5話 知らぬ間に魔法を使っていたらしい
僕は岩の後ろに息を殺して身を潜める。
遥か先からどんどん足音が近づいて来る。
姉さんが今日のお昼ご飯を追い立てている音。
足音は二つ。
「今よ!」
姉さんの声に合わせて岩から飛び出し一匹目のお昼ご飯に噛み付き、勢いよく首を振り上げ上空に向かって放り投げる。
そのまま体を回転させて尻尾で二匹目のお昼ご飯も空に跳ね上げる。
一匹目は姉さんが、そして二匹目は僕が放物線を描きながら飛んでいるお昼ごはんに向かって口を開き、勢いよく火を吹く。
お昼ご飯が地面に落ちる頃には表面がしっかり焼けて美味しそうな匂いが漂ってきてよだれが溢れる。
「いただきまーす」
「いただきます」
生でも食べれるけど、やっぱりお肉は焼いた方が美味しい。
「ご馳走様! さっお替り行くわよ!」
「姉さん、食べるの早すぎです。 丸呑みはダメって母さんが言ってましたよ。」
母さんは何かやる事があるらしく度々いなくなるので、基本的に姉さんに竜としての生き方を教わっているのだけど、姉さんの教えは非常に実戦的。
でもその実戦的な教えのおかげで、狩りの仕方やブレスの吹き方を覚える事が出来た。
今では、手伝ってもらわなくても巣まで飛び上がる事も出来る。
それなりに躰の使い方も、体力にも自信が出て来たけど、姉さんとじゃれると一時間もしないうちに僕の躰は姉さんの歯形だらけになってしまう。
まだまだ差は埋まらないものだ、頑張ろう。
「ご馳走様でした。」
「さー、お替りを……次はお魚が良いわね。 海に行きましょ」
「はい」
姉さんの後ろに付いて海に向かって飛びながら海の狩の仕方を思い出す。
沖合で雷の魔法を海に打ち込んで浮いて来たものを食べる。
でも僕はまだ魔法が使えないので、雷の魔法は姉さんにやって貰うしかない。
「姉さん、今度僕に魔法の使い方を教えてくれませんか?」
「へ? 何言ってるの? 使ってるじゃない」
「はい?」
海に向かいながら姉さんの話を聞いて、あまりの衝撃に墜落しかける。
竜化や人化、空を飛ぶ事やブレス、それら全てが魔法だったらしい。
「そっかー、ママから聞いてなかったのね」
「はい、凄いビックリしました」
「竜に取って魔法は本能的に使えるものだから説明してなかったのかな? じゃあ、折角だし雷を打ち込むのお願いしようかな」
「えっ、僕がですか? 火は吹けますけど雷なんて無理ですよ」
「大丈夫、大丈夫! 火を吹く代わりに雷の弾を吐き出す感じでやれば出来るよ」
海岸線に出てそのまま沖合に向かい、いつも魚を食べる時の狩場に着くと船がいっぱい居た。
沢山の人間が僕らを見てる……なんか恥ずかしいな。
よく見ると僕たちに向かって拝んでいる人が多い。
「最近ここらへんでお魚取ってたから、おこぼれを取りに来る人間が集まって来ちゃったのね」
「これでは、この人たちを巻き込んでしまいます。 別の場所に移りませんか?」
「そおねー、少し離れた場所にしましょ」
漁船が見えなくなるところまで移動し、ホバリングして深呼吸。
今まで魔法を使っていたとは言え無意識だった、しかし今日これから魔法を使うと意識すると緊張してきちゃった。
「じゃ、バリっとやっちゃおう。 バリっと!」
「は、はい!」
さっき姉さんに説明してもらった、火を吹く感覚で雷の弾を吐く事をイメージ。
口を開き海面に向け、息を勢いよく吸い込む。
火じゃなくて雷、火じゃなくて雷……何度も頭の中で言い聞かせ、一気に息を吹き出す。
あ、出た。
大きな音と共に水面に稲妻が走りそれが収まったら、プカプカと魚が浮いて来る。
出来た、なんか魔法を使った気が全くしないけど出来た。
「人間が来る前に大きいの食べちゃいましょ、でもそこの一番大きいのはママへのお土産ね」
「わかりました、いただきます」
姉さんに全部食べられる前に僕も食べよう。
それと、午後は姉さんにお願いして魔法の勉強をさせてもらおうかな。




