第228話 ピコーン
「わからないけど、あまり聞きたいとは思わない。シャルが言いたくなさそうだからな」
保留を選択することにした。
「そう……ツカサはさ、将来、何になりたいとか、何をしたいとかってある?」
将来か……
「特に考えてない。魔法学校は卒業したいし、そこから先は多分、就職するんだと思うけど、どこに就職するのかも、その後の人生をどうしたいのかも考えてない。というか、俺はシャル達と違って、この魔法使いの世界に入ったばかりだし、学ぶことが多すぎる」
正直、魔法関係の職業って何があるのかも知らない。
錬金術師やクラウスみたいな鍛冶師くらいしか知らないのだ。
「それもそうね。まずは知ることが大事だもの」
「ああ。まあ、幸い、この前の対抗戦で優勝したから就職には有利だ。それに最悪はエリク君に泣きつく」
ニートはノー。
「ラ・フォルジュね……私はさ、やっぱり目標を上げるならイヴェールの当主って答えになる」
次期当主だからそうだろうな。
「それはわかる」
「ラ・フォルジュとは違ってね……イヴェールは男女問わず、長子が当主になるのよ」
そうなんだ。
「ウチはそうじゃないな。長子はセレスちゃんだし」
エリク君は長男だけど、セレスちゃんが姉なのだ。
「ラ・フォルジュは当主が次期当主を指名するのよ。だから現当主があなたやトウコさんを指名したらどちらかが当主ね」
「百パーないと思う」
絶対にない。
婆ちゃんも爺ちゃんも穏やかな老後は過ごせないと思う。
「ごめんね。私もそう思う。ツカサもトウコさんも優秀だけど、当主向きじゃないかなって思うわ」
誰しもがそう思うだろう。
「なんでイヴェールは長子がなるんだ?」
「どこの家もだけど、跡目争いって問題になりやすいのよ。派閥ができたりもするし、兄弟姉妹で争ったりもする。ウチは特に武家だから昔はそういうのが過激だったのよ。そういうことが歴史的に続いていたからかなり前から当主は長子がなるって決まっている。もちろん、辞退することもあるし、子供がいなかった場合は親戚から養子を取ってくる場合もあるけど、基本的にはそういうことになってる」
まあ、色んなケースがあるだろうからな。
「今のイヴェールはシャルが長子なんだっけ?」
「ええ。妹と弟がいるけど、私が一番上ね」
ふーん……
「聞こうか?」
「聞いて」
シャルが言いたいんだな。
シャルは踏み込んでほしいんだ。
「なんでのその長子であり、次期当主のシャルがフランスではなく、日本にいるの? しかも、付き人がクロエだけ」
いくらクロエが優秀でも一人っておかしくないか?
「私が父の奥さんの子じゃないから」
そっちか……
「今の奥さんは後妻?」
「いーえ」
となると……
「良くないやつ?」
「愛人ね」
あーあ……
そりゃ言いたくないわ。
「愛人って……」
「父を庇うわけじゃないけど、色々あったのよ。父は若い頃から私の母と付き合っていた。でも、次期当主である父は政略結婚的なものでイヴェール派の名家の子と結婚したのよ。それで母と別れたならまだ良かったんだけど、母はすでに妊娠してたわけね。その子が私」
色々ありすぎる。
「お母さんって日本人?」
「半分ね。フランス人と日本人のハーフ。だから私はクォーターね」
だから日本に住んでいるわけか。
「ごめん。お母さんは?」
「すでに亡くなってる。私が5歳の時かな? 病気でね」
ユキレベルで重い話だな……
「日本にいる理由は家族と折り合いが良くないから?」
「良いわけないわね。想像してごらんなさい。この家にお父さんの愛人の子がいるのよ?」
想像できないです……
「ごめん。わかんない」
「そっか……でもまあ、これが私が日本にいる理由ね。あんな家にいたくないわよ。向こうもそう思っているでしょ」
それもわからない。
イヴェールの家を知らないから。
「愛人の子でも次期当主になんの?」
「なんのよ。現当主の子であることは間違いないからね」
そっかー……
「辞退しないのか?」
「私の目標はイヴェールの当主って言ったでしょ」
今、前にクロエが言っていたセリフが頭を駆け巡っている。
シャルの幸せが何なのかということだ。
「何にもわからない人間の言葉だから聞き流しても良いけど、折り合いが良くない家の当主になるってきつくないか?」
すんごい空気にならない?
「きついでしょうね。でも、私はイヴェールであることに誇りも持ってるの。父を尊敬しているし、歴史あるイヴェールを守りたいという想いもちゃんとある。正直、妹や弟よりも魔力が低いし、才能もないけど、やれることはするわ」
おー……かっこいい。
「すごいな。俺はシャルと同い年だけど、そこまで思えない。ラ・フォルジュは大事だけど、まあ、エリク君がどうにかするだろうって感じ」
「それでいいのよ。でも、あなたの友達で言えば、シーガー家のセドリックなんかも同じくらいの気持ちは持っていると思うわよ。いや、家の大きさを考えればもっとでしょうね」
あいつがねー……
いつもへらへらしているんだが……
「次期当主って重いんだな」
「ええ。一族はもちろんだけど、派閥、歴史、様々なものが圧し掛かるわけだからね」
すごいんだが……
「いける?」
「わかんなくなってきた……」
ハァ……だから話したんだろうなって思った。
「シャル、手を貸して」
「手?」
シャルは首を傾げながら右手をテーブルの上に置いた。
俺はそんなシャルの手を取ると、小指と小指を絡ませる。
「前に約束しただろ? 俺はシャルの敵にならないし、何かあったら助けに行く。それはシャルがイヴェールの当主になろうと、それとは違う道に進んでもだ。別に何ができるわけでもないけど、敵が出たらぶっ飛ばしてやろう」
それくらいしかできない。
「そう……ありがと。じゃあ、頼るわ。でも、その前にあなたが私を頼りなさい」
「うん。勉強教えて」
「ええ。勉強しましょう」
俺達は勉強を再開することにした。
そして、22時前にはトウコの部屋からシャルが帰っていった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
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ぜひとも手に取って読んでいただければと思います。(↓にリンク)
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