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チンピラ幽霊
帰宅ラッシュにはまだ早い夕方、電車に乗るとチンピラがいた。
チンピラは乗客ひとりひとりに顔を寄せ、目を剥いて威嚇している。
だが誰も気づかない。
チンピラが生身の人間ではないからだ。
もしかしたら俺のように、見えるが無視しているヤツがいるのかも知れない。
皆、熱心にスマホを見ている。
面白くなさそうにブツブツ言っていたチンピラは、ベビーカーに乗っている赤ん坊と目が合ってピタッと止まった。
赤ん坊はチンピラが見えているのだろう。
汚れのない目でチンピラに熱い視線を注いでいる。
俺も経験があるが、あれはなかなか辛い。
チンピラはしばらく居心地が悪そうにモゾモゾしていたが、意を決したように赤ん坊に近づき、「べろべろばー」とやった。
きゃきゃきゃと、赤ん坊が笑う。
それにつられて、乗客の何人かが顔をあげた。
静かだった車内が少しだけ賑やかになる。
チンピラはそれに気をよくして、満足そうに消えた。
H30年9月22日 一部改稿
H30年10月8日 一部改稿




