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第二章・第三幕:初めての昼

 「......ん」

眩しい。こんな感覚は初めてだ。

周囲を見渡す。昨日と変わらない白い壁と植物たち。

初めて感じる、お日様の匂い。

僕は体を起こす。

「......痛くない」

体が羽になってしまったと勘違いするほどに軽い。

ベッドから降りても、体がだるくなるようなことはなかった。

僕は部屋のドアを開ける。

オブスクラシティでは嗅いだことのない香ばしい匂いが漂う。

「あ、ナディエ、起きたんだ。もうお昼近いよ」

「あ......うん」

「ところで、おなかすいてない?今部活から帰ってきたばっかで僕おなかすいちゃったからチャーハン作ってるんだ。一緒に食べる?」

「......おなか、すいてない」

「そう?省エネ運転なんだね、ナディエは」

……おなかがすいていないわけじゃない。

貴重な食料をこんな短時間で食べるわけにはいかない。

その時、僕のおなかが「ぐぅ~」と音を立てた。

「やっぱりおなかすいているんじゃないか。ちょっと待っててね、用意するから。一緒に食べよ」

「......うん」

「その前に顔を洗ってきな?タオルは適当に使っていいから」

「分かった」

僕は昨日使った洗面台の前に立つ。

「こうかな?」

僕はレバーのようなものを回す。

しかし、水は出てこない。

「......なんだこれ」

僕はそのレバーを上にあげてみる。

すると、水が出てきた。

「ふぅ......」

透き通るほどきれいなその水に、僕は思わず見とれてしまった。

「......っ!」

ハッと我に戻り、慌てて流れる水を手ですくう。

そして顔にかける。

「......冷たい」

でも、なんだかすっきりした。

棚の上にあったタオルを取り、顔を拭く。

頬っぺたが少しヒリヒリする。

なんとなく正面を見る。

目の前には、ボサボサの茶色の髪の毛の.........男の子か、女の子か、分からないような人がいた。

「......誰?」

僕が言葉をいうのと同時に、目の前の人の口も動く。

僕はなんとなく右手を上げる。

目の前の人は左手を上げる。

「反対の行動をするのかな......」

「ナディエ~?」

「あ、フィル」

「顔を洗うだけなのに結構時間かかってるから来ちゃった。大丈夫?」

「あ、うん、大丈夫。ねぇ、フィル。この人は誰?」

僕は目の前にいる人について聞く。

視線をその人に向けると、今度はフィルにそっくりな人がその人の隣に立っていた。

「あれ?フィルが......二人?」

「これは鏡だよ。地下では見たことがなかったのかい?」

「うん......」

「鏡は光を反射して物を映すんだけど.....って言っても難しいか。まあ、この目の前に映ってる人は君だよ」

「これが.....僕」

初めて見る自分の顔.....。アステル姉さんが言っていた夜空のような深い青色の目はこれか.....。

でも、青のままなのに.....何か光ってる?

「ナディエ、先に食べてていいかな、おなかすいちゃって倒れそうなんだ」

「あ、僕も戻るよ」


 「ん~、部活終わりのご飯はやっぱりおいしいね」

僕もチャーハンを一口食べる。

感じたことのない味が口いっぱいに広がる。

「おいしい.....」

「そう?良かった」

幸せというのは、こういうことを言うのだろう。


「ふう.....ごちそうさまでした」

「ご、ごちそうさまでした」

フィルは「フフッ」と笑うと、僕のお皿を持って行ってしまった。

「宿題やらなきゃな~」

ジャーと勢い良く水が出る音がする。

きっとフィルが何かやっているんだろう。

「ふぁ~.....眠くなってきちゃった」

水の音が止まると、キッチンからフィルが出てくる。

「僕は少し寝るよ。何かあったら起こしてね」

「あ、うん.....分かった」

そう言ってフィルは別の部屋へ行ってしまった。

「......一人になってしまった」

初めての静寂。地下にいたころはいつもどこからしらのパイプが爆発してたからうるさかったし......。

僕はなんとなく窓を開ける。

冷たい風が中へ吹き込む。

「わぁ......」

夜には見えなかった外の景色が見えた。

周辺には多くの高い建物。そして遠くには見たことない地形。あれが山だろうか。

その時、「ピンポーン」と音が鳴った。

僕は迷わずフィルを起こしに行った。

「なんだよフィル、ドア開いてんじゃん」

その声には聞き覚えがあった。

「......カルディア?」

「お、ナディエか。元気してたか?」

「まあ......」

「そうか、よかったな。ところで、フィルは?」

「今は寝ているよ」

「勉強を教えてほしいって言ってたのに、何やってんだか」

カルディアは何かを机に広げる。

「ねぇ、何やってるの?」

「ん?あぁ、勉強だよ。こう見えてあーし、結構頭いい方なんだ」

「へ~……僕にも見せて?」

「あんたに解けるかな~?」

そういってカルディアは僕を膝の上に乗せる。

カルディアが見ていた先にあるものは......わけのわからない記号だった。

直線、曲線、点で構成されるそれらは、まるで意味が分からなかった。

「な、なんだこれ......」

「やっぱあんたには難しいみたいだな」

そう言ってカルディアは僕を下ろす。

「もっと知識を詰め込んでから出直すんだな」

そういってカルディアは机に向かった。

「カルディアはそれが読めるの?」

「ん?読めるが?」

「なんて書いてあるの?」

「マジか、てっきりあーしは問題の意味が分からないってことなのかと......」

ドアがガチャっと開く。

「ふぁ~......あれ?カルディア、来てたんだ」

「おう、勉強教えてほしいって言ってたからな」

「ありがと~」

「......なんかフワフワしてんな、フィル」

「眠いから、仕方ないよ」

「......もっと休んでたら?」

「でも、カルディアに申し訳ないし......」

「あーしは自分の勉強するさ。あんたが疲れてナディエのことをおろそかにしたらやばいし」

「じゃあお言葉に甘えて、そうさせてもらうよ」

そう言ってフィルは水を飲むと、部屋に戻っていった。

「弦楽合奏は集中使うらしいからな.....」

「ねぇ......」

「ん?なんだ?」

「僕に文字を教えて?」

「おう、いいぞ」

カルディアは文字表みたいなのに合わせて読み方を教えてくれた。

最初は訳の分からなかったが、なぜだか段々と意味が理解できるようになった。

「ナディエ、いったんこれを読んでもらっていいか?」

「......はる、あたたかいきせつ、みんなふわふわ、ここちいい」

「お前......すごいな。私が作った雑な文章だけど......」

「そう?ほめててくれてありがと」

「じゃあ次、書いてみて?」

「なんて書けばいいの?」

「うーん、そうだな......『こんにちは』って書いてみて?」

僕は鉛筆を持ち、紙にさっき覚えた文字を書く。

「どう?」

「合ってる......本当に文字を知らなかったのか?」

「うん、今知った。ありがと、カルディア」

「お、おう......」

「いまならさっきカルディアが読んでた本も読めるかも!」

「それは無理じゃないかな......」

「やってみないとわからないでしょ?貸して?」

「わかった......」

僕はその本を受け取ると、中を開いた。

だが、文字は読めるが、中身は分からなかった。

「うぅ......、難しい......」

「......こんな早く読み書きって習得できるものなのか?」



こんにちは。またはこんばんは。恋葉春です。

受験が近づいてきたので、更新頻度がこれまでよりも更に落ちると思います。

物語は最後まで書くつもりなので、気長にお付き合い頂けたら嬉しいです。

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