21話 すっかり忘れていた不安
「な、ななななな何を言っているのかな、そっそんなわけある訳ないじゃない。 やだなーもー」
どうやら、不安が的中してしまったようだ。
信じられないけど、姉さんのあの異常な程わざとらしい反応を見ると間違いないのだろう。
でも、そう考えると益々モヤモヤが湧き上がって来る。
「姉さん、母さんは大丈夫なのですか?」
「だっだから、争ってなんて……ないのひょ」
あ、噛んだ。
姉さん、ちょっと落ち着いて下さい、慌てたいのは僕の方なのですから。
でも、目の前で自分以上に慌てている人が居ると、逆に冷静になって来た気がする。
「僕の所に遊びに来てくれたのは嬉しいのですが、こういう時には母さんの元に居た方が良いのではないのでしょうか」
「そっそれは……あたしもそう言ったんだけど…… ママがこっちで暴走を止めなさいって言うから……」
暴走? 僕が暴走する?
母さんが危険だと思って争いの場に向かってしまうのを、姉さんに止めさせるって事?
正直、僕は自分の力を把握していないけど本気で争った事なんて無い。
そんな僕がいくら自分や家族を守る為とは言え、母さんの戦いの手伝いや……人を、人を殺すなんて出来る自信が無い。
もし、争っている場に行ったら間違いなく足手まといにしかならない事位は弁えているけど、母さんにはそうは見えなかったかな?
「あっ違う。 全然そんな事ないのよ! 別に争っている訳でも無いし、そうっ旅行! 旅行に行っているのよ。 きっと今頃、美味しい物を……」
「姉さん、流石に今から話を変える事は難しいと思います……」
何とか争っていない方向に話を持っていきたいみたいだけど、それをやられると堂々巡りになってしまいそうなので、姉さんにはそろそろ覚悟を決めて貰いたい。
隠されると、逆に心配が強くなってしまう。
「うぅ……そのね…… はぁ、嘘付くのって苦手なのよね…… 戦争が始まっちゃってね、そこにママは居るのよ」
「母さんは、その人の戦争に関わっているんですね?」
「うん。 でもね、心配する必要は無いの、ママの脅威になる人間なんて絶対に居ないから」
脅威になる人間が絶対居ないって、母さんはそんなに強いの?
僕よりもずっと母さんの事を知っている姉さんがそう言うなら信じるしかない。
心配の気持ちが無くなってくると、今度は当然の質問が湧き上がって来る。
「普段何をやっているのかは知らないのですが、母さんは姉さんと違って人と関わらないように生活しているように思っていました。
その母さんが、なぜ人の争いに参加しているんですか?」
「それがよく解らないのよねぇ、ママは自分の縄張りの中での人間同士の争いには、今まで我関せずだったんだけど、急に今回は動いたからあたしもビックリしたし」
縄張り?
ドラゴンにも縄張りとかあるの?
と言うか、どこからどこまでが母さんの縄張りで、縄張り内同士の争いに我関せずなら外から来たらどうなっちゃうんだろう。
「縄張りってドラゴンにもあるんですか?」
「そりゃあ、あるわよ。 ママの縄張りはこの大陸全体とその周りの島々よ」
この世界がどのくらい広いのかは知らないけど、「見渡す限りが母さんの縄張り」という事なるんだし広い気がする。
それよりも、縄張りの中で人間同士の争いには、今まで我関せずらしい母さんがどうして戦争に参加しているのだろうか。
「あたしが生まれてから何度も縄張りの中で戦争があったけど、一度もママが関わる事なんて無かったのに、今回に限って何があったのやら?」
「今までと何か違う事ってないんですか? 例えば、このまま放置してたら大陸全体に戦火が広がって沢山の人が死んでしまうとか?」
「そんなの今まで普通にあったよ。 でも、そんなときでもママは関わらなかったし」
普通にあるんですか……普通に……そうですか。
今回の戦争に母さんが動く理由……今回が初めての理由……うん、全く分からない。
「他には、母さんが贔屓にしている国が今回初めて戦争をするとか?」
「贔屓にしている国なんて無いと思う。 でも、あたしが知っている限り、今まで絶対に中立を守ってきた国が初めて戦争するかな? と言うか、その国が周りに喧嘩を吹っ掛けている感じだし」
それだ! そこに母さんを動かす理由が!
どんな理由かは知らないけど、その国がきっと関わっているんだ。
「姉さん、きっとその国です。 その国の何かが母さんを動かしたんですよ」
「かなぁ、でも何の特徴も無い国なんだよガルシュ王国って。 急にそこら中に喧嘩を吹っ掛ける様になってちょっとウザい位しかイメージが無いのよね」
「え……」
ガルシュ王国って僕の生まれた国。
そして、久しぶりにその国の名前を聞い時に思い出した。
3人で暮らしていた頃に街で姉さんとケーキを食べながら聞いた事、冗談だと思ってすっかり頭の片隅に追いやられていて、今の今まで思い出さなかった……違う、思い出したくなかった事。
---勇者の力を使って、戦争をする
絶対にあってはならない事。
それを、本当に行うのだろうか。
「ガルシュ王国が戦争をするって事は、勇者の力を使うって事ですよね?」
「まぁ、そうなるのかな? あの国が戦争を始める理由ってあの力が有るからだろうし。 でも、勇者とか言ってるけど、あたしからしたらあんな紛い物をっと」
「止めなきゃ……」
立ち上がろうとした瞬間に、姉さんに肩を掴まれベンチに押し付けられる。
強く押し付けられたせいで肩が痛い。
「姉さん、立てませんから手をどけてくれませんか?」
「ダメよ。 あたしがここに遊びに来た以外の理由、忘れちゃった?」
来た理由? 暴走を止めるんでしたっけ?
あぁ、そう言う事か。




