4話 もう一人の家族
朝、朝食を食べ終わり宿を出る。
村を出る前に、暫く人に会う機会も無くなるだろうと言われたので村の中を少し散歩する事にした。
母さんからお小遣いを貰った僕は、宿屋のおばちゃんが言っていたキャラバンが居るという町の広場へ足を向ける。
まだ人通りも少なく設営中の屋台も多い中、営業を始めている屋台を見回す。
流石に田舎の村に来るキャラバンだけあって屋台の内容は生活必需品が多く、興味をそそる物が無い。
結局、前髪が目にかかるので、それを纏める為の髪留めを一個を買っただけだった。
「ただいま、母さん。」
「お帰り、髪留めを買ったのか?」
「うん、あっ竜になったら壊れちゃうかな?」
僕が買った髪留めの心配をしたら母さんが髪留めに手をかざして服と同じ効果になる魔法を掛けてくれた。
その魔法、絶対に教えて貰おう。
村を出て昨日の夜に降りた街道の横に移動して竜化する。
改めて山の上を見ると、昨日と同じく山頂は雲の上。
「飛び上がったら母の尾を咥えろ、母が上まで引いていく」
「へ、母さんの尻尾を咥えるの?」
「ああ、上まで行くにはそれなりに加速を付ける必要がある。 まだ、お前にはそれだけの力が無いだろう」
母さんの後に続いて飛び立ち、ある程度の高度まで昇ると母さんが前に出て僕の方へ尻尾を伸ばしてきた。
ちょっと戸惑いながら噛み付くと、もっと強くかまないと振りほどかれると怒られたのでしっかりと噛み付く。
「行くぞ、しっかり咥えていろよ」
その一言の後、母さんの羽がひときわ大きく羽ばたいたと思うと躰が一気に引っ張られる。
速いっ! 咥えていた尻尾に力いっぱい噛み付く。
今まで体験した事の無い速度で景色が流れ、恐怖を感じる程の高さに体が引き上げられていく。
もう少し雲の中に入るのが遅かったら、恐怖で体の力が抜け尻尾を放してしまっていただろう。
目の前を飛んでいる母さんすら霞んで見える程の濃い雲の層を抜けると一気に視界が開ける。
見上げると青空と太陽のみ、他には何もない。
地上で見上げる青空も、雲の上で見る青空も同じはずなのになんて美しい青なのだろう。
空の色に感激していると上昇感が無くなり、目線を上から前に戻すと頂上が見える。
山の上は広く、整地されているように見える。
多分竜の状態で休むための洞穴、水浴びする為の大きな水溜まり、そして人のサイズの家。
ここが母さんの巣なのだろう。
無事に着地して周りを見ると本当にここは山の上かと疑問が沸いてしまう。
山の上ってもっとごつごつした岩だのが転がっている物なのでは?
「どうした?」
「ここって、母さんが切り開いたの?」
「ああ、広場を作る為に山頂を吹き飛ばした」
山頂って吹き飛ばせるものなのね、母さんの力って凄いんだな。
いずれ独り立ちしたら、僕もこういう事するのだろうか。
「ママ、帰って来たのねっ! お帰りー!」
聞こえてきた大きな声に驚いて家の方へ顔を向けると、僕たちと同じ白い髪に角の生えている女の人がいる。
ママって母さんの事だよね? てことはこの人は僕の……
「今帰ったばかりだ、大事は無かったか?」
「うん。 それよりママ! この子っ!」
「お前の妹だ」
やっぱり姉さんか。
って、ちょっちょっと待って、竜化してそんな速くこっちに走ってこないで!
あ、危なグベッ
「きゃー、可愛いわっ! 遂に私にも妹が出来たのね!」
「ねっ姉さんっ くるじい」
「お姉ちゃんって呼んでーーー!」
一回り大きいドラゴンにのしかかられてじゃれつかれるというのがこんなにも苦しい物とは。
姉さん、お願いですから離れて! 息が出来ない。
結局、母さんに首ねっこを噛み付かれるまで姉さんのじゃれつきは止まらなかった。
僕の息が整い、姉さんの上がり切ったテンションが収まってから自己紹介。
どやら姉さんは既に一人立ちしているけど、僕の教育の手伝いとして一時的に母さんの巣に戻って来て居るとの事。
そして竜人族に紛れて生活するときにはキキョウという名前で生活している事。
僕の魂の話をすると、反応は母さんと全く同じ仕方が無いさーって。
母さんと言い何でそんなさっぱりしてるの? 竜ってそんなものなの?
竜人族として生活するときの僕の名前がもう決めちゃっている事を伝えると、凄いいじけられた。
どうやら名付け親になりたかったらしい。




