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3話 母という者

ドラゴンには名前と言うものが無いらしい。

竜人族に紛れて生活する場合のみ、自分で気に入った名前を名乗るそうだ。

そして、この躰を生んだドラゴンさんの竜人族として生活する際の名前はアレサ名乗っているとの事。

なら僕はそのままクリスと名乗ろう。


アレサさんからまず教わったことは竜化の方法。

最初の内は何がなんやらさっぱりだったけど、コツを掴めば簡単だった。

その次は飛行、羽をパタパタさせると飛ぶ事が出来たのだけどスタミナが続かない。

今まで人として二足歩行な生活を送っていたので、竜の躰と言うのはとても新鮮で難しかった。

長い首、四足歩行、そして尻尾。

人間の形では絶対に味わえない感覚に感動を覚えつつ竜生活に慣れた頃、やっとのことで竜の胃袋から出る事が出来た。


「つ、疲れた……」

「少し離れたところに池がある、そこで休むぞ」


アレサさんの後ろについて飛ぶ。

暗い洞窟の中を飛ぶのではなく、青い空の下を飛ぶと言うのはとても感動的だ。

こんなに世界が綺麗なんて人間だった頃には絶対味わえない。

感動に浸っていると目の前に小さな池が見え、ふもとに着地……墜落した。

今度は着地の訓練が必要だな。


久しぶりに竜から人に戻り、水面に映った自分の姿を見る。

アレサさんと同じ白い髪と角、爬虫類特有の縦長の瞳孔、本当に自分なのかと疑わしくなる美貌に目を奪われる。


「ここで一休みだ」

「うん、水浴びしていい?」

「構わないが人でやるようにな、竜だと水が溢れる」


確かに。

アレサさんに比べると三回りは僕の体は小さいけれど、この池に竜の躰で飛び込んだら水が殆どあふれ出してしまうだろう。

服と下着を脱ぎ捨て池に飛び込み体を洗う。


「アレサさん、僕たちはこれからアレサさんの巣に行くんですよね?」

「ああ、巣に戻ってその躰の使い方の訓練をする予定だ」


魔法とか使えたりするのだろうか。

今まで何の力も使えなかった僕としては、竜に変身して空を飛んだだけでも感動物だけど、更に魔法なんて使えたら夢のようだ。


「その前に腹ごしらえだな」

「う、確かにお腹が空きました」


竜の胃袋に居る時はアレサさんが外からモンスターを狩ってきてくれたけど、最初は食べるのに躊躇した。

でも、背に腹は代えられず頭からガブッと行ったら美味しくてビックリ、ドラコンの味覚ってどうなっているんだろう。


「さて、初めての狩だ。 やってみろ」

「はい?」


アレサさんが首で指した方をみるとクマのモンスターが居た。

お腹がクーと鳴る。

ははっ……モンスターを見て美味しそうなんて思える日が来るとは。


急いで池から飛び出て竜化する。

それを見たモンスターが恐れをなして逃げ始めるが、四本の足で勢いよく走りモンスターに追いつき、首を突き出し嚙み付くけど直前で避けられて木を嚙み倒しただけ。


「くそ、すばしっこい」

「まだ喰らい付くには早い、前足で押さえ付けろ」

「はい!」


指示通りに前足でモンスターを踏み、押さえつけてから頭をかみ砕く。

まだ首の使い方が慣れていないんだ、いきなり齧り付くのは早かったか。

あぁ、モンスター美味しい。

お腹を満たした後、一度人に戻り服を着直す。


「便利ですよね、竜化している間は魔力に戻って改めて人化すると服になるって」

「我は気にしないのだが、人の知り合いが竜から人になった時に裸になるのはどうにかしろと煩くてな」


倫理観の違いかー、僕だったら人前で裸になるのは恥ずかしいなぁ。

竜化しているアレサさんの前でも結構恥ずかしかったし。

魔法を覚えたら、この服を作る魔法だけは絶対に覚えないと。


しっかりと休んだ後、移動再開。

時々休憩を挟みながら一日程飛び続けると海に出た。

始めて見る海に感動しながら海岸線に沿って二日飛ぶと大きな山の麓に着き、一休みする。


「この山の頂上が我の巣だ」

「高いですねぇ、あそこまで飛べるでしょうか」


見上げると山頂が雲で見えない。

間違いなく巣は雲の上にあるのだろう。

ここに来るまでに分かった事だが、遠くに飛ぶときと高く飛ぶときでは羽の使い方が違う。

あの雲の高さの半分の高さも飛んだことが無い僕としては、雲の上まで飛ぶ自身が無い。


「さぁ、しっかり休みましたし行きましょうか」

「まて、もう夜だ。 今日は人になりこの近くの村で宿を取りしっかり休息するぞ」

「大丈夫ですよ、体力も回復しました」

「だめだ、お前はまだ雲を抜けたことが無いだろう、明るくても経験の無い奴は上下左右の間隔が狂う。 ましてや三日近く飛びっぱなしだ、気が付かない疲労も溜まっているはずだ」


アレサさんに促されるように村の近くの街道まで飛び、人気がない事を確認して着地して人化して村に入る。

村に一つだけある宿屋を見つけて入ると、どうやらこの宿は食堂も兼ねているらしく扉を開けた途端食欲をそそる良い匂いが漂って来る。

今日はモンスターじゃなくて、料理が食べれるんだな。 楽しみだ!


「あんらー綺麗な竜人さんだねー お二人さん親子かい?」

「あぁ、我の娘だ」


不意打ち気味の宿屋のおばちゃんの大きな声にビックリし、アレサさんの娘発言に二度ビックリする。

そうだ、僕はこの人の娘になったんだ。

アレサさんって呼ぶのはどうなんだろう、母さんの方が良いのかな?


「急なのだが、二人部屋の空きはあるか?」

「あー、すまないねぇ。 今日はキャラバンがこの村に来ているから部屋が殆ど埋まっちまっててねぇ、空いているのは一人部屋が一室だけなんだよ」

「ならそこで構わん、二人分の宿泊費は出すから泊めてくれ」

「悪いねぇ、その分夕食はサービスするよ」


久しぶりに人としてお腹一杯料理を食べ、良い匂いのする石鹸で体を洗い、温かいお湯の張られた湯船につかると、ドラゴンの時に溜まっていたと思われる疲れがどっと出て来た。

作ってくれた寝間着に着替え、長い髪に慣れていない僕に代わって髪を拭いてもらっていると疲労がどんどん眠気に代わって来る。


「さて、髪も乾いたしそろそろ寝るか」

「……ん」


意識がもうろうとしながらベットに倒れこむと反対側にアレサさんが入ってきて僕を抱きしめて来る。

暖かい……この暖かさは、もう僕には味わえないと思った暖かさだ……


「アレサさん」

「何だ?」

「アレサさんの事……母さんって……呼んで良いですか?」

「当たり前だ、我はお前の……クリスの母なのだぞ。 母の事と母と呼んで良いかと尋ねる必要なんかある訳ないだろう」


その答えを聞いた瞬間、胸奥から気持ちが込み上げて来て涙として溢れ出す。

僕は今まで生きてきた中で一番幸せな時間を噛みしめ、そして初めて嬉しいという気持ちで涙を流しながら、心地よい暖かさに身をゆだね意識を闇の中に落としていった。

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