53話 取引成立
「で、内容の変更ってどう変更するんです? もう、自由に動けている状態で何を要求するんです?」
「……うむ。 この神殿の防衛機能、これを作った者を調べて貰いたい」
「防衛機能を作った人?」
確かさっき、内容を少し変更したいって言ってたよね? 少しどころかガラッと変わってるんだけど。
しかし、そんな事なら神殿の職員さんに聞けばすぐ分かりそう。
「そうだ、残念ながら吾輩……自由に動けるようにはなったが如何せん骨である。 人前、しかも街中を徘徊しようものならそれなりに混乱を招いてしまう」
あ、そこら辺は自覚あったのね。
でも、それなりに混乱では無く大混乱になるだろうな。
「まぁ、その程度で良いなら別に構わないですけど。 そんな事調べてどうするんです?」
「吾輩を作り育て、そしてこの神殿の守りを命じた者だ。 さしずめ父上のような存在だ」
「あー……」
「長すぎる程の時が経ってしまった。 言葉を交わす事はもう叶わないだろうがせめて墓を見に行きたい」
正直、僕もこのアレな骸骨を作った人にはちょっと興味があるな。
一体どうやったらこんな性格になるのだろう。
ん? そもそもこんなアレな骸骨がその人のお墓になんて行ったら何するか分かったもんじゃないぞ。
よくも吾輩をこんな所に閉じ込めたなー、とか言って良からぬ事をしそう。
「いたずらとかしないですよね?」
「何をだ?」
「お墓に行ってよくも閉じ込めたなって言いながら、お墓を壊したりとか……」
「バカを言うな小娘、吾輩は冒険者を挫き、罵り、挫折させる事が生き甲斐である。 その吾輩にこのような快適な環境を与えてくれた者に対してそのような不得な事出来る訳なかろう」
そうですか、生き甲斐ですか……
よく考えたら、この骸骨を作ったって事はこの性格を作ったと言っても過言では無い気がする。
こんなのを作れるという事は、製作者も大概なのだろう。
不謹慎ではあるけど、片一方はお墓の中に入っていると思ったら思わず安堵してしまった。
「で、どうだ? 吾輩と取引をする気があるか?」
「この取引って、断ったらどうなるんです?」
「自力で捜査をしをしなくてはな……」
「それって、この街に骸骨徘徊事件が発生するって事ですよね?」
ここで肯定されたら拒否権が無くなってしまう。
「うむ、夜な夜な人気のない所で徘徊するこの街の神殿に付いて質問を繰り返す骸骨。 しかも立ち去り際に謎の少女の名前を呟くと言う感じで盛り上げて見ようと思うのだがどうだろう?」
「……なぜあなたは、人の嫌がる事をサラッと出来るのでしょう?」
「生き甲斐である」
これはあれだ、僕の手におえるものではないこの骸骨は。
何とか言いくるめて母さんに退治して貰おう。 そうしよう。
そうとなれば、やる事は一つ……すっごい嫌だけど、この骸骨を僕の目が届くところに置いておかなくては。
「ウルズさん、取引しましょう」
「む? 急にどうした? 想像していたよりあっさりとした反応で吾輩ちょっと残念なのだが?」
「何を言っているんですか? 取引を言い出したのはウルズさんの方ではないですか。 さぁ、遠慮なく僕の盾となり、矛となり存分と働いて下さい」
向こうも僕の事を使いたいと言うのなら、僕だって使ってしまえば良いや。
退治する前に僕の力になって貰いますよ。
「若干腑に落ちないが、そちらが良いと言うなら成立だ。 吾輩が四層目にある魔法石までしっかりエスコートしよう」
「ええ、よろしくお願いします。 僕の方もここを出たら神殿の人にでも確認してみますね」
「……うむ、宜しく頼む。 是非調べてくれ」
何か変な間があったな。
まだ何か宜しくない事を考えているのだろうか。
「そうと決まれば、特別サービスだ。 小娘、先程この神殿の地図を作っているとも言っていたよな? 手伝ってやろう」
「はい、まだ一層目しか出来てませんが作ってますよ」
「ふむ。 その一層目の地図、それと同じ間取りを別の紙に写す事は出来るか?」
「勿論、紙も鉛筆もありますので」
「なら早速写すが良い」
急に一層目の地図をもう一枚作れと言いだしたけど何のつもりだろう?
サービスと言うくらいなら間違っているところを修正してくれる?
なら、別に今の紙に書き足したりとか直してくれても問題無いんだけどな。
兎にも角にも変に嫌がって勘繰られる前にもう一枚一層目の地図を作ってしまおう。
「……、……うん。 こんな感じかな」
「出来たか? 写しの方を吾輩に貸してくれ、それと鉛筆もだ」
「どうぞ」
「ほほう、小娘よ思っていた以上に精巧に描けているではないか。 これなら手直しをする事は無いな」
「それはどうも」
写した地図の評価が終わったら、紙の端っこに何かを走り書きをしたかと思うと直ぐに紙も鉛筆も返された。
何を書き足されたんだろうと思い、写しに目を落とし妙に達筆で一言書かれたそれを見た瞬間に躰が固まる。
「あの、ウルズ……さん。 これはどう言う事です?」
「何だね?」
「返された紙に『二層目』と書いてあるのですが」
「そのままの意味だ。 ここは要塞でもなければ迷宮でもない、一、二層目は元物資の保管庫だ。 只でさえ各階層をつなぐ階段が一か所しかないような欠陥保管庫が、階層毎に間取りなんて変えようものなら使いにくくてかなわんだろう」
そりゃそうだけど、何かしらこう……作り変えたりしなかったのだろうか。
いや、深く考えるのはやめて苦労せずに二層目の地図が出来た、と良い方向に感じよう。
「凄い今更なんですが、この神殿って何層目に水の魔法石があるんです?」
「む? そんな事も知らずにうろついていたのか? 冒険者として、最低限の情報位は仕入れてから挑戦するものだろうに……四層だ」
仕方ないんですよ、何も知らずに連れて来られたのが五日前ですし。
そもそも冒険者でもない僕が、探索のイロハなんて知っている訳がないです。
「小娘、何をしている?」
「今のうちに三層と四層の地図も書いちゃおうかなと。 写すだけで良いみたいだし」
「そうか、だが残念だったな。 四層目は魔法石の安置場と排水路しかないし、三層目も上二層よりもっと狭いぞ」
「えー……」
「まぁ、三層目は長方形を書いておけば問題無い。 さて、こんな所でくっちゃべってないでさっさと進むぞ」
「え? 長方形? どう言う……ってっちょっと待って!」
「行けば分かる、ついて来るが良い」
また訳の分からない事をっ!
せめて二層目に挑む気持ちを入れる時間を……あああ、待って、先に行かないでぇ。




