90話 取り越し苦労
ヒラリヒラリと牛の突撃を躱す事に徹していたウルズさんが、元々何度もこちらに視線を向けていたけど一際長い時間こちらに顔を向ける。恐らくこれから凄い事をするから見逃すなとのアピールでもしているのだろうか。
「来るぞっ!」
どうやら僕と同じ事を感じたらしいイエーガーさんの一声の後、ウルズさんの構えた魔剣なにがしが閃き、突進して来た牛の首を一振りで切り落とす。そのまま返す刀で振り上げたなにがしが、後ろに追走して来た牛の首を立て続けに切り落とした。
「「「……」」」
解説陣3人組の息を飲む音が聞こえたけど、『めっ』程の派手さが無い。むしろこれでは何が凄いのかが全く分からない。只単に剣を振り下ろした後に振り上げただけじゃなかろうか?あれだけ称賛しろとか言ってったのに、どこら辺を称賛してあげれば良いのかが見当がつかないなぁ。もっとズバーンって魔法とかを絡めて派手にやった方がみんな喜ぶと思うけど……魔力不足?いや、隙あらば僕の頭に乗ったり色々と魔力を吸って来たんだ、不足しているなんて事は無いだろう。
「なんと……」
「こりゃあ、また……」
ほら、さっきまで色々解説していた皆が静かになっちゃった。ウルズさん、肩を持つわけではありませんが今からでも遅くはありません魔法でズバーンですよっ!!後でガッカリした皆さんと称賛を貰えずピリピリしているウルズさんの間に立ちたくないので、ズバーンを!ああ……そんな事考えている間に三頭、四頭、五頭と頭をスパスパ切り落としていっている。
「……」
ウルズさんから横の皆に目を移せば、ウルズさんを見下ろすだけで誰も言葉を発していない。どうするんですかこの状況、あれだけ称賛しろとか言ってたのにこんな立ち回りのせいで絶対に呆れられちゃってるじゃないですか。ほら、後二頭しか残っていないんですっズバーンですよ、ズバーン。あっ全部首切っちゃった……
「……終わったのか?」
「……その様じゃな。 こちらに手を振って、降りて来いと指示もしている様じゃし」
あっと言う間とはこう言う事を言うのだろう、僕としてはさっさと戦いなんて終わらせて次の層へ向かいたかったから有難い限りだけど、成り行きとは言え皆でここまでそこそこ和気あいあいとして来たのに、この先のムードと言うか和みたいなものが最悪になってしまいそうだ。
「では、我らも下へ行こうかの」
仕方ない、この先の事を考え出来る事は少ないけど僕なりのフォローを入れるしかあるまい。
「とぉ!」
「ぬっ? クリス君危ない!」
イエーガーさん達よりも先にウルズさんにたどり着く為に手すりに飛び乗り、そのまま下まで一気に飛び降りる。そう言えばこの階段まだ一度も歩いて降りた事ないな。思いのほか高いけど、着地した瞬間に足がジンジンするだけで何とかなるだろう。って、何でウルズさんが着地点に移動してきてるのっ!?
「どっどいてーーーーー」
「ふんっ!!」
「ぐえっ!」
着地寸前でつかみ取られた。
「小娘、キサマならあの高さから飛び降りても問題無いかもしれんが、少々焦り過ぎではないか? やはりデブゴンが現れそうなのか?」
「いえ今回は食欲よりも今後の人間関係に関して色々と訳がありまして……あと、いきなり飛び降りた僕が悪いと言うのも分かっているのですが、受け止めるならもう少々優しくしてください。 これなら普通に着地した方がダメージが少なかった気がします」
とりあえず地面に降ろして貰ってから服を整えた後、皆より一足先に降りてきた理由を説明。期待して待って居ていたのにガッカリな反応をされるより、先にガッカリしていた事を伝えておいた方がまだ、多少なりとも待ち構える側にも心の余裕みたいなものが生まれるだろう。
「……と、言う訳で上で見ていた皆は黙っちゃってましたよ。 どうして、『めっ』を使わなかったんです? あれくらいの凄い方が皆が見ていて喜ぶと思うんですけど」
「『滅』は正直な所、派手なだけだからな。 キサマの様な素人相手には十二分に効果はあるだろうが、上の輩の様な奴らには少々物足りなく感じるだろう」
今さらっと、僕の事酷く言ってませんか?
「故に吾輩は、人と言うの枠の中では到底辿り着く事の出来ぬ本物の『武』というものを見せてやったのだ。 まぁ、ロッドを振り回し辺り構わず魔法を巻き散らかす事しか出来ぬ者から見たら得物を振り回している様にしか見えんだろうがな」
やっぱり、僕の事酷く言ってるよね? ね?
「さて小娘よ、その振り上げたロッドを降ろせ。 奴らがそろそろ到着するぞ」
「え? あ、本当だ。 ウルズさん、とりあえず皆にガッカリされても気を落とさないで下さいね。 全部終わったら一回だけ、一層目をお散歩して慰めてあげますので」
「その必要は無い。 これから吾輩は、最高の賛辞を受けるのだからな。 むしろ、無駄な心配をして無駄に先走った行動をしたキサマを慰めてやろう」
どうしてウルズさんは、いつもそうやって自信を持ち続ける事が出来るんだろう。牛の頭を切り落としただけで称賛されるとか思っちゃうんだろう。……あっ、そっか!ウルズさんは昔の骨だし今の戦いの進化を知らないんだ。今の発展した戦いの技術を知らないから、綺麗に首を落としましたってだけで凄いって勘違い出来ちゃうんだ。
「ウルズさん……」
「どうした小娘? なぜ急に、哀れな者を見つめる視線を吾輩に向ける?」
時の流れって、残酷ですね。
「クリス君、大丈夫かねっ!」
僕の事を心配して慌てて降りて来てくれたイエーガーさん達が駆け寄って来る。ちょっと申し訳ない気がして来た。
「ええ、ごめんなさい。 驚かせちゃったみたいですね」
「肝が冷えたぞ、まさかあの高さから飛び降りるなんて想像もしておらんかったからの。 しかし、流石ウルズ殿ですな。 あの高さから飛び降りたクリス君を怪我無く、衝撃を吸収するように受け止めるとは」
それは大きな間違いです。元々怪我をする高さでもありませんでしたし、衝撃なんて吸収してくれるような受け止められ方なんかしてくれませんでしたので受け止められなかった方が遥かに楽に着地が出来ましたよ。僕が竜じゃなかったら間違いなく取り返しがつかない状況に陥っていたでしょうね。
「当たり前である。 吾輩を誰だと思っているのだ」
あぁ、しまった。まさかこんな事でも称賛が始まってしまうとは。早速先走った行動をしてしまったと後悔の念が浮かび上がって来てしまった。しかしここからは下り坂ですよ、覚悟して下さいねウルズさん。
「さて、諸君。 吾輩の戦いぶりを見てどう思った? 率直な感想を述べるが良い」
両手を広げて喝采を受ける様なポーズまで取り始めたウルズさんが、我慢できずに急かし始める。諦めて下さい、皆ガッカリしているだけなのでその広げた手を下にたらし、慟哭のポーズに切り替えて待ってて下さい。
「ふむ、その事じゃがまずはモンスターを見てからでも良いかの?」
「勿論だ、吾輩の実力をじっくり堪能するが良い」
だから何でそんなに自信満々なんです?よく切れる刃物で牛の首を刎ねただけでしょ?もう少し、駄目だった時に備えて準備をして下さい。只でさえ普段の行動がめんどくさいのに、この上いじけられたら今だって手に余っているのに、どう手を付けて良いのか分からなくなっちゃいますよ?
来週はお休みの予定です。




