46話 現実は逃避する為にある
レイテンの街の入り口に今日は一人で立つ。
よくよく考えたらこの躰になってから、人の姿で一人で街に出るのって初めてだった気が。
引き篭もって居た訳じゃないけど、自分から積極的に街に出る事も無かったし、何時も母さんか姉さんが一緒だったなぁ。
そう考えると、これだって大きな一歩……という事にしておこう。
さて、街の入り口で佇んでいないでやる事をやってしまおう。
神殿へ向かいつつ、今日のやる事を頭の中で反芻してみる。
一つ目は、地下一層目で気配殺しの効果があるのかを確認。
二つ目は、お昼にパンケーキを食べる。
三つ目は、水筒を買いつつ、街中のお店を散策したい。
そんなところかな?
気配殺しの効果が、ここのモンスター達に通用するなら行けるところまで行ったり、不意打ちでモンスターを倒してみるのもアリかもしれないけど、そこら辺は臨機応変にその場で考えよう。
頭で考えた事なんて、現場に行ったら役に立たないって事はこの前の戦争に行ったときに、嫌って程実感させられた。
どうせ今日だって結局は最後まで行けずに、師匠に相談する事になるのだろうし。
となると、今日の最大の案件はお昼に食べる予定のパンケーキ……に載せるトッピングか。
只の現実逃避だと言うのは理解しているけど、優先事項はお昼ご飯と言う事にする。
じゃないと、神殿まで足を動かし続けられる自信がない。
シンプルにバターとメープルが失敗が無くて間違いないとは思う。
しかし、アイスクリームやフルーツも捨てがたいし、ソースをメープルからホイップクリームやジャムに変える選択肢も出て来る。
姉さんなら全て食べると言う選択肢が出て来るだろうけど、残念ながら僕のお腹の許容量ではそのような暴挙に出る事が出来ない。
お団子以来の一月ぶりになるドライフルーツ以外の甘味だ、失敗はしたくない。
「ふむ……ジャムだって色々とある……、そう考えたらアイスだって様々なフレーバーが……むぅ……」
「嬢ちゃん、何をブツブツ言っているのか分からないがそこに居ると邪魔だよ。 悪いがどいてくれないかい?」
「へっ!? あっすみませんっ」
冒険者の格好をしているおじさんに声を掛けられて慌てて道を譲り周りを見ると、神殿の入り口に立って居る事に気が付く。
現実逃避をしている間に、もう神殿まで着いてしまったか。
パンケーキの事は一旦、心の隅に置いて今は目の前のやるべきことをやろう。
そして、さっさと自分の限界を感じて今日は逃げ帰ろう。
と思ったけど、折角だし……
「悪いね、通らせて貰うよ」
「おじさん、ちょっと良いですか?」
「ん、なんだい? 入場札の売り場は地下への入り口を右側に歩いて行ったところにあるぞ」
「昨日も来たので、そこら辺は分かります。 本当に唐突ですが、パンケーキを食べる時のトッピングと言ったら何を思いつきます?」
「なんだい、そりゃ?」
現実逃避は、残念ながら今も絶賛続行中である。
僕の的外れな質問に呆けた顔をしているおじさんに、若干申し訳なく思いつつ答えを待ってみる。
仕方ないんですよ、こう言う事してないと怖くて逃げたくなっちゃんだもん。
「おじさん、そう言うのはあまり食べないんだが。 そうだなぁ……」
「すみません、変な質問しちゃって」
おぉ、てっきり変な娘を見る目をして何も答えずに立ち去られると思ったら、立ち止まって考え始めてしまった。
こんな下らない質問の為に時間を割いてしまって御免なさい。
いずれ、何かしらお礼をさせて頂くチャンスがあったら、お礼をさせて下さい。
あ、そだ。
折角だし、迷って決められない状態でダラダラと時間を無駄にするくらいなら、おじさんのおススメを今日は挑戦してみると言うのも悪くないかも。
「大分前に食べたアレが美味しかったな、えっと……」
「やはり、メープルですか? それともジャム?」
「ベーコンと半熟卵を上に乗せて、塩コショウを振った奴が良かったな」
「ファッ!?」
おススメ挑戦はやっぱ無しの方向で。
まさかの塩分!
邪道だ……パンケーキに塩分なんて、それではパンケーキの意味がなくなってしまう。
「ビールを片手にあの黄身がトロッと流れ出て、ベーコンと絡ませて一気に食うのがって、嬢ちゃん? どうした?」
「は……ははは……何でもありません。 参考になりました?」
「何か語尾がおかしい気もするが、参考になったようだね。 それじゃあ」
神殿の中へ去って行くおじさんの背中を見送る。
名前も知らない見ず知らずの人に、自分のお昼ご飯を委ねるのはやめよう。
うん、自分の事は自分で決めないと。
さて、パンケーキの為にも僕も神殿の中に入ろう。




