別れ
ノッケ大森林を、貫く街道近くに存在する【フェリス湖】は冒険者や商人、そして、そこに住む魔獣、獣などの憩いの場として広く利用されている場所に二つの大きな悲鳴が響き渡る。
「きっ…きゃあああああああ!!!!」
「う、うわあああああああ!!!!???うおあああああ!!??」
い、いやいや!!ちょ、ちょぉいまて!!!「きゃあああああ!!!」じゃない!!あれ!?なんでこんな恥ずかしいんだ??!?違う、そうじゃない!というか思わず恥ずかし過ぎて初位級とはいえ聖魔法をぶっぱなしちまった!は、外れてよかった…!い、いやそれよりもなんでハンスがこんなところにいるんだ!?!?
「ご、ごめんなさいいい!!!すいませんッ!!!!」
これまでに見たことのないほどの完璧かつ折れ曲がるのではと思うほどの素早い速度で腰を折り曲げての、直角謝罪を繰り出すハンス。
「しゅ、周辺の警戒に出た所なにやら水音が聞こえてきまして!フォレストウルフが水のみに来てるのだろうかと様子見をしにきたら…本当にごめんなさい!!!」
「な、なるほど…あ、あのとりあえず事故ってことはわかったのでとにかく向こうで後ろを向いててください…大丈夫になったら言うので…」
「はっ、はい!!すいません!!!」
またもや、見事な回れ右をして軍人のような歩調の整ったガチガチの行進をして離れていくのを見送った後に、俺はひとまずその場から出て服を着るために、今日購入した布で水分を拭きとり、服を着ていく。翼は非常に撥水性に優れているようで、軽く羽ばたくだけで乾くので拭く必要はなさそうだ。
はぁ…それにしても本当にびっくりした…。完全に油断していた…。一番びっくりしたのはあの凄まじいほどの恥ずかしさだ。
これは完全に精神が体に引っ張られているんだろうな…それにしたって男の精神があるはずなのに、あの恥ずかしがりようはないだろ、生娘かよ……いや、そういえばキャラ設定は純情な正統系王道ヒロイン設定にしてたわ。それに精神が引っ張られているのだろうか…?
多分、女性に見られるのならまだ我慢できるだろうけど、男性は絶対ムリだな。いや、そもそも愛娘の裸なんて俺以外の男性になんて絶対見せてやるつもりはないけどね?今回は事故だから仕方ないけど…さて、ひとまずこれで大丈夫かな。
「もう大丈夫ですよ。周辺の警戒は?」
「あ、それはちょうどこの湖で最後なので大丈夫です…あ、あの本当にすいませんでした!」
「いえ……もういいですよ。事故なら仕方ないですし、私も初級とはいえ攻撃魔法をハンスさんに放ったのは謝らないといけません。ごめんない」
「いえ!僕がちゃんと声をかけなかったのがいけなかったんだ!ごめんなさい!」
「ええと…まぁ、とりあえず戻りましょう。あまり遅いと心配するでしょうから」
「は、はいッ!」
重々しい沈黙のまま戻ると、ちょうど三人が様子見に行くためか、武器をもってこちらに向かおうとしていた所だった。
「あっ!戻ってきた!二人の叫び声が聞こえたからそっちに行こうとしてたのよ!何があったの!?」
「え、えっと…その…な、なんでもないですよ!ね!ハンスさん!」
「あ、あぁ…なんでもなかったよ!」
「なんでもなかったのにあんな叫び声あげるなんて変じゃない?二人共何か隠してるでしょ?」
「うっ…!?な、何を言ってりゅんだい…?」
お、おいおい取り乱し過ぎだろ…バッレバレじゃないか。
「…ふぅ~ん?そう?…ねぇイーリスちゃん?」
「えっ?えぇ!そうですよ!」
「あらそう?それにしても二人共なんで一緒に戻ってきたのかしら?」
「た、たまたま戻るときに一緒になっただけですよ!」
「へぇ~?」
「(ハンスはともかくイーリスさんも分かりやすい反応ですね…)」
「(しかもイーリスちゃんも自覚ないんじゃないかあれ)」
うっ…なんでこんなに怪しまれるんだ…!奥の二人もなんだかヒソヒソと話してるし…
「…それにしてもハンス顔赤いわねぇ?どうしたのかしら?」
「い、いやぁちょっとさっきそこで軽くストレッチしてたからな!それでじゃないかな!」
「(気が付いてないみたいだけど、ハンスってすぐに顔に出る上に嘘つくと耳たぶ触る癖があるのよねぇ…でも二人共頑なだし教えてくれそうにないわね)野営前なのにストレッチね…まぁいいわ、最初はハンスとイーリスちゃんが見張っててくれる?4時間交代で行くわよ」
「わ、わかった!安心して休んでいてくれ!」
ふぅ…なんとか誤魔化せたかな?よかったよかった…
「じゃあとりあえず私は北で見張ってるので、ハンスさんは南でお願いします」
「あ、あぁ。わかった…(イーリスさんは全然意識してないみたいだけど、まさか二人で見張りするなんて…ダメだイーリスさんに失礼だとはわかっていてもあの光景が頭から離れない…!)」
さてと、ミニMAPの表示領域を300mにして…。このミニMAPも便利ではあるけれど、何かが居るってのがわかるだけで、それが何なのかがわからないのが欠点だな。まぁゲーム時代の頃じゃそれで十分だったから仕方ないか…フィルター機能が充実しただけマシとしよう。
その後もときたまフォレストウルフや、フォレストボアといった程度の魔獣が時々やってくるだけだったので、問題が起こることもなく交代しながら野営を終え、街に戻ってきたので俺は宿屋に戻りこの街を出る準備をすることにした。
「もうイーリスちゃんとお別れなんて寂しいわね」
「生きてる限りいつかお会いできますよ!いざというときは空を飛んでいけるんですから!」
「イーリスさんと次に会えるときを楽しみにしています!」
「はい!」
部屋を出てホールに行くとハンス達も待っていたので、そのまま帝都方面の出口まで一緒に行き、見送られながら出て行くことになった。
「じゃあまたな!イーリスちゃん!次に会えるときは俺ももっと強くなってみせるぜ!」
「狩人として恥ずかしくないようになってみせるわ!」
「絶対に僕達もイーリスさんに追いついて見せます!」
「次に会う時には上位級魔法は使えるようになっていてみせますよ!」
「はい!とっても楽しみにしています!次はもっといっぱい一緒に冒険しましょう!本当にありがとうございました!」
皆で思い思いにお別れの言葉を告げて、ここでの親交を深めた相手に対する挨拶に当たる軽いハグをした後に帝都への道を歩むのだった。
◆◇●◇◆
「はぁ~…いっちまったなぁ…」
「そうね、本当に一緒にいて楽しい子だったわ」
「怜悧な見た目によらず、とても顔に出やすくて親しみやすい人でしたね。」
「それでいてあの強さでしょ?エレマ大陸はいったいどんな大陸なのかしら」
「全くだな、そこそこできるなんて言ってたが、こっちじゃそこそこ何てレベルじゃない。アレはすぐにもSランクになれるだろうなぁ…」
「ホントですね…それにしてもハンス…まるで抜け殻みたいになってますよ」
「軽くとはいえハグされたのと、今更になって沸いてきた失恋の実感に放心してるのね。そこまで惚れているのに、最後の最後まで引き止めるような事を言わなかったなんてホントにヘタれてるわねぇ…」
「全くだ…。戦闘時の頼もしさは一体どこにいったのやら…ここまで奥手じゃこの先も苦労するだろうなこいつ。」
「しかも相手はあのイーリスちゃん…どうなることやら」
「「「はぁ~…」」」
3人が深く深くため息をつき、あきれた表情ですでに小さくなっているイーリスと虚ろな表情のリーダーを見つめ、もう一度3人揃って深いため息をつくのだった。




