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公認魔幻語使い(マジスタ)の日常生活  作者: ハル
◆第一巻 プロミッシング・ルーキーズ(有望な新人たち)
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第13話 初めてのミッション(1)

(ここは……)


 目が覚めると、クリスはベッドの中で寝ていた。見慣れない天井が視界に入る。一瞬、ここがどこだか分からなかったが、すぐに、ルティの家の二階にある客室だと気がついた。


(……そうだ、昨日ルティに出会って、泊めてもらったんだっけ)


 昨日、オークに襲われていた彼を助けて、その流れでクリスたち四人は彼の家に泊めてもらったのだった。

 パルフィとミズキが山側の客間に寝て、クリスとグレンは教会の中庭を見渡せるその向かい側の部屋に泊めてもらった。ルティは一階の自分の部屋で寝たらしい。


 パーティを組んで初めての夜ということもあり、就寝の挨拶をして二階に上がってきた後も、クリスとグレンの部屋に四人で集まって、今後の方針などを話し合った。結局、寝たのはかなり夜遅くになってからだった。特に、ルティが参加できない以上、この後回復士(ヒーラー)をどうするのかで散々悩んだのだった。

 クリスは昨晩の話し合いを思い出していた。


『回復役がいねえと、やはりどうしようもねえな』

『そうね。ポーションだけじゃ心もとないし、それにポーションを買うお金も馬鹿にならないわよ』

『しかし、今から仲間になってくれるような回復士を探すのは難しいのではないか』

『そうだね。結局、来月の認定試験まで待つしかないんじゃないかな』

『まあ、それでも、都合よくあぶれたヒーラーを見つけるのは難しいかもしれねえな』


 もともと、マジスタはヒーラーが慢性的に不足している。剣士や攻撃呪文を使うものにとっては、マジスタをやる以外には宮廷や軍に仕えるなどしか生きていく手段がない。道場や学問所で教えたり、用心棒などの仕事は、あくまでも高ランクに達してからの話である。それに対して、ヒーラーは、医者や薬師など医療の道と、神官や祭司など聖職者の道が開けている。というよりも、もともと人を救いたいからその道に進むのであって、マジスタとして冒険を重ねて生きていくために回復呪文を学ぶものが少ない。そのため、低ランクのうちから、マジスタのライセンスを取ってパーティに加わるヒーラーの数が少ないのである。


『そうね。やっぱり、なんとかルティを仲間に出来ないかしら』

『でもなあ。エミリアさんにあんなふうに言われると、無理にお願いするのもはばかられるよね』

『確かにそうね』

『いい子なんだけどな』

『うむ。素直でまじめそうだしな。私たちともうまくやっていけると思うのだが……』

『でも、エミリアさん言ってたよね。僕たちがもう少し修行を積めばルティを参加させてもいいって』

『言ってた言ってた。どれくらいまでランクをあげればいいんだろ。2とかじゃないわよね』

『そりゃ、3とか4ぐらいじゃねえか』

『えー、そんなの何年も先の話よね。だいたい、ヒーラーがいないと無茶できないし、無難なミッションしか出来なくなって、よけいにランク上げるのが難しくなるわよ』

『それなら、明日、エミリア殿に聞いてみればどうだろう。私たちがどれくらいまで強くなれば、ルティを参加させてくれるのかとな』

『そうだね。やはり、ルティに入ってもらうのが一番いいと思うし』


 クリスのその言葉にパルフィたちもうなづく。

 せっかく見つけたヒーラーに入ってもらいたいという功利的な思いよりも、むしろ仲間として一緒にやりたい気持ちが一同には強かった。ルティは年端もいかない少年だが、見識もあり、また性格も素直でみんなとうまくやっていけそうだった。それに、本当に死を覚悟した戦いを共に生き延びたことで、単に行きがかりで助けた少年とは思えなかったのである。

 いずれにしても、エミリアにもう一度掛け合ってみてから考えることに決めて、昨晩はそれで寝ることにしたのだった。



「ぐぉー、ふがー」


 ふとクリスが我に返ると、隣のベッドでは、グレンが布団をはだけさせて、滅多に聞かないくらいのすごいいびきをかきながら寝ていた。しかも、おなかをボリボリ掻いている。


(やれやれ……)


 クリスは、風邪を引かないようにグレンの布団を掛けてやった。

 気がつくと、窓から朝日が差し込んできている。夜が明けたばかりらしい。


「今日もいい天気だな」


 クリスは独りごちながら、グレンを起こさないようにそっと窓を開けた。早朝のさわやかなそよ風が入り込んでくる。


(今日から、マジスタとして仲間と暮らしていくんだ)


 昨日出会ったばかりの仲間だったが、やはりお互いに背中を預けて一緒に戦い、死ぬか生きるかの戦いを生き延びたことが大きかったのか、すでに絆のようなものを感じ始めていた。これはパルフィとグレンの間にも言えることらしく、最初は、いがみ合ってチームワークが取れないのではないかと心配したが、いがみ合いも『じゃれあい』の範疇に収まるものになってきて、それなりにお互いに楽しんでいるようなところもあるようだった。


 コンコン


 物思いにふけりながら、遠くに見える山々の風景をしばらく楽しんでいると、ドアをノックする音に続き、パルフィの声が聞こえてきた。


『クリス、起きてる?』

「うん、起きてるよ」

『エミリアさんが、もうすぐ朝食が出来るから下りてきてってさ』

「うん、わかった。……グレン、もう起きなよ。朝ごはんだって」


 クリスは窓を閉め、グレンに声をかけた。



  ◆◆◆◆



「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さまでした」


 エミリアの作ってくれた朝食を食べ終わって、クリスたちが一息つく。


「しかし、昨日の晩飯といい、この朝飯といい、エミリアさんの料理は本当にうまいな。これだと店が出せるぜ」

「あら、ありがとうございます」


 そう言って、エミリアが微笑みかけると、グレンは照れたように視線を外した。エミリアと話すのは慣れたようで、もう赤面はしていないが、それでも微笑みかけられると、まだ直視できないらしい。


「まったくデレデレしちゃって」


 とパルフィは毒を吐くが、エミリアの料理が本当においしかったのか、すっかり満ち足りた表情のパルフィの毒づきは昨日までの切れがなかった。


 そして、朝ごはんを食べ終わって一同が一息ついたのを見て、クリスはエミリアにたずねた。


「ところで、エミリアさん、ちょっとお伺いしたいことがあるのですが」

「はい、なんでしょう」

「昨日、僕たちがもう少し経験をつめばルティを参加させてもいいって言われたと思うのですが、具体的には、どれくらいのランクになれば許してもらえますか?」

「ああ、そのことですね。そうですねえ……。確かに昨日はもう少し経験をつめばというお話をしましたが、それは、単にランクを上げることだけではないのです。経験を積むことには、強くなること以外にも、大切なことが含まれているのです。それがお分かりいただければ、ということでしょうか」

「その、大切なこととは?」

「それは、私がご説明しても本当の意味で分かっていただけるかどうか……。これからパーティを組んでいろんな経験を積んで、初めて自分の身をもって分かっていくことだと思いますので」

「そうですか……」

「では、手がかりだけでも教えてもらえないものだろうか」

「そうですわね……」


 ミズキの問いに、エミリアはどのように説明すべきか考えるふうに視線を落とした。

 そのときだった。

 母屋の玄関のドアをドンドンと何度もたたく音がして、


「祭司さま、エミリア祭司さま、大変だ。開けてくだせえ、大変だ」


 必死な叫び声がドアの向こう側から聞こえてきた。


「まあ、なんでしょう」


 エミリアはすぐに立ち上がり、玄関に向かう。クリスたちも何事かとついていった。

 彼女がドアを開けると、村人らしい若者二人が血相を変えて飛び込んできた。


「あら、アロンさん、それにヨハンさんも。そんなに慌ててどうなさったのですか?」

「祭司様、朝っぱらからすまねえだ。明け方から狩に行った村のもんが、また例の亡霊に襲われただよ。んで、トマスのやつが石にされちまっただ。残りのもんは石になったトマスを抱えて命からがら逃げてきたらしいんだ。また、呪いを解いてやってくれねえだか」


 それを聞いてエミリアが面を引き締める。


「分かりました。案内してください。ルティ、一緒に来てちょうだい」

「うん」

「すみません、みなさんちょっと失礼しますね」


 エミリアは、振り返ってそう言うと、ルティと一緒に若者たちの後に急いで出て行った。

 後に残されたクリスたちは互いに顔を見合わせた。


「石にされたって、どういうことだ」

「亡霊が出たって言ってたわよね」

「とにかく、僕たちも行ってみよう」

「そうね」


 四人はエミリアの後を追って外に出た。



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