「留守」番電話って声吹き込むの面倒で人生で一度もしたこと無い人挙手ー
《プロローグノナカ》
『刀隷』……だと。
彼はそう独り言を吐き、まさしく眼下の位置に位置する維祐を見下ろす。
在り得ないといった様子で。
見下ろす。
当然、ソレはあり得ない事態であるのだろう。
彼の中の知識では、刀隷は壊れているモノだった。属刀の中で唯一神に届く一振りとして崇められ、狙われ、そして最後に破壊された一振り。
神属性に隷属性を加える刀。神によって破壊された刀。神が恐れた刀。斬れば斬るほど強くなる刀。
そんな刀を維祐は所有していた。
五体不満足で、両肩、上半身、下半身に斬られて腕を動かせない肉体で刀隷をだした。
いや、『出した』。
胸の鳩尾の上側辺りの中央から、にゅうーと生え出た。
柄から、鞘と。
そして、何もしないのに鞘からひとりでにその歪な刀身をのぞかせ、自らの両肩と下半身を軽く斬る。
すると、両肩と下半身は奴隷のようにひとりでに動き、上半身に接合した。
この間、一秒か二秒。
物凄い早送りだった。何もできずに立つ、彼。
呆然、唖然、毅然、当然。
クリーチャーやら何やらを創造させる…再生の仕方だ。
『自ら』の肉体に『隷属性』を与えて、中枢部の背骨に繋がるように使命を与える。頭脳が無いのだから『絶対に裏切られることが無く、絶対的な従順』を与える。
だから、接合したのだ。
だが……、遅い。
一つのことばかりに集中しすぎて別の事が起きるときに対処が遅れる……と言う事はよくある。
だから、『忘れていた』。
彼の使用したリバーシブルワールドの効果を。
維祐からでは未知の能力。リバーシブルワールドを忘却していた。
「それで……、どうした。遅いんだよ、死ね―――――アイ…『虚鯨』」
彼の右手にはいつ出したのか分からない、どこに持っていたのか分からない、不快な刀が握られていた。もしかしたら、維祐と同じく体内に収納していたのかもしれない。
五体満足を取り戻して、短く息を吐きつつ下半身に力を入れ状態を起こそうとしている維祐の首元に狙いを定め―――――――――――――ヒュンッ、と不快な刀を振るう。
不快な刀…それは形状や全長や色合いなどは普通で何処にでもありふれた日本刀だが、『精神的に異常を掻き立てられる』ような気分を見ると思ってしまうような刀の事を維祐は言っている。
―――――バギィンッ!!
刀隷を右手で握っていた維祐は彼が虚鯨と呼んだ日本刀を受け止めようとする……が、右手で握っている程度で両手でふるうべき日本刀を両手でふるった一太刀を受け止めることができる……わけがない。
刀隷の刀身は柄から数cmしたところで歪に折れ、ナイフより短くなって折れた刀身はどこかへ飛んで行ってしまう。だが、それだけで刀の、虚鯨の達筋を変えることは出来なかったようで、勢いを殺せずに刀身は維祐の右の頬骨のあたりをざっくりと斬り裂く。
「あぐぅううううっ!!!!」
骨と肉をえぐられ、芯から痛みのこもった声で喘ぎ一瞬―――身体をこわばらせその場で痛みで顔を伏せようとする。
更に連撃――追撃――突撃――一刀両断。
華麗に彼は虚鯨の切っ先を捌き、維祐の急所――眉間や首元を狙おうとする。
上段からの突きに維祐はナイフより刀身の短くなった刀隷の柄と刀身の間でその軌道を眉間からなんとかそらす。
健闘の後、見事突きの軌道はずれる。左耳をかすめて刀は逃げる。だが、痛みは発せられた――右頬の痛みもあったのだろう。そして、多少の危機回避成功の達成感も。
呆けてしまった。維祐は。
先ほど頬をえぐられた時と同じだ。
下が、御留守だった。
鋭い、体全体をねじって膝へ脚力を集中させた―――――――膝蹴りが鋭く鳩尾に入る。
声は―――上がらなかった。唾液が口からボロボロと流れる。
身体を九の字に曲げ、後ろに後退しようとするn――――
一閃、「せぁあああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」弩の籠った掛け声とともに彼は虚鯨を薙いだ。