47話 思ったより遥かに早い再会
神殿の地下への入り口、その前に立って居る守衛さんの前で重大な事実を思い出す。
今日、ここに来る時に鞄に入れて来た物。
鉛筆、紙、干し肉、ドライフルーツ、小銭入れ、以上。
あー……入場札……
母さんに預けたままだった……
「あのー、入場札を忘れちゃったんですけど、持ってないと入れませんよね?」
「勿論です」
「ですよねー」
このままここで立ち尽くしている訳にもいかない。
一旦、母さんの巣に行って入場札を貰って来るべきか。
でもここから往復するとそれなりな時間も掛かるし、もし留守だったりしようものなら今日は入る事は出来ない。
折角なけなしのやる気を出してここまで来たんだし、出来れば気配殺しの効果があるかどうかだけは知りたい。
となると、銀貨一枚もするけど……新しく発行して貰うか。
入場札を再発行して貰う為、売り場へと歩く。
札を発行するカウンター以外にも、食堂や地下で使う装備や薬を売っている売店、冒険者の人達が寛ぐテーブルなどがしっかり揃ってて、結構至れり尽くせりな感じ。
町中を散策する前にここら辺を散策する方を優先しようかな。
とりあえず、まずは札をと考えた時、
「久しぶりだな」
「ひゃっ」
そんな言葉と一緒に、頭をポンと手を添えられる感触。
予想外の不意打ちに、情けない声を挙げて飛び上がる。
「わ、悪い。 脅かせてしまったようだね」
「えっと……誰?」
「おいおい、まだ別れてからそんなに経ってないだろうに」
いえ、本当に誰?
目の前の男の人に目を向け、記憶を遡る。
坊主頭に、革を主体として急所になる場所には金属をはめ込めた鎧。
筋肉質な体格に浅黒く焼けた肌、目の前の人物が僕の記憶に何一つ引っ掛からない。
いや、一個だけ引っ掛かった。
「も、もしかしてその剣は……ルイン……さん?」
「人を剣で覚えているのか? 出来れば顔で覚えておいて欲しかったな」
「だって……」
だって、違い過ぎる。
髪だって生えていたし、肌も焼けてなかったし、装備だって近衛の鎧だったし……
あのイメージのまま、目の前の坊主頭の浅黒い人が同一人物だって言われても、はいそうですかと言えるわけがない。
「一月前から変わりすぎですよ、誰が見たって同じ人だなんて思いませんよ」
「まぁ、身分は隠す必要があったからね、手っ取り早く変えられるところから変えたって感じさ」
「そうでしたか、月並みで申し訳ないですがお元気そうで何よりです。 ところで、こんな所で何をやってるんです? 世捨て人ならもっとこう、山奥で岩の上で瞑想したり、釣り針の付いていない釣竿を川に慣らして、川のせせらぎを見つめたりとかしてなくても良いんですか?」
「……残念ながら俺は、一年中桃の実がなる木の場所も知らなければ、霞を食べて生きていける程特殊な体質でも無いのでね、生きて行く為の糧を稼がにゃならん」
まぁ、それもそうですね。
でも、まさか姉さんに連れられて行ってからわずか一月で再会してしまうとは。
世の中が僕が思っている以上に狭いのか、巡り合わせが良過ぎると言うべきか。
「それで、結局は何をされているんです?」
「あぁ、見ての通り冒険者って奴だね。 自由気ままに、この身一つで金が稼げる、正直な話……まだ苦労らしい苦労をしていないと言うのもあるだろうが、あの固っ苦しい国に居るより今の方が充実しててね。 もしかしたら俺には勇者なんかより冒険者方が合ってるのかもしれない」
「そりゃあ、ルインさん程の実力があれば苦労らしい苦労なんて……」
勇者の実力がある冒険者。
そう考えると、恐ろしい物がこの世に誕生した気がする。
「あの後、色々あってルインさんが何処に連れて行かれたのか聞いてなかったのですが、まさかレイテンに連れて来られていたとは知りませんでした」
「いや、ここには護衛の仕事で来ているだけだ。 俺はもっと南のグリーンベル王国と言う所に連れて行かれて、そこを拠点にしている」
「え、それじゃあここで会ったのって偶然なんですか?」
「偶然と言えばそうなるのか?」
なぜ、語尾が疑問形?
「今、この街は冒険者どころかここら辺一帯の国から注目を浴びているんだが、もしかして知らなかったのか? てっきり、君がここに居るのもそれの為だと思っていたんだが」
注目されている?
皆あるかもわからない宝を狙って一攫千金みたいな事でも?
いや、それだと国が注目している意味が分からない。
もしかして、この前の戦争が関係していたり?
「そのポカンとした顔を見た感じでは、本当に知らないと言う感じだな」
「ええ、さっぱりです」
「そうか、君なら絶対に何か知っていると思っていたんだが……あまり人に聞かれたくない話をしたいんだがちょっと隅っこに行かないか?」
「……?」
ルインさんに連れられて端っこにあるテーブルまで移動。
なんか、冒険者の秘密事みたいでちょっとドキドキするな。
「で、あまり人に聞かれたくない事とは何でしょう?」
「ここ最近この街が注目を浴びている理由なんだが、白の女王のせいなんだ」
「母さんの?」
「まぁ、そう言う事になる。 2週間くらい前からだったかな、ある噂話がそこらじゅうで囁かれるようになった」
「ほうほう」
ズイッと顔を近づけてきたルインさんは、一気に声のトーンを下げ、まるでおとぎ話でも語るような口調で続けて来る。
「白の女王が、レイテンの街の上空に飛来するようになった」
あー……それは……
「勇者を喰らった女王は、次に勇者の宝を狙っているのではないか」
いや……そうじゃないんですよね……
それに勇者を喰らったって、貴方今そこに立ってますよね?
「最初はよくある噂話程度だったんだが、実際に女王が街の上空を……さらには鱗すら確認出来る程低空を飛ぶ女王を実際に見る者達が増えて来ると、噂が確信になった」
完全にそれ、僕の為に下見に来ていただけですね。
母さん、あまり人目とか気にするようなタイプじゃないからなぁ……
「この街の神殿の地下には、勇者の宝があると言われているがモンスターのせいで未だ誰も目的地に辿り着いた者が居ない。 だからあると言われている宝に興味があっても、本当に存在しているのか分からない宝の為に冒険者は勿論、国だって金や時間、更には人の命を懸ける訳にはいかなかった。 だが……」
え、そうなの?
「女王が目を付けたという事は……宝は本当に存在しているのだろう……」
ないです、はい。
地下には水の出る魔法石だけですよ、多分。
「しかも、女王を引き付ける程の宝だ……どれ程の価値を、力を有しているのか…… 何としてでも手に入れなくては……」
………
「と言う感じなんだが、どうした顔が青いぞ? やはり何か知っているのか?」
「えっと、そのぉ…… 知らないと言えば知らないのですが、自分のせいと言えば自分とせいと言うか何と言うか」
ど、どう説明すればいい?
僕の我儘で思いの他、沢山の人達が勘違いして、動き回ってしまっている。
これは非常に、宜しくない気がする。
「そのですね、宝なんですけど……」
「クリス、待ってくれ。 結構物事をスパッと言う君が顔を青くして言い淀むという事は、それほどの事なのだろう」
「あっいや、違っ」
「みなまで言うな、女王に口止めをされているという事だけ分かればいい。 よし、女王を引き付ける宝、俺も一目拝んでみたくなって来た」
「え? ちょっと待って、あのですね人の話を聞いて頂けると……」
この前の戦争の時もそうだったけど、この人は思い込むと人の話を聞かないタイプだ。




