79話 結構頑張った気はする
想像を超えて勢いよく振り下ろす事が出来たロッドは目の前の魔導人形に留まらず、その周りの魔導人形をも巻き込みウルズさんの居る方へ吹き飛んでいく。おかげで目の前の見晴らしが一気に良くなった。
風の魔法使ってないけどこれなら……まぁ、気が付いてくれるんじゃないかな?
「さ、やる事をやったし、次!」
「も、もしかしてその声はクリスか?」
「ん? 僕のお名前を知っている? うわっ」
声のした方へ目を向けると、顔面が魔導人形に殴られたのであろうボコりと膨れ上がっている坊主頭の人が。もしや……
「もしかして、ルインさん? その顔酷いですね、目とか見えているんですか?」
「やっぱりクリスかっ! 瞼の腫れが邪魔して殆ど視界が無い」
「直ぐにでも治してあげたいのですが、もうちょっと待ってて下さい」
急がねば、とりあえず僕の作った隙間に結界を張り、あとは明らかに怪しげな者を見る目でこちらに視線を送って来るお爺さんと鎧男さんの隙間を潜る様に結界を張り壁を背に弧を描くように結界の壁が完成。結界を魔導人形達が叩いているけど壊れる気配は……今のところない。多分。
丈夫に作り出す事が出来たのは嬉しい限りだけど、どうしてブニョンブニョンしているんだろう僕の結界は……
結論が出ない悩みに思いを馳せるよりも今すべき事を思い出し慌てて体を動かす。ウルズさんに言われた通り、直ぐに動ける人から回復魔法を。この中で唯一実力を知っているルインさんから始めて、筋肉お爺さんと鎧男さん、そして直ぐには動けないであろう気絶している血ダルマになっている三人組。
全員を治せたと言えば治せたけど、血ダルマ三人組は多分内臓まで怪我を負っている気がする。残念だけど、人の躰の作りなんて知識を全く知らない以上、外側を治せたけど内側は正直自信ない。とりあえずやれるだけの事はやりました、後は運を天に任せよう。頑張れ血ダルマ三人組!
「あの、お水しか入ってませんが飲みます? 空っぽになったら魔法で補充出来ますので好きなだけ飲んで問題無いですよ」
僕以外の動ける三人は全員、恐らく体力の限界であったのだろう。いつ結界が破られるのかもわからないのに、全員床に座り込んで動こうとしない。流石にこのままずっとだんまりなのは間が持たないので、本当は一番の年配である筋肉お爺さんに最初に進めるべきなのだろうけど見知った顔であるルインさんに水筒を差し出してお水を進めてみる。
「クリス……ありがとう。 君がここに現れなかったら、俺達は恐らくもう駄目だった」
「あのっ、僕はルインさんの実力を全て知っている訳ではありませんが、ルインさん程の人でしたらあの位の魔導人形、囲まれる前に逃げるとか出来たのでは? それなのに、何故こんな事に?」
無事に顔の腫れが引いて、髪型以外は見覚えのある顔に戻ったルインさんに率直な質問を聞いて見る。勇者として祀り上げられているマリー程ではないにしろ、僕の知っているルインさんの実力なら十二分にあしらえると思っていたのに。
「確かに君の言う通り一体一体相手にする分にはどうにでもなるが、どこが正解かも分からない道を進みつつ何時襲い掛かって来るか分からない敵を警戒しながらのの移動と言うのは、想像をはるかに超えて精神をすり減らすもんだ。 一息付いて気が緩んだ時にはこの様だ、正直こういう場所を見くびっていたよ。 ……すまないが、水を皆にも回してやってくれないか」
空っぽの水筒が暗い顔をしたルインさんから返って来たので、お水を補充して恐る恐る筋肉お爺さんに渡すと、浴びる様にと言うか実際飲んでいるのか浴びているのか分からない勢いで水筒の中身を減らしていく。
「気を落とすなルイン君。 君との契約はモンスターの排除じゃ、君は十分にやってくれた。 今回の件は引き際を見誤った儂の責任じゃ。 嬢ちゃん、水を有難う。 出来れば、ヘルフェ……そっちの男にも恵んでやってはくれないかい?」
勿論空っぽになって帰ってきた水筒に再び水を張り、鎧男さん改めヘルフェさんに手渡すと待ってましたとばかりに煽り始める。やっぱみんなカラカラだったのか。
「ふぃー、水がこんなに上手く感じるなんていつ以来だ。 嬢ちゃん、本当に有難うな。 オヤジさん、今は責任がどうだとか言っている場合じゃねぇ、どうやってここから脱出できるかを考える方が先決だと思うぜ」
お礼を言われて返って来た水筒はやっぱり空っぽだったので改めて補充して三人の近くに置くと、再び口に含んだり頭から浴びて血を洗い流したりと補充する傍から空っぽになって戻って来る。
うーん……このままでは僕がお水係の位置に落ち着いてしまいそうだ。
本当はお水以外にも色々とお礼が欲しいけど、大人の人達が顔を寄せ合って難しい話をしているせいで、「お礼して」って切り出せない。
「でだ、オヤジさん。 残念だがこのままじゃ全員ここでのたれ死ぬことになっちまう。 俺が囮になっている内に、何とか二人で後ろに寝っ転がっている奴らと、この嬢ちゃんを抱えて逃げてくれねぇか?」
「何を言っておるっ! それはお前が犠牲になるという事では無いかっ」
ねぇねぇ、確かに緊急事態だと言うのは分かるんですけど、僕がこんな所に現れた事を不思議に思いませんか?
「でもよぉ、ここで全員くたばるくらいなら……」
「待ってくれ、ヘルフェさん! 囮なら俺がやる、実力ならこの中じゃ俺が一番だ。 時間を稼ぐ事も、その後に逃げ延びる事が出来る確率も俺が一番高い」
あー、こう言うの冒険譚で読んだ事あるなー。本当に目の前で起こる事があるとは思っても居ませんでしたよ。
「ルイン、君は傭兵だ。 只でさえ相場の半額以下の金額で依頼を引き受けてくれた君に、そこまでやって貰うつもりは無い。 それに、ここを無事に脱出できたところでこの先も戦闘は続く。 出来れば一番戦闘力のある君には地上までオヤジさんを護って欲しい」
「しかしっ……」
僕の事をそっちのけで重々しい話が続く。完全に僕を戦力として考えていないんですね。まぁ、一切合切こちらに丸投げされても、それはそれで困りますけど何一つ期待されていないのも結構寂しいんですけどっ。
「まて、残るのは儂じゃ。 もとはと言えば儂の無謀な計画の為にお前達をこの様な目に合わせてしまったのじゃ、どうか責任を儂に取らせてくれ。 この通りじゃ」
「オヤジさんっ、頭を上げてくれ! 俺はオヤジさんを守る為にここまで付いて来たんだ、オヤジさんがそんな事をする必要はねぇ。 残るのは俺だ!」
「そうです、俺だって危険だと最初は断られたのに半ば無理やり契約させてもらって付いて来たんだ。 だから、敵は俺がひきつける。 二人には逃げて欲しい」
冒険譚の中で繰り広げられるこの手のお話は手に汗握る感覚だったけど、実際に目の前で繰り広げられるとこんな場所で無駄な時間使っている場合では?って感覚の方が先に来てしまうなぁ。
僕の事なんて誰も意識してくれたいみたいだし、やるべき事はやったんだしウルズさんの方が終わるまで、端っこで一人しりとりでもして時間潰してよっ。




