際
炬燵に潜り込んで寝そべりながら、ぼんやり駅伝を見ていると、後輩から電話がかかってきた。
いつもLINEなのに珍しい。
急用かと思って出てみると、用件は拍子抜けするものだった。
『先輩、すみません! 俺、この前借りた雑誌をまだ返してなくて…!』
何をそんなに慌てているのか。
そう思ったが、眠くてうとうとしていたせいで、頭が働かなかった。
「おー、今度会ったときでいいぞ。急がねぇから」
捨ててくれてもいいと思ったが、思ったときにはもう口から返事が出てきていた。
おかしな事だが、この後、後輩とどういうやり取りをしたのか覚えていない。
気がついたら通話を切っていた。
どうも変だ。
首をひねっていると、今度は別のやつから電話がかかってきた。
今度は何だと出てみると、ついさっき俺に電話をかけてきた後輩が、事故に遭ったという知らせだった。
今手術中だという。
「あいつ…」
俺は合点がいったと同時に呆れた。
今際の際に(まだ生きているが)思い出したのが返し忘れた雑誌とは。
俺は上着をつかむと病院に向かった。
不思議と焦りはなかった。
律儀なあいつのことだから、どんなにくだらない約束でも守ろうとするだろう。
なぜかそんな確信があった。
もし万が一、雑誌を返しに来たあいつが生身でなかったとしても、酒くらいは出してやろうと思う。




