91話 評価とか聞いて見る
床の上には七頭の首の無い牛が転がっている。そして一頭ずつイエーガーさん達が観察して回っているのに続いて、僕の一緒に見て回る。理由は至って簡単、お持ち帰りできる頭数は収納する為のブレスレッドの構造上四か所しか収納できない。一か所はウルズさんで決まっているので魔法石を取り出した一か所と、元から使っていなかった二か所を足して三頭のみ。なのでどれも美味しそうに見えるのだけど、七頭の中から厳選せねばならないと言う究極の選択。
「うーん……」
竜の姿の時は何となくコレだ、って勘が働くのだけど人の姿で見ると均等に美味しそうにしか見えない。何故だろう?嗅覚?
「うーーーーん……」
とりあえず牛のお腹をペシペシ叩いたりして、身の詰まり具合とか確かめてみたけどあまり区別がつかない。一応一頭だけ他よりも二回り近く大きいのが寝っ転がっているので食べ応えがありそうなこれはキープかな。しかしそれ以外が問題だ、流石にここで竜に戻るのも要らぬ混乱を生んでしまいそうだから自重せねば。こうなったら直感で選ぶしかない気もするけど、基本的に自分の行動に自信が持てないので絶対後悔しそう。となれば取れる事は一つくらいか……
「イエーガーさん、イエーガーさん」
「どうしたんじゃ? クリス君」
「あのですね、この寝転がっている牛……じゃなくてモンスターを見回って、どれが一番凄いと思いました?」
必殺、他人任せ。こう言うのダメだってわかっているけどね一番確実だと思うんだよね。特にイエーガーさんは人生経験も豊富そうだし、ちりめん丼屋さんだからお肉は扱ってないだろうけど、一括りで言えば食べ物を扱っている人だしきっと僕には分からない視点から評価してくれそうな気がする。
「そうじゃのう、正直な感想を言わせて貰うとどれも素晴らしいの一言じゃな。 甲乙付け難しと言ったところか」
「やっぱり、そうですよねー」
全部お肉が詰まってて美味しそうですもん。はやりイエーガーさんでもそう言う結論に至ってしまうか。
「じゃが、あえて評価を付けろと言うのならこいつかのぅ」
「ほほー!」
イエーガーさんの視線の先に転がっている牛に目を向ける。見た目は他と同じ様にしか見えないけど、言われてみると確かに他のよりも美味しそうに見えて来た気もしなくはない。
「ほれ、この首を見て見ろ。 こいつの切り口から覗く筋肉の付きは見事と言ったもんじゃ。 こんなのに襲われたら儂等だけではひとたまりも無かったのぅ」
「た、確かに見事かもしれないです」
覗き込んだ切り口からしっかりと詰まったお肉が伺える。ちょっと見た目が怖かったので嫌厭していたけど確かにこう言う個所からお肉の付きを確認することも大切だな。今日一番の勉強になったかも。これからの狩りの参考とさせて頂きます。
「次はこいつじゃな。 他と比べると心持ち小柄だが、上から見ていた時に動きの質が別格じゃったからな。 それを見事に一振りで仕留めるとは、流石はウルズ殿じゃ」
「っ! なるほど、なるほどっ!」
そうか、生きている時の動きも踏まえての評価ですね!僕はそこまで頭が回らなかった。基本的に不意打ちでの狩しかしてこなかったから完全に見落としていましたよ、二回目の今日一番の勉強になりましたっ!
「次はこいつかの」
「お!」
これは僕が最初にキープした一番おっきいのだ。
「こ奴らの様な小細工なしで襲い掛かってくるモンスターは、躰が大きいそれだけで良いアドバンテージになるからの。 それすら一刀両断とは……」
「うんうん、やっぱり量ですよね!」
「量? 一体何の事じゃ?」
うん、これはわかります。よし、この三頭をお持ち帰りで決定。やっぱり聞いて良かった、自分で考えていたらいつまでたっても決められなかったです。やっぱり食べ物を扱っている人の意見ってとても参考になるなぁ、聞いて良かった。
「量とは? まぁ、クリス君が満足しているから問題無いかの」
「はい、大満足です!」
一通り牛を見て回ったイエーガーさん達がウルズさんの所へ戻って行く。他にもお肉の見極め方を聞いて見たかったけど、仕方ない。さて、残念ですがウルズさんにはガッカリして貰いましょう。その間に僕は牛を収納しちゃおう。ふふん♪どれを母さんにおすそ分けしようかなっ!
「ウルズ殿……、お見事」
「うむ。 そうであろう、もっと称賛するが良い」
ん?今何て?お見事って言った?幾ら命を救われたからってお世辞とか要らないんですよ?率直な意見を、包み隠さず伝えるのだって優しさなんですよ?
「お見事? ただ刃物で首を落としただけなのに???」
「クリス君は魔法の方はかなり精通している様じゃが、武器を使用した戦いに関してはまだまだの様じゃな」
残念ですけど、魔法も何んとなーく使っているだけでどうして使えるのかとか全く分からないよ。あと、ウルズさんが胸を反らしてふんぞり返って居るのが憎たらしい。
「恐らくかなりの業物を振るっている様じゃがそれだけでは、ここまで見事に首を切り捨てるなど出来んよ。 ウルズ殿の腕があってこそ出来る芸当じゃ」
「う、嘘です。 だって刃物で首をスパってするだけですよ?」
「言葉で表すならそうなのじゃがのぅ。 儂等ではあのモンスター一頭相手でも、万全の準備をして掛かったところで倒せる自信が無い」
「え?」
「それを七頭相手に、瞬く間に全て一太刀でじゃ……あまりにも見事で、それ以外の言葉が何も出て来ん」
そっと自分の手に……爪に視線を移す。そんなに凄いのかな?そりゃ、僕だってこの姿じゃ首を切り落とすのは難しいけど竜の姿ならあの牛位は爪を使えばスパスパ切れるのになぁ。おかしいなぁ、この位で褒められるなんて僕の価値観が間違っていて、ウルズさんの方が正しかったって事?
「ぬふぅ……どうだ小娘。 先程の先走った飛び降りはどうやら取り越し苦労になったようだな? ま、吾輩の為を思って取った行動は誉めてやろう」
少し自己嫌悪に陥っている時に、いつの間にやら真横に移動してきた骸骨が皮肉を言って来た。
「……ウルズさん」
「んー? どうした小娘? 無駄な行動をとったキサマを慰めてやろうか?」
「僕。 今、この時程ウルズさんの見た目が骸骨であった事を良かったって思った事ないです」
「よく解らんが、誉め言葉として受け取っておこう」
褒めて無いよ!真横に立たれたせいで見上げる形になってしまったウルズさんのその顔には、表情が変化しないにも拘らずはっきりと得意げに顔を歪ませて僕を見下ろしている雰囲気が漂っていた。
「で、どうする?」
「どうすると言いますと?」
「ん? 喰うのか喰わんのかだ。 喰うならこの場に留まるきっかけを作ってやっても構わんぞ」
「あー……どうしましょ」
正直食べて行きたい気持ちもあるけど、さっさとここから出たい気持ちもある。両方の気持ちを天秤に掛けたらどちらに傾くか……
「ウルズさん、ちなみにどういう理由で僕だけここに留まって、なおかつ先に進んだ人達がこちらに戻ってこない理由を作るんです? 危険な事とか、おかしな理由を付けたりしませんよね?」
「当たり前だ。 奴らは見た感じでは特殊な癖も無さそうだしな、二言で済む」
「へき? へきって何です? あと、たったの二言で済むって一体どんな事を言うんですか?」
理由は分からないけど、分からない言葉を使って来たウルズさんにお任せすると駄目な気がする。でも、ちょっぴり天秤が食欲側に傾きつつもあったりもする。
「なに、簡単な話だ。 用を足すから、上に昇って来るなと言うだけだ」
「……」
「どうした? 急に顔が真っ赤になったぞ?」
「ウルズさん……、ご飯いらないんで先に進みましょう」
食欲側に傾いていた天秤が、一気に先に進む側に傾きました。




