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公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活  作者: ハル
◆第一巻 プロミッシング・ルーキーズ(有望な新人たち)
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第15話 亡霊 vs 幻術士(挿絵あり)

 一方、クリスたちは、ルティの案内で、エミリアから聞いてきた亡霊の出る場所に向かっているところだった。

 森に入ってしばらくは、比較的整備された小道に沿って歩いてきたが、途中でほとんど獣道と同じような道に入り、さらに森の奥に進んでいく。


「ルティ、ホントにこっちで合ってる? なんかすごいところに来たけど」


 クリスが周りを見渡してルティに確認した。


「ええ。大丈夫ですよ。私も薬草を摘みに何度も来たことがありますから」

「こ、こんなところにほんとに神殿跡なんてあるの?」


 パルフィも、キョロキョロ周りを見回して不安そうに言う。

 確かに、うっそうと木が生い茂り、日の光もさほど差し込まないため、薄暗い。神殿を建てるのに適した土地とは到底言えなかった。


「はい。もう少しですから」



挿絵(By みてみん)




 やがて一行は、少し開けた場所に出た。開けたといっても、これまで通ってきたところよりも木が少ないだけで、あたり一面緑一色であることには変わりない。ただ、木が少ないため日光が差し込んできて、これまでとは違い、暗い感じはなく、むしろ幻想的な雰囲気をかもし出していた。


「おそらくこの辺だと思います」

「え、こんなところなのかい?」


 クリスたちは驚いて周りを見回した。


「神殿跡って言ってた割には、何もねえな」

「いえ、雑草や低木に隠れていますが、確かに古代の廃墟ですよ」

「そういえば……」


 一見すると、何もないように見えるが、よく見ると、びっしりと生えたツタやコケや下生えに隠れて、石柱の一部と思われる大きな石があちこちに転がっていたり、何かの台座が倒れていたりしていた。また、単なる傾斜かと思われた地面の盛り上がりは神殿の土台か床の部分だったようで、ひな壇のようになっていた。


「へえ。確かに何かの跡には間違いなさそうだな。しかし、こんなところに神殿作ってどうすんだ。これだと、結構大きかったんじゃねえか?」


 たしかに、床の大きさから考えて比較的立派な神殿だったということが分かる。


「だが、昔はここは森ではなかったのかもしれぬな」

「なるほど、そうか」

「でも、何もいないわね」


 パルフィがやや不安げな表情であたりをきょろきょろしながら言った。


「ああ、魔道士の気配も亡霊の気配も感じられないしな」


 そういいながらも、ミズキも刀の柄に手をかけたまま、油断なく周囲を見張る。


「お、お化けにも気配があるの?」

「無論だ。というより、亡霊は気配というか、気の固まりが凝縮してできたようなものだからな」

「ぼ、亡霊……」

「へえ、そうなんだ。不思議だねえ」


 クリスが能天気に返事するのをパルフィが恨めしそうに見る。


「何のんきなこと言ってんのよ。ぼ、亡霊なんて、こんなところに出るの?。途中に通ってきた暗いところのほうがよっぽど出そうだけど……」


 パルフィが落ち着かないようにきょろきょろと辺りを見回した。


「だが、エミリアさんの話だと、亡霊のフリした魔幻語使いなんだろ」

「あ、そっか。なんだ……」


 なぜかホッとした表情を見せるパルフィ。


「とりあえず、神殿に上がってみようぜ」

「だね。神殿って言ってももう何もないけど」


 一同が、ちょっとした段を上がって、もとは神殿の床であったと思われる土台部分に登ろうとしたときだった。

 クリスたちの周りに、急に半透明の亡霊のようなものが数体現れた。人の霊というよりも、頭から風呂敷をかけたようなシルエットで、手も足もなく、頭部らしきところに大きな黒い穴のような目が二つあるだけだった。そして、それがふわふわと宙に浮いてさまよっている。


「きゃああっ」


 パルフィが、叫び声を上げて慌ててルティの後ろに隠れた。


「お、出たな」

「こやつ、いきなり現れたな。だが、気配を読ませぬとは面妖な……」


 ミズキが刀を抜く。


「ん? なんだ、おめえ、お化けが怖いのかよ」


 グレンも剣を抜きながら、からかい調子でパルフィに言った。


「そ、そうよ。あたし、お化けだけはだめなのよぅ……」


 パルフィはよほど怖いらしく、普通なら言い返すところだろうが、あっさり認め、小柄なルティの後ろでひたすら背を丸めて隠れていた。


「けっ、幻術士なんて人にお化け見せてビビらせる職業のクセによ」

「う、うるさいわね。人に見せる分にはいいのよ」

「パルフィ、相変わらず言うことがすごいね……」

「も、もう何でもいいから、さっさと追っ払ってよ。あっ! きゃあ、いやだ、こっちに来ないでぇ」


 話している最中に、亡霊の一体がふわふわとルティとパルフィに近づいてきたため、パルフィは大騒ぎしながら今度はクリスのところに駆け寄り、その背中に隠れた。


「も、もう勘弁してよ。ルティは、怖くないの?」


 ルティは、亡霊が自分の周りに漂っても、動じることもなく平然としていた。


「私は職業柄、亡霊の類は慣れていますから」

「そっか……、あんたやるわね……」

「だが、コイツが魔道士の化けたもんには見えねえな」

「別に呪いをかけてくる様子もないね」

「というより、こやつらは人の化けた姿には見えんな」

「き、きっと本物よ本物」


 パルフィが震え声で言う。


「では、こやつらは放っておいて、先に進むか」

「そうだね。浮いてるだけで害はなさそうだし」

「う、うぅぅ」


 情けなさそうなうめき声を出して、パルフィもクリスの背中に隠れながらついていく。

 しかし、五人がさらに奥に進もうとすると、ただ当てもなく浮いているように見えた亡霊たちが、色めき立ったかのように蠢き、先頭のグレンの前に素早く移動して、行く手をふさいだ。


「なんだ、こいつら。邪魔しようってのか」


 ゆらゆらと浮かびながら、立ちはだかる亡霊。

 そして突然、亡霊の一体がどこからともなく剣を出し、グレンに切りかかった。


「うおっ」


 グレンがあわてて自分の剣で受けてとめ、はじき返す。


「おいおい、こいつら実体があるぞ、しかも、剣まで使いやがる」

「えっ、亡霊じゃないの?」

「どこの世界の亡霊が剣で人を切るってんだ。見たことねえが、こいつらは魔物だ。半透明で宙に浮いてるから亡霊と思いこんだだけだ」

「どうやら、この奥には行かせたくないみたいですね」

「うむ、そのようだな。しかし、それならなおさら何があるのか突き止めなくてはなるまい」

「よし、みんな。こいつらを倒すよ」

「あいよ」


 クリスの声にグレンたちも態勢を整える。


「ほら、パルフィも行くよ」


 背中に隠れているパルフィに促すと、まだ亡霊であるという可能性を捨てきれないようで


「りょ、了解」


 と震える声でクリスの背中から離れる。


「いくぜ」

「応!」


 グレンの掛け声を合図に、いっせいに攻撃を仕掛けた。グレンとミズキが斬りかかり、パルフィとクリスが攻撃呪文を唱える。



 しかし……


「だめだ、こいつら、全部かわしやがる」


 グレンとミズキが、何度も切りかかるが、亡霊もどきはふわふわ浮いたままひょいひょいと剣をかわしていた。


「浮いているだけかと思ったが、すばしっこいな」

「僕たちの呪文も当たってないよ」


 パルフィとクリスの呪文も、ことごとくかわされていた。


「攻撃力はたいしたことないようだが、こうもかわされるとやりにくいな」


 ミズキの言うとおり攻撃力は低いようで、グレンもミズキも亡霊もどきの剣を難なくさばいていた。しかし、そのあと、反撃しようとしてもかすりもしない。


「ようし、ちょっと待ってよ。あたしが何とかするわ」


 そう言うと、パルフィは呪文を唱えながら、指で空中に模様を書いた。すると、地面に大きく魔方陣が白く浮かび上がり、全体が光りだした。


「えいっ」


 パルフィが両手を前に突き出す。


 その瞬間、それまで空中を漂っていた亡霊もどきが固まったかのように停止した。


「やったっ。成功! 今よっ、金縛りで動きを止めたわ」


 両手を突き出したままパルフィが前衛のグレンとミズキに叫ぶ。

 だが、そのパルフィの声にも反応せず、二人はピクリとも動かなかった。


「ちょっと、何やってんのよ。長く続かないんだから早くやっちゃってよ」

「ば、ばっかやろう。オレも動けないんだよっ」

「わ、私もだ」


 体が硬直したかのように、身動き一つせず、振り返ることもできないようで、前を向いたままグレンとミズキが叫び返す。


「へ?」


 パルフィが間の抜けた声で聞き返した。


「パ、パルフィ、もしかして、その範囲魔法、僕たちにもかけてるんじゃ……」

「わ、私も動けません……」

「あ、いっけない。味方をターゲットから外すの忘れてた……」

「バカ、何やってんだよ」

「ごめんごめん、もう一回かけなおすわ」


 そう言った瞬間、いきなり魔方陣の光が消え、クリスたちは動けるようになった。だが、身動きが取れず動こうと力を入れていたものが、急に開放されたため、たたらを踏んだ格好となった。


「うわっ」

「ちょっ、おまっ……」


 態勢を崩す四人。あわてて、立て直すが、幸運にもバランスを崩したのは亡霊もどきも同じことらしく、宙に浮きながらもよろめいていた。


「もう一回、いくわよ。えいっ」


 再度パルフィが呪文を唱えて、魔方陣が浮かび上がると今度は亡霊だけが固まったかのように動かなくなった。


「よ、よし、上出来だ。いくぜ」

「承知!」


 グレンとミズキが亡霊に切りかかった。

 動かなくなった亡霊もどきを切るのはたやすいことだった。




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