第219話 助けてー
俺達が3人で過ごしていると、控えめなノックの音が聞こえてきた。
「んー?」
返事をすると、扉がわずかに開き、ユイカが顔を覗かせる。
「お前はバカだけど、物静かで控えめで良いな」
イルメラ、わかったかな?
「大和撫子」
それは違うと言いたい。
「撫子、何か用か?」
「ミシェルと一緒に帰ってきた。ちょっと早いけど、雑魚殲滅記念会を始めようってトウコが言ってる」
ひっでー名前の会だな。
「俺とシャルもやったな」
「かつて99回負けたが、100回目で勝ち、天下を獲った英雄がいたという」
何かの漫画を読んだな、こいつ……
「はいはい。頑張って99回負けてくれ。じゃあ、降りるか」
俺達は部屋を出ると、ユイカと共に1階のリビングに行く。
すると、ホットプレートと共に切られた野菜や肉がテーブルに置かれていた。
「おー、ちゃんと牛肉を買ってきている。ミシェルさん、美人ー」
さすが大人。
「はいはい。それはお嬢様に言ってあげて。何飲む?」
「何買ったの?」
「クロエから聞いたあなたが好きであろうコーラ」
まあ、好きだね。
「ロナルド、ビールか?」
「なんでだよ」
「いや、そっちが似合う。なんかバーでウィスキーとかバーボンのロックとか飲んでそう」
「飲んでそう!」
トウコがケラケラと笑う。
「老け顔で悪かったな。おたくらの両親は随分と若く見えたが」
「「………………」」
触れたくないことを触れられた俺とトウコは口を閉ざし、席についた。
「はいはい。あなた達はジュースを飲みなさい」
「ミシェルは飲むの?」
ユイカが首を傾げる。
「飲まないわよ。私はお茶」
「じゃあ、取ってくる」
「私も手伝おう」
ユイカとユキがキッチンに行き、ジュースとお茶を持って戻ってきた。
「奥ゆかしい大和撫子が注いであげる」
「右に同じ」
一つも奥ゆかしくないユイカとユキが皆のコップにお茶やジュースを注いでいく。
目を閉じているユキが非常に怖い。
「見えてる?」
俺のコップにコーラを注いでくれているユキに聞く。
目を閉じているのに上手く炭酸を調整しているのだ。
「見えてないが、わかる。これも修行の賜物だ。君もやるといい」
やんない。
2人の大和撫子が飲み物を注ぐと、トウコが肉を焼き始めた。
「あれ? 私の挨拶は?」
ミシェルさん、何か話したかったのかな?
「いらない、いらない。校長先生のありがたいお言葉で十分。どうせお粗末って言葉が出てくるもん」
「いや、出さないから。でもまあ、校長先生の格落ちだからやめとくか」
校長先生もたいしたことは言ってなかったがな。
一言でまとめるなら『これからも勉強しろ』だもん。
「ミシェルさん、クロエに長いって言われてたもんね」
「…………食べましょうか」
今回も長かったんだな。
俺達は肉を焼いていく。
「野菜も食べなさい」
「ミシェルさん、お母さんっぽいね」
「ぐさっ」
ミシェルさんに大ダメージ!
「野菜を食べないから成長しないんじゃない?」
ミシェルさんのカウンター。
「ぐさっ」
「……ぐさっ」
トウコに大ダメージ!
しかも、貫通してユイカにも大ダメージ!
「肉しか食べていないようなロナルドだって大きいじゃん」
というか、肉を食った方が大きくならないか?
「アメリカ人をどう思っているんだよ。いいか? 牛は草を食べるだろ? その牛の肉を食べるってことは野菜も食べているってことだ」
ものすごくアメリカ人っぽい回答だ。
「賢い。やっぱり肉だね」
トウコが焼けた肉を食べる。
「おいひーね」
ユイカも美味しそうに食べている。
俺も肉を取り、食べたが、やはり美味かった。
「ミシェルさん、今回のことだが、2、3年はどう思っているんだ?」
ユキがミシェルさんに聞く。
「何も。他所の町の生徒達もだろうけど、いきなりすぎて見に回りたい人が多いのよ。ノリノリなのはあなた達だけ」
そういう意味では1年のみで良かったのか。
「シャルはすごく嫌がってたけどな」
「あの子はね……」
もう生徒会長を辞めたがっている。
「俺も乗り気ではないけどな」
ロナルドがぽつりとつぶやく。
「何を言うか、ロナルド。それでも白川家か?」
「違うっての。というか、ほぼお前のせいで帰りたかったわ」
ユキさんはね……
「そんな図体をして情けない」
「いや、お前も決勝は急にまともになってただろ。審判がお前のことをガン見だったぞ」
急に人が変わったように優等生になったからな。
ちょいちょいぼろが出てたし、ユイカと一緒にさっさと帰ったけど。
「私には慕ってくれる弟や妹がいるんだ」
「俺だっているよ」
ケンカすんな。
「中継は置いていてもユキは他校で有名になっただろうね。来年はマークされるんじゃない?」
「私より双子だな。来年が楽しみだ」
来年は来年で1年でやるんじゃないの?
「俺は正直、1週間の休みの方が良いな」
他の連中が羨ましい。
「楽しかったけど、何もないっていうのがね。勉強ではいつもバカにされている私達が唯一、頑張れる競技で頑張ったというのに」
「就職で有利だってば」
それは嬉しいけど、こうなんか単位的なものをね……
「私、すでに就職してるよ……」
そういやユイカは暗部だったな。
使えなさすぎて、まだ見習いっぽいけど。
「あんたはいいから勉強しなさい。テストよ、テスト」
テストかぁ……
「テスト前にこんなものやらないでくださいよ。試験勉強ができないじゃないですか」
「あんた、普段から予習、復習していればテスト前に必死になることなんてないって言ってなかった?」
イルメラがツッコんできた。
「してもダメだからなんちゃら委員会なんだよ」
「そうだ、そうだ。九九の暗記で最後まで残った我々を舐めるな」
「俺まで決めつけるな」
最後だったけど……
「悲しい委員会ね。家庭教師に泣きつきなさいよ。というか、ユイカの場合は帰ったらノエルが待ち構えているんじゃない?」
「ありえる……ノエル、優しいのは口だけだからなぁ……」
ノエルはスパルタのようだ。
「お兄ちゃんもお義姉ちゃんに電話した方が良くない? 助けてーって」
「舐めんな」
最初からその予定だよ。
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