20話 お昼ごはんと、気が付いてしまった事
冒険者ギルドから出て姉さんの後に付いて行く事30分、道に迷いつつ何とか目的の丼屋さんに到着。
鹿の角の換金や道に迷ってしまったせいで、すっかりお昼ごはんの時間帯に突入してしまい、お店の前にはそこそこの行列が出来てる。
「姉さん、混んでますね。 これは結構な時間待つ事になりそうですし、別の所で食べませんか?」
「うっ、並ぼう! 我慢して食べた方がきっとおいしさも何倍に跳ね上がるわっ」
何と言うか、驚いた。
正直、姉さんはあまり待つとかそう言う事が苦手だと思っていたのだけど、その姉さんが並んでまで食べたいと言うのは、想定外だった。
「ここってお客さんが凄い並んでますが、そんなに美味しい食事がとれる場所なのですか?」
「そうよ、ずっと前にママに連れてきてもらったんだけど、美味しくて4杯も食べちゃった位だもの」
「4杯は食べ過ぎじゃあ……」
お店の看板に目を向けると「ちりめん」と書かれているけど、何なのかが全く分からない。
看板は波の絵とか青を基調としているから海産物なのだろうか。
「ちりめん? 魚か何かですか?」
「そうよ、魚を煮て干したものなの。 それをお米の上にたっぷりと振りかけて食べるのよ」
「魚の丼なのですね」
「一杯目はシンプルに、二杯目はトッピングと一緒に、三杯目はスープでふやかしつつ、四杯目はフリーダム! あぁ……楽しみだわっ」
煮て干した魚……干物をたっぷり振りかける? 干物なんて一匹あれば十分なのでは?
それとも干物が主食で、お米をおかずにして食べる?
だめだ、姉さんの言っている事が全く分からない。
全く想像がつかないけど姉さんを虜にしたうえに、これだけの人間を並ばせる素敵な干物なのだろう。
お昼ごはんが干物と聞いたときは、ちょっと何とも言えない気持ちになったけど、逆に楽しみになって来た。
僕達がお店に入れるまではまだ時間が掛かりそうなので、列に並びつつ小休止。
姉さんはお店の入口の方を向いてそわそわしているせいか、特に会話が無いので折角だしゆっくり街の観察をしつつ、まだお昼なのに色々とあった今日を振り返ってみたりしてみる。
ポメラさんから網と種を貰って帰ってきたら姉さんが遊びに来てて、街に連れ出されてギルドで髭ダルマさんに会ってルールを教えて貰ったり、傭兵だの薬草畑だのの仕事がある事を知ったり、お昼ごはんの為に並んでみたり。
あ、ご飯食べたら街を見て回るんだっけ。
竜になってからこんなにバタバタとしたことなかったなぁ。
違うな、人だった頃からこんな経験した事なかった、ずっと訓練ばっかりで怒られて叩かれて……
何でも簡単にこなせる妹にいつも比べられてばかりで、楽しい事なんて……
「別のところ行く?」
「ふぇ?」
「何か急に元気なさそうになっちゃったから、ご飯我慢できないならココじゃなくても良いのよ?」
「あっ、いえっそうじゃなくて今日は、色々あったなぁって思い出していたんです」
いけない、人に囲まれているせいか良くない方向に考えが向いてしまった。
折角、姉さんに街に連れてきて貰ったのに僕は何を考えているんだろう。
「そう言えば姉さんは、今日は泊って行ってくれるんですよね?」
「うん。 2、3日位居ようかなーって思うけど大丈夫?」
「勿論です! それでですね、姉さんが来てくれたんですし折角なので、明日は母さんも誘って3人でご飯を食べませんか?」
「ママもっ? そおねぇ、でもママは今ちょっと忙しいらしくて少し前から巣に居ないの。 3人でご飯はママが帰って来てからかなぁ」
母さんは出かけてるのか、確かにほぼ毎日のように僕の巣の上を飛んで様子を見に来てくれていたけど、ここ数日は見かけなかったのはそう言う事なのか。
ん? 何か胸に引っ掛かると言うか、モヤモヤしたものが込み上げて来る。
「姉さん、ふと思ったのですが母さ「次の方~ お席空きましたのでどうぞ~」……」
「お、あたし達の番だね。 で、何か質問してなかった?」
「僕たちの順番が来たので、先にご飯食べてからにしましょう」
お腹もすいたし、大量の干物を振りかけて食べる意味の分からない丼を早く見て見たい。
質問はお腹を膨らませてからにしよう。
姉さんの後に付いてお店の中に入り席に着いて、何を注文して良いのかが分からないので姉さんと同じものを注文。
暫くして運ばれてきたものを見て衝撃を受けつつやっと納得。
なるほど、確かに干物を大量に振りかけた丼だ。
小さい小魚の干物が大量に。
大きな干物がご飯の上に乗っているなんて、ある訳が無いのに何を考えていたんだろう。
何と言うか、ギルドのアドバイスをしてくれた髭ダルマさんの事もそうだし、この丼と言い先入観を持って物事を見てばかりだな僕は、もっと現状を見てしっかり判断しないと。
「お替りくださーい、トッピングでネギと卵もー」
「はいぃ?」
我に返ると姉さんの目の前の丼がすでに空となり、既に二杯目の注文が始まってる。
早い! 竜の姿でご飯を丸呑みにしてるのを見ていたけど、人の姿でもご飯は丸呑みなのですね。
と、とにかく僕も冷める前に食べちゃおう。
初めてのチリめん丼の感想は、美味しかった。
ただ、目の前で凄い勢いで食べている姉さんに釣られて、二杯目に手を出したのが失敗。
姉さんが面白いようにご飯を飲み込んでいくのを見ていたら、僕も二杯目くらいは行けるのではなんて甘い考えが湧き上がり……先入観だけじゃ良くないって考えた矢先でこれでは。
お店を出て公園のベンチで一休み、お腹が苦しい。
姉さんは最初の宣言通り四杯と、デザートの餡子餅まで押し込んでいたけどどこに入るのだろう。
「ふー、お腹いっぱい」
「食べ過ぎました」
「そう言えばさ、お店に入る時に何か聞いてたよね?」
姉さんが遊びに来て、ギルドに行ったり、母さんがどこかへ出かけてしまっている話を聞いて胸に引っ掛かる物。
さっきも反省した先入観で勝手に考えすぎて、決めつけているだけの気もするけどモヤモヤする疑問。
「母さんはどこに行っているのでしょうか?」
「そのっ……ちょっと、用事があってねぇ……」
しどろもどろになる姉さんを見てると、モヤモヤが強くなる。
「姉さん」
「う、うん?」
聞きたい事はあるのだけど色々と疑問が沸いて来て頭の中で上手く言葉が纏まらない。
冒険者ギルドで用心棒とか護衛以外に、「傭兵」も募集していた。
薬の値段が高騰して、人を雇わなくてはいけない程、薬草畑が忙しい。
…なぜ、姉さんがこんな時期に僕の所に来たのか
…なぜ、母さんがこんな時期に何日も巣を空けているのか
多分、偶然母さんが出かけるタイミングが重なっただけの気もするけど、考え始めたら止まらない。
「母さんは、戦争に巻き込まれていたりなんてしていないですよね?」
転職って、大変ですねぇ……………




