32話:一人で王都の街中に出かける(アリシア視点)
とある日の午後。
「ねぇ、シルス。お願いよ……」
「駄目です、お嬢様」
私は自室にてシルスにとあるお願いをしていた。それはセツナ様に内緒にして王都の街中に一緒に出かけて貰いたいというお願いだ。
でもそんな私のお願いをシルスはキッパリと却下してきた。むしろそれだと街中には行かせられないと言ってきた。
「ど、どうしてよ、シルス。どうしてそれだと街中に出かけちゃ駄目なのよ?」
「旦那様からの言いつけです。お嬢様が街中に出かける際にはセツナ様と一緒に行くようにしなさいと。街中でふいに転んで怪我でもしてしまったら大変ですし、その時はすぐに回復魔法で治療して貰えるように、街中に出かける際はセツナ様と一緒に行くようにと言われてるのです。ですからもしも街中に行かれたいのならセツナ様と一緒にお願いします」
「い、いや、それはその……セ、セツナ様にはどうしても内緒にして欲しいというか……」
「ふむ? 何か訳アリのようですね? ですが私はエルフェミナ家の従者ですので、旦那様からの命令は絶対です。なのでどうしてもセツナ様に内緒にして街中に出かけたいというのであれば、旦那様からの許可を貰ってください」
「そ、そんな……だって今お父様は外部に出張中でしょ……? お父様が帰って来るまで待てないわよ……」
「そう言われましても流石に旦那様からの命令には逆らえませんよ。ですからお嬢様には申し訳ありませんが、街中に行く許可は与えられません。どうしてもというならセツナ様と一緒に出掛けるか、もしくは旦那様の帰りを待ってください」
「……わかったわ。時間を取らせてしまってごめんなさい、シルス。それじゃあ貴女は自分の仕事に戻って良いわよ」
「はい、わかりました。それでは失礼します」
―― バタンッ
そう言ってシルスは私の部屋から出ていった。こうしてセツナ様への贈り物を買いに行く計画が頓挫してしまった。
「はぁ、どうしようかしら……うーん、だけどさ……私、もう一人でもそれなりに歩けるようになったわよね?」
私はベッドに横たわりながらそんな事を呟いていった。今は片手杖を使えば自由に歩き回れる事が出来る。それに前に街中を歩いてみた時はもう躓いたり転んだりする感じは全く無かった。体力も沢山あるし怪我するなんて事は滅多に起きないだろう。
そして今日はお父様は外部に出張中だ。従者達も仕事で忙しくしているため、私の事を付きっきりで見ている従者は一人もいない。それならば……。
「……よし、それじゃあ……一人で街中に出かけてみようかしら……!」
私はそう決意した。まぁ私の目的は買い物をするだけだし、そんなに長い時間出かける訳じゃないしね。
だからさっさと街中に出かけてセツナ様への贈り物を買っていき、それでさっさと帰ってくれば誰にもバレずに済むだろう。
よし、それじゃあさっさと出かける準備をしていこう。そして従者にバレないようにこっそりと出かけていくぞ。
◇◇◇◇
―― ワイワイッ、ガヤガヤッ……!
「わわ、賑わっているわね。やっぱり王都の街並みは凄いわね……!」
王都の中心地に到着した私はそう呟いた。王都の中心地はワイワイと賑やかな感じだった。活気づいていてとても良い街並だ。
「よし、それじゃあ人にぶつからないようにゆっくりと武器屋さんに向かおう……って、あら?」
「ぐすっ……ひっぐ……うぇっ……」
それから武器屋さんに向かおうとしたその時、すぐ近くの街路樹の先に小さな子供が一人で泣いていた。
もしかしたら怪我でもしたのかもしれないわね。私はすぐさまその子に近づいていった。
「ぐすっ……うぅ……ひっぐ……」
「君、大丈夫?」
「うぅ……ひっぐ……ふぇ……?」
「何かあったのかしら? もしかして怪我でもしちゃったの?」
「ひっぐ……ぐす……う、ううん……お母さんと……はぐれちゃって……うぅ……」
「あぁ、お母さんとはぐれちゃったのね……それは辛いわよね……」
どうやら泣いている子供はお母さんとはぐれてしまったようだ。それで子供は悲しくて涙を流しているようだ。
「お母さんとはぐれちゃったなんてとても辛いよね……よし、それじゃあ良かったら今からお姉ちゃんと一緒に警備隊の駐屯所に行ってみない?」
「うぅ……ぐすっ……ひっぐ……」
「もしかしたらお母さんは君の事を探してて、それで駐屯所にいるかもしれないよ? だから良かったら今からお姉ちゃんと一緒に駐屯所に……」
「うぅ……ひっぐ……うぅぅう……」
私はその子供に向かって近くにある警備隊の駐屯所に行ってみないかと尋ねてみたんだけど、でも子供は悲しみのあまり涙を流し続けながら私の言葉は耳に入ってないようだ。
(うーん、どうしたものかしらねぇ……あ、そうだ!)
ふと私はこの状況と似た出来事があった事を思い出した。それは私がまだ幼少の頃。私は屋敷の中でお父様に叱られて涙をポロポロと流した事があった。
そしたらお母様が泣いてる私を街中に連れ出してくれて、そしてお母様は泣いてる私のためにとあるモノを買ってくれたんだ。
(確かその時のお店ってここら辺にあったはず……あ、あった!)
私はキョロキョロと見渡していくと、お母様が私に買ってくれたモノが売っているお店を見つける事が出来た。
「ごめんね。ちょっとだけ待ってて。お姉ちゃん、すぐ戻ってくるからね!」
「ぐすっ……うぅ……」
私は子供にそう一言だけ伝えて、すぐに近くのお店に入っていった。そしてとあるモノを購入してさっきの子供の元に戻ってきた。
「はぁ、はぁ……ふぅ。お待たせ。それじゃあ……はい、これ。君にあげるよ!」
「ぐすっ……うぅ……ふぇっ……?」
私はそう言って子供にとあるモノを差し出していった。それは何かというと……。
「え……ア、アイス……?」
「うん、そうだよ。あそこのアイス屋さんで買ってきたんだ。君はアイスは好きかな?」
「ぐすっ……うん……好き……」
「そっかそっか。ふふ、それなら良かった。あそこのお店で売られてるアイスはすっごく甘くて美味しいんだよ。だから良かったらお姉ちゃんと一緒に食べようよ」
「ぐすっ……ひっぐ……いいの……?」
「うん、もちろんだよ。ふふん、きっとこのアイスを食べたら君の悲しい気持ちなんてすぐに飛んでいっちゃうよー! だから、はいこれ。良かったらどうぞ!」
「ぐすっ……うん、ありがと……」
「おっ、ちゃんとお礼が言えるなんて偉いね。ふふ、それじゃあ溶けちゃう前に早速食べていこうよ」
「う、うん……わかった……それじゃあ、いただきます……」
「うん、いただきます」
という事で私達は早速アイスを食べ始めていったんだけど、するとアイスを一口食べていった子供の目が一瞬にしてキラキラと輝きだした。
「……えっ? わ、わわっ! す、すっごく甘くて美味しいよ! お姉ちゃん!」
「ふふ、でしょう? あそこのアイス屋さんってすっごく美味しいんだよね。私も子供の頃はよく食べにいったんだ」
「へぇ、そうなんだ! 美味しい……すっごく美味しいよ! こんな美味しいアイスを御馳走してくれてありがとう! お姉ちゃん!」
「ううん。全然良いよ。ちなみにあそこのアイス屋さんは結構安くて、色々と味の種類も豊富にあるんだ。もしも気に入ったようなら、是非とも今度はお母さんに紹介してあげてね。きっとお母さんも喜んでくれると思うからさ」
「うん、わかった! って、あ……そ、そうだ……お母さん……うぅ……」
「あ、そうだったね。それで君のお母さんの件だけどさ、もしかしたら今は近くの駐屯所にいるかもしれないからさ、良かったら今からお姉ちゃんと一緒にその駐屯所に行ってみない? 駐屯所はすぐ近くにあるから……だからあと少しだけ辛い気持ちを我慢できるかな?」
「ほ、本当に……? 近くにお母さんがいるの……? う、うん、わかった……! 僕……我慢するよ……!」
「うんうん、我慢できるなんて君はすっごく偉いよ! よし、それなら早速駐屯所に行ってみようか。それじゃあこっちだよ。付いてきてね」
「う、うん! わかった!」
こうして私はその子供と一緒にアイスを食べながら、近くの駐屯所の方に向かって行った。




