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番外編4

いつも作品を見ていただいてありがとうございます。

番外編ですがお楽しみください。

まだ、自分が王になるなんて思ってもみなかった頃があった。


恐ろしく剣が強い姉がいて、彼女の治世を自分は助けるのだろう、そんな風にしか思っていなかった頃があった。


それは、かなえられることはなかった。





離宮の裏手、誰も来ないであろう場所の木の下に、アステリア王国第一王子は寝転んでいた。

そんな彼に近づく女性がいた。

「また、家庭教師から逃げ出したのね?」

第一王子の額をペシンと叩いた。

「いたっ!?・・・・・・姉上」

誰にも邪魔されることはないと思っていた昼寝を邪魔され、少々顔をしかめた。

「みんな探していたわよ」

「・・・・・・あの家庭教師から学ぶことはないので、必要ないと言っただけです。あの程度のこと、一度見ればある程度理解できます」

それを聞いたアステリア王国の王太子エリーゼはその美しいかんばせをしかめ、ため息を吐いた。

たなびく黄金の髪、美しく輝く蒼の瞳に透き通るような白い肌を持ち、百合の化身、とまで言わしめるその美しさを持つ。

それゆえに、数多の男たちから求婚を受けるが、その性格の苛烈さから求婚者はあっという間に消えていくのは笑い話にもならない。

エイダに教育を任せたのが間違いだったのだ!!と嘆きがあちらこちらから聞こえたりもする。

「また、そんなことを言う。彼らの仕事を取るものではないわ」

「姉上だって、ダンスの稽古から逃げていたじゃありませんか」

「わ、私は運動神経がいいから、大丈夫なの。必要になったら、前日に練習するわ」

「それ、練習相手は僕とアドルフでしょう? ヒールで足を踏まれるのはいい加減ご免ですよ?」

「そんなこと、しないわよ・・・・・・多分」

エリーゼはかわいらしく頬を膨らませた。

「そう言えば、アドルフも探していたわよ。かわいそうだし、いい加減戻ったら?」

「アドルフはまじめすぎる。姉上の戦公爵があんなに真面目だったら、これから先大変でしょうね・・・・・・」

「ちょっとそれはどういう意味よ」

「ごめんなさい」

頬を思いっきり引っ張られた。

「戦になるかもしれないわ」

不意に真面目な姉の声が聞こえた。

「・・・・・・ガルディア帝国ですか」

「ええ。さすが、早いわね」

「・・・・・・最近の動きはおかしすぎる。あの皇帝、精神状態は大丈夫ですか」

「よくはないでしょうね。城の内外も荒れ放題ですって」

「それなのにこちらに戦争を仕掛けてくると? ・・・・・・自分の国を潰すつもりなのか?」

「さあね。でも、もしそうなったら、城はあなたに任せるわよ?」

その言葉は姉が出ることを示していた。

「姉上が出るのですか? だめですよ、国王と王太子が出るなんて。僕が行きます」

「一回くらい戦場を知りたいわよ。優秀な弟がいるから、おねーちゃんは安心して任せられるの」

「おねーちゃんって・・・・・・」

時折、城下町に降り立って好き勝手している姉は、庶民の言葉も覚えてくる。

「まあ、エイダ様方も出るでしょうから大丈夫ですが、気を付けてくださいよ」

「わかってるわ。この国をお願いね」




国王陛下、エリーゼ様がガルディア帝国の攻撃により死亡されました。



次代はあなた様です。



そう聞こえてきたとき、世界から音が消えたかと思った。


天から突然降ってきた王冠。


「・・・・・・」


やっと返ってきた姉はすでに人の形をしていなかった。


真っ黒な消し炭で、本当に姉なのかもわからなかった。


自分がこの国を背負うなんて誰が考えていたのか。


どうして忘れていたんだろうか。


絶対的な安全なんてないということを。


すまない、すまない、そう言ってアドルフは頭が汚れるのもかまわず、頭を地に擦り付けた。

見慣れない傷だらけの女性とともに。

(あれには少し笑ってしまったな・・・・・・)


主を突然失った玉座の間は物寂しい。


想像もしていなかった。 


この場に自分がたつなんて。


「仕方ない。この国は守りますよ、姉上」


こうして新しい国王がアステリアの地に誕生した。



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