑んだ。

 確かに先ほどよりは多少状態がよくなったようだが、しょせんは焼け石に水であり、まだ正常には程遠かった。

 そのとき。


「きゃあっ」

「パルフィっ!」


 前衛では、パルフィが巨人の攻撃を裁き損ねて、床にたたきつけられていた。


「ルティ! パルフィに回復呪文を頼む」


 グレンが後ろを振り返って、ルティに叫ぶ。


「は、はいっ」


 あわてて、ルティがパルフィの方に向かってよろつきながらも走っていく。


「……」


 後に残ったミズキは、前方の巨人から目を離さず、しばらく何かを考えていたが、やがて何かを決心した様子で、背中越しに話しかけた。


「クリス……。無理を承知で頼みがある」

「な、なに?」

「……今の術をもう一度撃てるか?」


 声色から相当の覚悟を感じとり、クリスはハッとしてミズキを見上げた。彼女は自分の状態を知った上で、そしてもう一度撃てばどうなるのかも分かった上で、頼んでいるのだ。知り合ったばかりだが、よほどの理由がなければ、このようなことをいう人物ではないことは分かっていた。


「ど、どうかな。もう一発分ぐらいならマナは残っているけど、も、もう体が持たないかもしれないから、さっきほどは強くは打てないかも」


 それに、あの呪文では倒せないことが先ほどの一撃で分かったはずである。

 何を言い出すのだろうと、ミズキを見上げた。

 そして、その理由は、すぐにわかった。


「かまわん、今度はそれを私に撃ってくれ」

「えっ、ど、どういうこと?」


 一瞬痛みも忘れて、クリスが問い返す。


「さっき、私にはランク3の技があるといっただろう? 詳しくは略すが、サムライナイトの技と言うのは、剣技と魔道を掛け合わせることで成り立っている。そして、その技の剣技だけなら、私もすでに習得しているのだ。ただ、技の発動に必要な雷を発生させることが今の私では無理なだけなのだ。先ほどのクリスの呪文、あれぐらい強力な雷撃なら、おそらく私の技に必要な威力がある。だから、雷を私に撃ってくれれば、それを使って技を出す」

「でも、それでも、君の体が……」

「心配は無用だ。こういっては何だが、私はクリスよりは鍛えているつもりだ。おぬしがランク2に耐えられるなら、私はランク3に耐えてみせる」


 そう言って、ミズキは肩越しに後ろを振り返り、かすかに微笑んだ。しかし、クリスは、その微笑とは裏腹に、彼女の目には相当な覚悟が表れているのを見てとった。


『仲間のために落命するは、サムライナイトの本懐!』


 昨日、オークと戦っているときにミズキが言った言葉である。彼女はここで命を落してもいいと思っているのだ。


「しかし……」


 しかし、だ。術者にこれだけのダメージを与える呪文をこともあろうに仲間に撃つのは抵抗があった。


「もうそれしかない、二人とも、やるならさっさとやれ! このままだと全滅だぞ」


 クリスたちの会話を聞いていたグレンが、巨人の攻撃を裁きながら叫ぶ。

 そして、反撃とばかりに技を出した時、巨人が彼の攻撃を受け流した。


「なにっ!」


 これまで、全く避けられていなかった攻撃がいきなり避けられて、グレンが不意を突かれた。

 飛んできた巨人の反撃をかわしきれずに今度は自分が地面にたたきつけられる。

 さらにかわす間もなく足で蹴り飛ばされた。


「ぐはっ」


 その衝撃で何度もバウンドして、床を転がる。


『ははは。この巨人には優秀な学習能力がありましてね。何度も同じ攻撃は喰らいませんよ』

「ぐうう」

「ヒール!」


 すぐにルティの回復呪文が飛んでくる。

 回復したグレンはなんとか巨人がやってくる前に立ち上がり、事なきを得るが、完全に回復できていないのか、その足取りは重く、動きも鈍かった。

 明らかに、回復呪文の効果が薄れていた。


「グレン、もしかして、もう回復呪文が効かないのでは……」


 呪文の力から考えると、もっと回復していいはずである。


「大丈夫だ。ビシビシ効いてるぜ」


 グレンは景気よく答えるが、その言葉とは裏腹に、声に力がなく、体もふらついていた。


 一般に、回復呪文は、呪文の力だけで回復するのではなく、もともと対象者が持つ生命エネルギーを呪文の力で瞬間的に吐き出させて、怪我した部位を回復させるものである。つまり、何度も回復呪文をかけると、その部位の生命エネルギーが枯渇し呪文をかけても効果がなくなるのだ。


「まったく……、うちのパーティはなんでこう……全滅になりそうなコトに巻き込まれるのかな」


 パルフィが冗談めかしていうが、すっかり息が上がり、片ひざをついた。


「ま、まったくです、今回はさすがに、に、荷が重いです」


 ルティは肩で息をしながら、回復呪文をグレンに掛ける。


「クリス!」


 ミズキがその様子を見て、クリスを促した。


「……わかった」


 クリスは、覚悟を決めた。


「僕は撃つので精一杯だから、手加減も何もできないよ」

「かまわん、全力で撃ってくれ」

「よ、よし、じゃあ、いくよ」


 クリスはよろよろと立ち上がり、呪文を唱え始める。それを見て、ミズキは刀を両手に持ち垂直に立てて半身に構えた。そして、つぶやくような声で詠唱を始めた。その瞬間に剣が放電し始める。しかし、その放電の量は、クリスの呪文に比べてかなり小さいものだった。

 一方、クリスも二度目の電撃呪文を激痛に耐えながら唱えていた。

 二人が詠唱を始めたのを見たグレンたちは、巨人が彼らに近づかないように試みるが、パルフィとルティは、巨人の妨げになることはできず、クリスたちに近づかないようにするのは実質グレン一人にかかっていた。

 ルティの弱々しい叫び声が響く。


「グ、グレン、マナがもうすぐなくなりそうです。も、もう、あと一度しか回復できません」


 そういうと、疲労困憊のていでしゃがみこんだ。おそらく、限界近くまで術をかけ続けたのだろう。


「分かった。最後の一発はミズキかクリスに頼む。おめえは、後ろに下がってろ」


 グレンが必死に巨人を食い止めようとしながら言った。

 しかし、ルティはよろよろと立ち上がっただけで、動ける状態ではなかった。

 それを見てチャンスだと思ったのか、巨人がグレンを脇にはじき出し、ルティに向かって巨大なこぶしで殴りつけようとする。


「チッ」


 体勢を崩され剣では止められないとみたグレンは、剣を投げ捨て、横からルティの前に飛び出して立ちはだかった。ルティは先ほどからマナ節約のために、自分のシールドが消えたっきり、唱えなおしていなかったのだ。

 グレンに向かって、両手で抱えても抱えきれないぐらいの大きな鉄のこぶしが飛んでくる。それをグレンは体全体で受け止めた。しかし、それは生身の体に耐えられるものではなかった。


「ぐはぁっ」


 何本もの肋骨が折れる嫌な音がし、口から血を吐くグレン。


「ぬおおぉ、こんちくしょうがぁっ」


 しかし、グレンはこぶしを腹と両手で抱え込んだ。パンチの威力で体ごと後ろに持っていかれそうになるが、少し下がったところで踏ん張り、ルティの前で止まった。

 そのまま巨人の動きを止めるべく、グレンは全身に力を込める。


「ぐふっ」


 グレンの食いしばった口からまた新たに血が吹きこぼれてくる。

 だが、グレンはそれにかまわず、渾身の力で巨人のこぶしを抱え込んで押さえつけていた。巨人は手を取り返そうともがいている。


「いい加減に倒れなさいよっ」


 その隙を突いて、パルフィがグレンの横から飛び出して、これでもかといわんばかりに、次々と火炎の弾を投げつける。火は激しく燃え上がるが、巨人は、ひるみはするものの、ほとんどダメージを受けている様子はない。


「グォーン」


 不気味な叫びとともに、巨人は、グレンがしがみついているのもかまわず、そのまま強引にこぶしを持ち上げグレンもろともパルフィを殴りつける。


「きゃあ」

「ぐはぁっ」


 パルフィとグレンは激しく地面にたたきつけられる。すぐに、起き上がろうとするが、二人は息も絶え絶えで、体を起こすことが出来なかった。

 そして、止めをさそうとするかのように巨人がズシンズシンと二人に向かって動き出す。


 そのとき。


「クリス、行くぞ!」


 呪文の詠唱を終えたミズキは、カッと目を見開き、垂直に立てていた刀を横に倒し、巨人に向かって走りだした。




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