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サイファスの部屋

プロローグイラスト、奥右下のキャラクターは、大精霊サイファスでした。

「イ……」


「い?」


「インスタントフィルムは……その自己現像タイプのインスタントフィルムは、そんな風にヒラヒラ振っても現像が早くなったりはしないよ」


「えっ!? そうなんスか!?」


 サイファスは驚いてピタッと腕の動きを止めた。


「早く現像したかったら、温めるといいらしいよ」


「じゃあ、こうッスね!?」


 サイファスは拝むような姿勢で両手の平の間にフィルムを挟んだ。


 これが大精霊サイファス……この部屋には彼女しかいないし……しかし本当にこの娘が大精霊なのか、甚だ信じられない。


 容姿や服装は一言で言うと、オタサーの姫風だ。


 やけにフリフリヒラヒラとしていながら腰がきゅっとしまったワンピースに、猫の柄のニーハイソックス。


 何故か野暮ったい黒縁の伊達メガネをかけていて、髪型は足元まであるようなとんでもないロングツイン……ではなくトリプルテール? 頭の側面だけでなく、後頭部からも馬のしっぽが生えており、ツインテールにポニーテールを足したような格好だ。


 髪の色は俺をここに案内してくれた少女と同じ、青から緑のグラデーション。やはりサイファスはあの少女と関係がありそうだ。


 部屋を見回すと、広い。三十畳か、四十畳はありそうな部屋が全体にピンクや黄色や赤の乙女チックな内装に彩られ、ソファやベッドやアンティークなキャビネットなどの家具が置かれている。


 本棚には何故か大量の漫画。ジャンルは少女漫画、少年漫画など様々だ。


 他にもプラスチック製の櫛やアニメキャラクターの絵柄が描かれた折り畳み式の卓袱台、子供が落書きするためのマグネット式お絵描きボード等、俺のいた世界から持ってきたとしか思えない品物がいくつも転がっている。


「ええっと、本当に貴方がサイファス様?」


「モチロンッス!」


 サイファスは再びえっへん! と胸を張る。


 うーん、聞きたいこととツッコミ所が多すぎて、何から話していいやら。


「取り敢えず、助けてくれてありがとう」


「良いってことッス! この船を守る事は、自分の為でもあるッスからね! お礼ももう貰ったし、気にしないでほしいッス!」


 そう言うと、サイファスはにひひと笑ってうっすらと現像され始めたフィルムをヒラヒラとこちらに振ってみせた。


 くそ、騙された。アレをネタにこれから脅迫されたらどうしよう。


「さっきの怖い声もサイファス様?」


「そうッスよ~」


 サイファスは一度咳払いをすると、


「我は風の大精霊である。空気の振動を操作すれば、声を変える事など造作もない……って感じッス! 凄いっしょ!?」


 なんだろう、大精霊なのになんでそんなウザイ後輩みたいなしゃべり方なんだ。


「さて、お遊びはこれくらいにして、ちゃんと自己紹介するッス! 私はこのサンドバイパー号と契約した大精霊、サイファスッス。この船の持つ権能の多くは私の力が元になっているッス。普段はメルティナが操船してるっすけど、メルティナが外している時は私が操船するッス」


 サイファスが床に敷かれたピンクの絨毯の上に正座で座ったので、俺も慌てて正座になり居住まいを正した。


「あ、どうもご丁寧にありがとうございます。僕は関谷幸一です。コーイチと呼んで下さい。どうやら異世界から来た、異邦人と呼ばれる存在のようですが……正直まだ状況が飲み込めていません……」


「ははぁ、まぁ事情は分かってるッス。こちらに来たばかりの異邦人は、大抵すぐには状況を受け入れられないッス。コーイチをここに呼んだのは、まぁちょっとお話してみたかったからッス」


「お話?」


「何を隠そう……」


 サイファスが正座をしたまま猛スピードでにじりよってきて、俺の手を包み込むようにがっしと握りしめた。


「異邦人と会うのは久し振りッス!! 待ち焦がれてたッス!! 退屈だったッス!! 歓迎するッス~~!! 分からない事があったら色々聞くッスよ!」


 あまりのテンションの高さに引きつつも、ここまで歓迎されると悪い気はしない。


「あ、ありがとう。その、それじゃお言葉に甘えてちょっとサイファス様にお話を聞いてもいいかな?」


 俺はこの世界から帰る方法、悩んでいる事などを大まかに話した。


 悩みって、意外とよく知らない相手の方が話せる事ってあるよな。


 まぁ、今はよく知らない人しかいないわけだけど……。


「異邦人を元の世界に戻す方法は、多分何処かにはあると思うッスけど、悠久の時を生きている私にも具体的な方法は分からないッス」


「そうですか……」


 俺はガックリと項垂れた。


 何万年という時を生きているらしい大精霊が知らないような事を、俺が多少調べた程度で発見出来るのか?


「まぁ超長いこと生きていると言っても、私達は人間の技術である術には詳しくないし、この船と契約するまでは人間との交流もほとんど無かったクソニートみたいなものッスから、元々あまりアテにはならないッス。諦めないでほしいッス」


 サイファスは項垂れる俺の後頭部をよしよしと撫でてくれる。


「でも、今までに出会った異邦人達もみな最終的にはこの世界で生きていくことを決心してたッス」


「そうだ。サイファス様がこれまでに会った異邦人のお話を聞かせて下さい。彼らはどうやってこの地に馴染んだのか……」

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