大精霊? サイファス!
廊下からは困惑した兵士達のざわめきが聞こえる。
「ど、どうする?」
「馬鹿、撤退だろ! こんだけ探していなかったんだし」
「はー、いいモン見ちまった……あの「白銀のミレイユ」の下着姿……」
「記憶を消しとかねーと、後でお前の頭ごと抹消されるぞ」
そんな会話をしながら、兵士達は速やかに引き上げて行った。
俺は別に忘れる必要無いな?
下着の色は白銀の鎧が醸し出す清廉なイメージとは反対で、大人な黒のガーターベルトでした。眼福。
気が抜けたのか、床に一人へたりこんでいるメルティナの様子を最後に、宙に浮いていた映像は煙のように消え去り、周囲は再び暗闇に包まれた。
一体今の映像はなんだったんだ? 一体どういう仕組みなんだ? 魔術なのか?
どうにもこの世界の文明レベルというのがよくわからなくなってくる。
さて、そろそろ俺も外に出たいのだが、扉は当然のように開かない。
ここにいるらしい「大精霊サイファス」とやらに頼まなければならないのだろうか?
俺をここに連れてきた少女は当然のように扉を開けた。彼女は大精霊の使いだったのだろうか?
どちらにしろ俺を助けてくれたのだから、敵対的な存在ではないと思いたい。
「大精霊様! 大精霊様!?」
俺は闇の中を部屋の奥の方へゆっくりと歩いてみた。へっぴり腰で。
「助けて下さってありがとうございます!」
返事は無い。
声の反響からすると、結構広そうな感じがするが。
「そろそろここから出していただきたいのですが……!?」
暗闇に慣れてきたのか、何かが目の前を横切ったのが見えた。
耳をすますと微かに衣擦れの音や足音も聞こえるような……?
「おおぉ……不敬であるぞ異邦人よ」
重苦しいくぐもった声が部屋に響く。
「はっ……も、申し訳ありません」
俺は慌ててその場に片膝をつき、頭を垂れた。
「そうではない……我がこの世界の作法を教えてやろう……まず」
「まず?」
「左足の靴を脱ぎ、靴下をずらして爪先を余らせる」
「左足の靴を脱ぎ……は?」
「どうした! 我の言う通りにせよ!」
「は、はぁ」
俺は内心大いなる疑問を抱きながらも指示に従った。
「次に左手を真っ直ぐ上に上げ、手のひらを頭の上に乗せるように手首を八十度に曲げる」
依然として部屋は暗闇で、扉には鍵がかかっている。取り敢えず言うことを聞く他ない。
「右手の肘を肩の高さまで上げろ。その状態で肘を曲げ、手のひらを胸に当てろ。指は閉じるのだ」
む、この姿勢は……?
「最後に、左足を膝から曲げて、クロスするように右足の前に振り上げ、片足で立つのだ!」
こ、このポーズは、まさか……!!
俺が大精霊とやらの狙いに気付いた瞬間、部屋全体に明かりが点く。
それと同時に強烈な閃光とシャッター音が俺に浴びせかけられた。
……シャッター音?
「いぇ~い!! 成功ッス~!!」
俺は事態が飲み込めないまま「シェー」のポーズで固まっていた。
だんだんと光に目が慣れて、視界が輪郭を取り戻す。
俺の目の前には、ポラロイドカメラを持ち、インスタントフィルムをヒラヒラさせる中高生くらいの少女が立っていた。
少女は俺と目が合うと腰に手を当て、薄い胸を突き出して、下っ端口調で宣った。
「やあやあ我こそは! 大精霊サイファス様ッス!!」
力が抜けて片足立ちが維持できなくなった俺は、その場にへなへなと座り込んだ。




