氷の指輪 中
何もかも諦めた表情をしていた。普段は抑え込んでいる深い悲しみが溢れ出してしまった。まさにそんな感じだった。
エレネは一度目を伏せてから、窓の外に視線を逃がす。
――多分。塞ぎ切っていない傷口にうっかり触れてしまった。
まだ頭が働いていないから。というのを言い訳にして、考えることを放棄して成り行きに身を任せる。今のこの状況では何を言っても、修復不可能な亀裂を生み出してしまいそうな気がした。
どのくらいそうやって、重苦しい沈黙の中に沈みこんでいたのだろうか。耐えきれなくなったエレネが、『今日は寒いですね』と口にしようとしたまさにその時、軽やかな足音が近付いてきて、笑顔の少年が部屋に飛び込んできた。
「セラス、あのね。ジルはお腹いっぱいだよ。ごはんすごくおいしかったよ!」
満面の笑顔でそう言ったジルは部屋の入り口付近で立ち止まり、きょろきょろ辺りを見回してから「あれ?」というように可愛らしく首を傾げた。室内の空気が一気に緩み、エレネは内心ほっと安堵の息をつく。
「……セラス、いない?」
「そうですね、ここにはきていないですね」
ルカが丁寧な口調でセラスの不在を伝えている。彼もエレネと同様に、ジルの登場によって膠着状態が解消されたことを安堵しているように見えた。
朝食として用意されていたスープは、エレネが作るものと同じ味がした。野菜の切り方も、同じ。つまり、セラスが作ったものなのだ。結局一度も顔を見せることなく去ってしまったが、料理ができるくらいには回復している。……きっと彼は、言葉より確かな方法でエレネに伝えたかったのだと思う。エレネはどうしても疑ってしまうから。
「セラスはどこ?」
ルカに駆け寄ったジルは、彼の目の前でぴょんぴょん飛び跳ねはじめた。ルカが膝を床について目の高さを合わせてやると大人しくなる。マーヤおばあちゃんの孫たちと全く同じ行動をしているなと微笑ましく思いながら、エレネは二人のやり取りを眺めていた。
「出掛けましたよ。数日で戻ってくる予定です」
「どうして? どうしてセラスはエレネと一緒じゃないの?」
「このままここにいると、すんなり怪我が治ってしまうからですね」
「ダメなの?」
ジルは訳が分からないという顔をしている。
「顔の怪我が治る前に片付けておきたいことがあるようです。放っておけばいいと思うのですが、後でゲディンスのエレネに知られると、気に病むとでも思ったのでしょうね」
「エレネのため?」
「はい」
ルカが目を合わせてしっかりと頷くと、ジルは不満げな表情をしながらも「ふーん、わかった」と小さな声で呟いた。
部屋に駆け込んできたときの元気はどこへやら、しょんぼりと肩を落として項垂れている。ご飯を食べ終わったら、遊んでもらえると思っていたのかもしれない。
ケリーはここにセラスがいないと知っていたはずだ。それでもあえて、ジルをエレネの元に向かわせたのは何か理由があってのことなのか、或いは、少しの間でいいから、一人になりたかったのか……
何しろジルは朝からずっと喋りっぱなしなのだ。彼の中に入っているというカエルかもしれない何かは、外見年齢よりずっと幼く、純真で疑うことを知らない無垢な魂であるようだった。彼は思ったこと、考えたことを素直に表情や言葉にして逐一相手に伝えようとする。一分と黙っていられない。朝からずっと付き合っているケリーが疲れ果ててしまうのも無理はない。
きっと彼女も一人になって考えたいこともあるだろう。時折、失われてしまったものを惜しむような目をしてジルを見つめていたから……
「セラスは出掛けているので、代わりに私が絵本を読みましょうか?」
質問攻めにあう覚悟を固めてから提案すると、ジルの背筋がピン! と伸びた。
「うんっ、ジルはエレネに絵本を読んでほしいよ!」
勢いよくエレネを振り返ったジルは、抑えきれない好奇心でキラキラと目を輝かせている。強風がぶつかってきたような圧を感じてエレネは思わず身を引いた。
――間違いなくジルは暇と体力を持て余している。
少し前までマーヤおばあちゃんの孫たちが遊びに来ていたから、エレネは知っていた。子供は体内に無限に湧き出す『体力の泉』を持っているのだと。自分たちの体力をできるだけ使わずに孫を遊ばせる方法は何かないものかと、エレネとおばあちゃんたちは日々頭を悩ませていた……
「病み上がりなのですから、無理は禁物ですよ」
「でも、このままだと多分、夜寝てくれません……」
期待に満ちたジルの眼差しを一身に浴びながら、エレネはひきつった笑みを浮かべた。
子供は体力が有り余っていると寝てくれない。しかも、眠くなるまで延々喋り続ける。ルカや他の騎士たちは護衛任務中。ケリーは病み上がり。……同じく病み上がりとはいえ、ここはどう考えてもエレネの出番だろう。
「ジルは、お部屋から絵本を取ってくるよ! あとお人形も持ってくる!」
ジルは機嫌よくそう言って、止める間もなく部屋を飛び出して行ってしまった。
母屋には人形劇団が物置に使っている部屋があり、今年の興行に使わない人形や舞台装置、台本の原案になった絵本などが保管されている。母屋で三人で寝泊まりし始めた頃に、ジルの反応を見たいからと頼まれて、絵本を数冊と古いマリオネットをケリーに渡したことをエレネはうっすら思い出した。
足音が聞こえなくなってから、エレネはルカを振り返る。
「何か、私に知られては困るようなことがあるのですか?」
彼の口から自分の名前が出てきた瞬間に、頸筋を冷たい手で撫でられたかのようにぞわりとした。これは放置してはいけないもののような気がする。
ルカはゆっくりと立ち上がると、無言のままトンっと自らのこめかみを軽く指で叩いてみせた。エレネも右手を持ち上げて、同じように軽くこめかみに触れてみる。
――そういえば……昨夜セラスと会話を交わしていた時、全く頭痛を感じていなかった。
そのことに、今の今までエレネは気付いていなかった。これは、呪いが解かれたということなのだろうか。視線で問いかけると、ルカはゆるく首を横に振る。
「呪い自体はまだ存在しています。ゲディンスのエレネが眠っている間に、あなたに代わって呪いをすべて引き受けたいという方が現れました。やりたいならやらせればいいとアルゴさまがおっしゃったので、全部引き受けてもらうことになったのですが……問題が発生したようですね」
不穏な空気を感じ取ったエレネは、ひざ掛けの端を強く握りしめる。
「思いの強さを証明してみせるつもりだったようです。自分を犠牲にしてまで尽くせば、相手の気持ちが自分に向くと考えたようですが、より強く相手を想っている方が必ず選ばれるという訳ではない。一方的な感情の押し付けなど相手にとっては迷惑でしかないということが、その方にはどうしても理解できないようで……し……」
冷め切った声でそう続けたルカは、顔色を失くしているエレネに気付いて言葉を止めた。
窓を開けられた訳でもないのに、一気に体が冷える。
「……そうですね。迷惑、ですよね」
中途半端に伸びた親指の爪を眺めながら、エレネはため息とともに呟いて……言ってしまってから声に出す必要はなかったなと後悔して自己嫌悪に陥った。
一方的に気持ちを押し付け続けているのはエレネも同じだ。
セラスは迷惑だと感じたことは一度もないと言っていたが……
(相手のため。なんていう言葉は、衝動を抑えきれない自分への言い訳にすぎない)
見返りを求めているかいないかは問題ではなく、相手が不快だと思うのならばそれはすぐさまやめるべきだと頭では理解している。でも、その場ですぐに気持ちを切り替えられるかと問われれば、
――否。としか答えられない。
「そこは相手によると思いますが」
ルカの言っていることは正しい。そう思うのに、まだ本調子でないせいか、気持ちをうまく立て直すことができない。心の中に黒く淀んだものが生まれる。水面にぽたりぽたりと墨が落とされてゆくかのように、透明だった水が黒く濁ってゆく。
実は……人形劇団と共に旅をしていた頃に、エレネは何度か付き纏いの被害にあっている。
毎週この店を訪ねてくる『隣村の村長の息子』に冷静に対応することができたのは、過去に似たような目にあってきたからだ。
相手に勘違いさせないように普段から言動には気を付けていたつもりだが、それでもエレネが自分に好意を抱いていると思い込んで暴走する者は、老若男女問わずに存在した。
そういう者たちは、何もかも自分に都合よく解釈し、次第に妄想と現実が入り混じった理想の世界を脳内に勝手に作り上げてしまう。
本人にとってはそれが現実だから、周囲が何を言っても聞く耳を持たない。『今日天気がいいのは、神様が愛し合う私たちの結婚を祝福して下さっているからだ』そんな本人にしか意味がわからない言葉と共に、拉致されかけたこともあった……
強く拒絶すれば、騙したのかと一方的にこちらを責める。まるで気持ちを受け取れないこちらに非があるかのように。
田舎は娯楽が少ない上に、物珍しい外見が目を惹いたということもあったに違いないのだが、恐らく一番の要因は、当時のエレネが口答えなどしそうにない陰気な娘であったことだ。『この娘になら何をしてもいい』そんな風に相手に思い込ませてしまうような――
自分がされて嫌だったことを、セラスにしてしまっているのではないか。彼の優しさに付け込んでいるのではないか。そんな不安がエレネの胸を真っ黒に染め上げてゆく。
五年間毎日エレネが勝手に祈っていたことによって、セラスはよく知りもしない女に背中から突然抱きしめられ続けることになった。それによって水神の加護を授かった彼は、ケリーと同様に『痛みを感じない人間』であるかのように振舞うことを強要されたに違いない。呪いの件にしたってそう。セラスがエレネにそうしてくれと頼んだわけではない。全部エレネが勝手にやったことだ。恩着せがましいと言われてしまえばその通り……
きっと、エレネの存在自体がセラスの負担になっている。今はそういう風にしか考えられない。
「どうして、どうしてあんなことをしてしまったのだろう……」
エレネがそう呟いた途端に、ルカの眉間に深い皺が寄る。
「……水の影響で、境界が曖昧になっている?」
ルカは小さな声で呟くと立ち上がり、厳しい表情になってエレネを見下ろした。
「ゲディンスのエレネ」
反応を確かめるように名前を呼ばれたエレネはのろのろと顔を上げる。紫色の瞳と目が合った途端に悪寒がした。ケリーがジルの瞳の中にカエルを探したのと同じように、彼はエレネの中に潜むものが何か見極めようとしている。
「いらない。きらい。近寄らないで。放っておいて。構わないで。押し付けないで」
勝手に口が開いて言葉が溢れ出す。自分の意思で口を閉じられない。ルカはひどく動揺して限界まで目を見開く。
「肩に触れます」
一言断ってからエレネの肩に右手を置くと、ぐっと強く親指を捻じ込む。エレネは思わず痛みに顔を顰めた。
「痛みの方に意識を向けてください。これ以上流れ込ませるわけにはいかない」
そう言ったルカの方が、エレネよりも余程痛そうな顔をしている。
「きらい。うるさい。いらない。ほうっておいて。束縛しないで」
どうしてこんなことになっているのか、自分の身に一体何が起こっているのかよくわからない。
エレネは、スピーカーが電子信号を空気の振動に変えるように、頭の中に一方的に流れ込んでくる感情を言葉に変換して口から吐き出し続けている。痛みの方に意識を向けて、浸食してくる何かから逃れようとするが、うまくいかない。
「それは、あなたのものではない。あなたが抱える必要のないものです。意識をそこから引き離して下さい。方法は何でもいい」
彼が言いたいことは理解できる。そうしなければいけないとわかっている。でも、どうしても頭の中に直接流れ込んでくる声を拒絶できないのだ。やり方がわからない。
『お願いだから私の言う通りにして。全部あなたのために言っているの』
知っているはずのない女性の声が聞こえはじめる。トンネルの中にいるかのように反響して、いつまでも余韻が消えない。
『あなたは特別に選ばれた人間なの。他の子とは違うの。お願い一人で勝手に外に出ないで。自分から誰かに話しかけたりしてはダメ。全部あなたのためを思って言っているの』
エレネは声を振り払おうと目を閉じて弱弱しく首を横に振る。
『あなたが誰かに傷つけられるのは耐えられない。絶対に外に出てはダメ。ずっとここにいて。私の手の届く範囲にいて頂戴。あなたは私の宝物。私だけの宝物。お願いどこにも行かせないで。私を置いていかないで』
拒否することは許されない。従う以外の選択肢は与えられていないことに、エレネは絶望する。
どれだけ抗っても、一方的に打ち据えられて、地に伏した体を上から押さえ込まれる。抵抗する気力が次第に失われてゆく。心がすり減ってゆく。自分が消えてゆく。
『どこにも行かせない。誰にも触れさせない。あなたは私の宝物。私だけの宝物』
目を閉じた闇の中を、その声がどこまでも追いかけてくる。
失いたくないから縛り付ける。支配する以外引き留める方法が思いつかない。そういう愛し方しかわからない。
「そんな自分がおぞましくて――吐き気がする」
暗く囁く声を拾うと同時に、エレネの意識は闇の中にまっさかさまに落ちていった。
一時間かけて三ページしか進まない。覚悟していたとはいえ、次々と飛んでくる質問にめまいを起こしそうだ。多分、ジルは質問をするということが楽しくて仕方がないのだろう。挿絵を指さして、「これは何? こっちは何?」と矢継ぎ早に尋ねてくる。名前と簡単な用途を説明しているだけで、時間が過ぎてゆく。
物語の内容には全く興味がなさそうだ。薬草図鑑でも持ってきたほうがいいのかもしれない。今からでも取ってこようか。そんな風に思い始めた頃、コンコンッという音が窓の外から聞こえてきた。
驚いてそちらに顔を向けると、窓の外で、お揃いの毛糸の帽子とマフラーをした兄妹が、ぴょんぴょん飛び跳ねながら大きく手を振っている。
「あそびにきったよー」
「きったよー」
ガラスの向こう側から声が聞こえてきた途端に、ジルは勢いよくベッドから飛び降りて、部屋から飛び出していった。
誰かが気を利かせて、遊び相手を連れてきてくれたようだ。まさに救世主の登場だった。
(つ……つかれた……)
露骨にほっとするのも申し訳ないが、膝の上の本を閉じて傍らに置くと、エレネはころんと横向きにベッドに倒れ込んで目を閉じる。
「お疲れさまエレネさん、お茶にしよう? ……あ、だいぶお疲れだね。今から少し休む?」
開け放たれたままのドアをトントンと叩いてから、お盆を持ったケリーが室内に入ってくる。慌てて体を起こしたエレネは、頬を赤くしながら手櫛で髪を整えた。
「いえ、大丈夫です。ごめんなさい。お見苦しいところを……」
「ルカじゃなくてよかったね?」
ごく軽い口調でそんなことを言いながら、ケリーは持ってきたお盆をテーブルの上に置く。
「こういう気の抜けた姿って、同性に見られる方が恥ずかしくないですか? だらしない人って思われそうで」
「うん、それ、何となくわかる気がするな。男性だったら、『ちょっと気分が悪くて』って言えば誤魔化されてくれるけど、同性だとそうはいかないよね」
くすくすと笑いながら先に椅子に座ったケリーが、窓の方に顔を向けて頬杖をつく。
外から時折大きな歓声が聞こえてきていた。マーヤおばあちゃんの孫だけでなく、他にも数人遊びに来ているようだ。休憩中の騎士たちも一緒になって、円盤投げをして遊んでいる。子供たちとジルは初対面のはずだが、もうすっかり打ち解けて一緒に駆け回っていた。ここでしっかり運動しておけば、きっと今夜はぐっすり眠れることだろう。
「班長さんは、カエルを食べたことはありますか?」
向かい合う椅子に腰を下ろしてから、ふと思いついてエレネは尋ねてみる。ケリーはエレネに向き直ると、お盆の上のカップをエレネの前と自分の前に置いてから少し考え込むような目になった。
「うん、あるよ。野外訓練でね。ちゃんと調理すれば美味しいんだろうけど、調味料もないし骨が多くてちょっと食べにくかった。私は……カエルはそんなに抵抗なかったかなぁ、うん……」
その流れで何か非常に嫌なことを思い出してしまったらしく、露骨に顔を顰めて慌ててお茶を口に運ぶ。恐らく食料調達訓練なのだろうと思うが、カエル以外に何を食べたのかは聞かない方がよさそうだ。
「なんかごめんなさい……熱くなかったですか?」
「飲み頃の温度だったから大丈夫。……ひょっとしてルカにも同じこと聞いた?」
「ええと……神官さまは食べたことがないとおっしゃってました……」
あの時の気まずい沈黙を思い出して、何となくそわそわと落ち着かない気分になる。意味もなくテーブルの上で手を組んだりほどいたりしているエレネの前では、ケリーが不貞腐れた表情で「ずるいよね」と呟いていた。
「神殿騎士になるとそういう訓練ないんだよ。菜食を推奨する神様の加護を受けている者たちは肉全般食べられなかったりするから。……あ、でも禁忌とかって、エレネさんの方が詳しいか」
「そんなことないですよ? しるしを見ただけではどんな禁忌があるのかわかりませんしね」
飲酒を禁じる神様の加護を受けていれば、お酒は飲めないし、結婚を禁じる神様の加護を受けていれば当然一生独身を貫くことになる。毛皮がダメだったり、殺生を禁じていたりと様々だ。そこはエレネが前に生きていた世界とあまり変わらない。
「戦いを司る神様や豊穣の女神様は。あれダメ、これダメってあんまり言わない。食べ物に関する禁忌はないしお酒も大丈夫。でも、神殿は禁欲的な方に合わせるから、食事は野菜中心らしいよ」
そこで一旦言葉を切って、ケリーは怪訝そうな顔でエレネに尋ねた。
「……なんかそわそわしてるけど、ルカと何かあった?」
一瞬表情を強張らせてしまったエレネは、誤魔化すようにお茶を口に運ぶ。ケリーの言う通りお茶は丁度飲み頃の温度で、舌を火傷するようなこともなかった。
(そんなに私って顔や態度に出るのだろうか……)
カップをテーブルに戻すと、エレネは両手を頬にあてて力なく項垂れる。
「ええと、何か私、余計なことを言ってしまったみたいで……」
「うん、そういうことって、たまにあるよね。あんまり気にしない方がいいよ?」
さっぱりした口調でケリーはそう言った。エレネは頬に手を当てたまま、パチパチと目を瞬く。彼女の言う通りだ。自分は何を被害者ぶっているのだろか。
「そうですね。そういうことって、ありますよね」
ルカはあの時「悪い気はしない」と言っていたのだから、その言葉を額面通りに受け取ることにする。
小さく頷いてから顔を上げて……ケリーと目を合わせて微笑み合う。心に涼しい風が吹き抜けたようにふっと気持ちが楽になった。
「……気にしすぎないようにします」
その言葉を聞いたケリーが露骨に安堵の表情を浮かべている。あれ? と一瞬思ったのだが、特に理由も思い当たらなかったので、エレネは深く考えることなくその違和感を手放してしまった。




