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35話:アリシアを守るために精一杯の力を振り絞る

 俺が仁王立ちして目の前の男達に向かって立ちふさがっていると、男達はギロっと睨みつけてきた。威嚇をしてるようだ。


 俺はすぐにポケットに手を入れながら“魔力”を込めていき、男達に向かってこう尋ねていった。


「……お前達はシゼル通りにあるケーキ店“シロワール”から見て向かい側にある裏路地で一体何をしてるんだ。それに裏路地の行き止まりまで女性を追いやってるなんて最低な行為じゃないか」

「はは、見てわかんねぇのかよ。大人の商売ってヤツさ。まぁそんな事はどうでもいいからさっさとどけよクソガキ。まさかそんな弱っちそうな見た目をしてるクセに俺達に喧嘩売って来る訳ねぇよな?」

「もし俺達に喧嘩を売るって言うならこのガキも一緒に売り払っちまうか。男でも若けりゃそれなりに需要はあんだろ?」

「あぁ、確かにそうだな。ガキなら基本的に高値で売れるし、こいつも一緒に攫って売り払っちまうか。ぷはは」

「……なるほど。お前達は人攫いの類か。でもお前達は……この人が誰だかわかって攫おうとしてるのか?」

「んー? 何を言ってんだよオメェ? その女が誰かってどういう意味だよ?」

「この人はエルフェミナ公爵家の令嬢なんだぞ? つまりお前達は貴族様に手を出そうとしてるんだよ!」

「え……なぁっ!?」

「は、はぁ!?」


 俺がそう言うと屈強な男達は全員一斉に唸り声をあげていった。


 俺は冒険者になってからすぐにギルドマスターのダグラスから色々な事を教わった。こういった非合法な犯罪に手を染めている連中の事も教えて貰った。


 だから目の前にいる奴隷売買のために人攫いをしてるヤツらについての基礎知識も教わった事もある。もちろん奴隷売買なんて犯罪行為だ。バレたらすぐに捕まる。


 そしてそんな行為なのはわかっているので、ヤツらも人攫いをする時には一つの条件があるんだ。それはもちろん……。


「マジかよ……クソ! せっかくの上玉な女だと思ったのに、ハズレかよ!」

「おいおい、どうするよ。貴族なんて奴隷商は引き取ってくんねぇよな……?」

「当たり前だろ。貴族なんて身分の高い人間を奴隷商が買い取る訳ねぇだろ。ただでさえ非合法な売買なのに、身分がすぐに割れちまう可能性のある貴族なんて売ったら足が付いちまうに決まってんだろ」

「ってか貴族のクセに何で一人で街中を歩いてるんだよ。っち。バカかよコイツ……!」


 そう言って目の前の男達は悪態を付きながら俺達を睨みつけていった。


 基本的に奴隷売買は犯罪行為だから見元が割れる可能性のある人間は取り扱わない。だから貴族なんて見元がすぐにバレるであろう可能性の高い人間を奴隷商が引き取る訳がない。


 だから俺はコイツらにアリシアが貴族だという事を伝えていったんだ。


「そんな訳でこの女性は貴族の令嬢だよ。だからお前達が攫おうとしても金儲けにはならないって事さ」

「っち。ふざけやがって……せっかく上玉を見つけたって思ったのに無意味だったっていうオチかよ」

「はぁ、最悪だな……それでどうするよ? このままここに居ても何も得られないし、さっさとズラかるか?」

「そうだな。さっさとズラかりたい所だが……だがコイツらをこのまま帰す訳にもいかねぇだろ。おいクソガキ。テメェも貴族なのか?」

「……違う。俺は普通の庶民だよ」

「そうか。それなら別に良い。テメェの事は見逃してやる。だからそっちの貴族の女だけ俺達に渡せ」

「……何でだ?」

「貴族に楯突いちまったら生きていけねぇなんてガキのテメェでもわかる事だろ? 貴族は強い力を持つ権力者共だから厄介なんだよ。だからこのままその女を貴族の家に帰らせる訳にはいかねぇんだよ。俺達の顔も割れてるし……ここで口封じしとかなきゃなんねぇだろ?」

「ひっ……」


 男達はアリシアの顔をじっと見ながらそう言ってきた。後ろからアリシアの怖がる声が聞こえてきた。


 俺はそんなアリシアに指一本触れさせないように手を広げながらこう言った。


「アリシアさんに手を出すな」

「何だよ。テメェみてぇな何の権力も持ってないただのクソガキには興味ねぇって。だからテメェの事は見逃してやるから、その貴族の女を置いてさっさと消え失せろ!」

「俺達もさっさとその女を口封じしたら王都からズラかんなきゃなんねぇんだよ。だからあんま時間もかけたくねぇんだから、テメェはさっさとその女を置いて帰れや!」

「そんなの無理だ。このまま黙ってアリシアさんを見捨てて逃げるなんて事は出来ない!」

「……はぁ。せっかく俺達が優しくしてやってるっていうのによぉ……それなのに俺達の言う事が聞けないなんて……ひょっとしてテメェは馬鹿なのか?」

「どうやらそうみたいだな。それじゃあ仕方ねぇ。このクソガキにも痛い目に遭って貰うしかねぇようだな。おらぁああ!」


―― ドカンッ!


「ぐはぁっ!」

「セ、セツナ様……!?」


 男は腕を大きく振りかぶって俺の腹部に目掛けて全力で殴ってきた。


 俺はその殴りを受けてグラっとしながら片膝を地面に付けてしまった。俺はそれでも倒れないように何とか必死に堪えていった。


 でもそんな片膝を付きながら堪えてる俺に向かって、他の男達も加わり全力で殴ったり蹴ったりなどの殴打を始めていった。


「おらっ! おらっ!」

「おらおら! おらぁっ!!」

「ぐがはっ! ぐ、ぐぐっ……ぐっ!」


―― ドカッ! ドカッ! バキッ! バキッ!


「おらおら! 俺達はテメェみてぇなクソガキが死んでも何とも思わねぇからな! だから死にたくねぇならさっさとその女を置いて逃げちまえよ! おらおら!」

「ぐぐっ……い、嫌だ……俺はアリシアさんを見捨てて……逃げたりなんて……絶対にしない……!」

「はぁ? 何だよコイツ?? マジで生意気なクソガキだな! そんな減らず口を叩けねぇようにもっと全力で殴ってやるよ! オラッ!! オラッ!!」


―― ドカッ! ドカッ! バキッ! バキッ!


「ぐ、ぐがはっ! ぐ、ぐぐっ……!」


 男達は身体を何度も殴ったり蹴ったりの殴打をし続けてきた。当然俺の身体はどんどんと痣だらけになっていたし、血だらけにもなってしまった。


 それでも俺は逃げる事なくアリシアを守るために、絶対倒れず男達の前を立ち塞がっていった。


「あ、あ……セツナ様……血、血がこんなにも沢山出てしまって……な、なんで逃げないんですか……な、なんで私の事を……そこまで庇うのですか……」

「はぁ、はぁ……だって約束したから……アリシアさんの事は……何があっても助けるって……俺が絶対に助けるって……約束したから……ぐがはっ!?」

「おいテメェ! 何自由に喋ってんだよ! 今はそんな自由に喋ってる場合じゃねぇだろ! オラオラ!」


―― ドカッ! ドカッ! バキッ! バキッ!


 俺はそれからも何度も目の前の男達に殴られたり蹴られ続けていった。身体中がかなり痛くて辛いけど、それでも俺は倒れずにずっと我慢し続けていった。


「何だよコイツ。これだけ殴打し続けても血みどろの状態のまま逃げもしねぇなんて……お前は一体何なんだよ。自殺志願者か何かなのか??」

「はは、マジかよ。せっかく生かして逃がしてやるって言ったのに、死にたがりの馬鹿野郎だったのかコイツ?」

「あ、あ……セ、セツナ様……も、もういいです……! 私の事はもういいですから逃げてください……どうか……!」

「は、はぁ、はぁ……逃げないですよ……俺は絶対に……絶対にアリシアさんの事を助けますから……だから安心してください……俺が絶対に守りますから……はぁ、はぁ……」

「あ、あ……セ、セツナ様……ぐすっ……うぅ……」

「なんだよコイツ。お姫様を助ける王子様にでもなったつもりかよ? はは、クソダセェな! そういうのはテメェみてぇな貧弱なヤツが吐いていいセリフじゃねぇだろ!」

「あぁ、そうだよな。こんな血みどろの状態で吐くセリフじゃねぇよ。そんな死にかけの状態になってるのにこの女を助けられるとかマジで思ってるなら頭おかしすぎるだろ。ぷはは。面白いギャグを聞いて笑っちまったわ。まぁでも殴り続けるのにも疲れてきたし、そろそろいたぶるのは止めてさっさとぶち殺しちまおうぜ」

「はは、そうだな。ガキを殴るのも滅茶苦茶面白かったけどそろそろコイツら殺してズラからなきゃだ――」

「はは、そうかそうか。それじゃあまずはオメェから先に死んでくれよな? オラァッ!!」

「……えっ? ぐぎゃあああああああああああっっ!?」


―― ドカァアアンッ!!


「え……って、なぁっ!?」

「は、はぁっ!?」

「……ぇ……ぁ……」


 その時、意識を失いかけていた俺の耳に……確かにあの人達の声が聞こえてきた。


「おいおい? テメェら俺の弟子に一体何してくれてんだよ?? ここまでボロボロにしやがって……ただで済むとは思うなよぉ……?」

「私にとっても彼は大切な弟子ですから助太刀します。ふむ、それでは落とし前をどうやって付けましょうかね?」

「んー、まぁそうだなぁ……死んだ方が楽だったって思う程度にヤッちまうか。まぁいわゆる半殺しってヤツだな。そんくらいやっちまってもお咎めは無いよな? 逮捕とかされないよな? 貴族様?」

「一人の貴族としてはそのような拷問に近い行動を私的にやるのは了承出来ませんが……まぁ荒くね者な冒険者達を束ねる一人のギルドマスターとしては了承させて頂きますよ。全員キッチリと半殺しにしていきましょうか……スクルド殿」

「おうよ。それじゃあサクっとやっちまおうぜ……ギルドマスターさんよ」

「えっ……」

「ひ、ひえっ……」


 俺の耳にはそんな頼りになる二人の声が聞こえてきた。これで大丈夫だ……あの二人は俺の知る限り最強格の二人だから……だからこれで……もう後は任せられ……る……。


―― ドサッ……


 俺はそんな二人の声を聴いてホッと安堵していき、そのまま意識を失っていった……。

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