第1話:名無しの少年と吟遊詩人の老人
新連載です。
よろしくお願いします。
世の中に「これこそ聖剣である」と言われている剣は数千本、あるいは数万本あるという。それらのうちの多くは岩とかに刺さっていて、抜けない加工がされている……らしい。そう、加工である。それらはつまるところ、偽物の聖剣なのだ。
まあ、そんなものは偽物の中では最低ランクであり、中には村一番とか町一番とか、そういう鍛冶師がそれっぽく作ったものもある。そうしたものは「旅の剣士が預かってほしいと置いていった。凄く雰囲気のあるお方だった」みたいな話と共に飾られていたりするわけだ。
勿論偽物なので、見る人が見ればすぐに分かる。たかが町一番程度の鍛冶師が作った剣など、一生懸命作って名剣に届くか届かないか……そんなことが多いからだ。万が一届いたとして、その程度で聖剣と言い張るのは無理がある。
そもそも聖剣とは何なのか? それはかつて、最も邪悪な存在を切り裂いた剣のことであり、神々が永遠の幸せと平和を願い作り上げたものなのだという。だからこそ、そんなものを人の作った剣が「そうである」と言い張るのは、そもそも無茶が過ぎるのだ。
「だからまあ、ここに刺してあるナマクラ。こいつで聖剣判定官を騙そうというのは……まあ、元々無理な話なわけだな。まあ、連中に出来るのはどうしようもない偽物を暴くくらいだろうが」
真新しい丸い岩に差し込まれた剣をブーツでゲシゲシと蹴りながら、老人は近くの木に背を預けて座っていた。
不思議な、実に不思議な雰囲気を持つ老人だった。年は70か80か……相当な高齢に見えるのに筋骨隆々とした身体を旅人用の分厚い布の服に押し込んでいる。被った帽子の下から見える顔は精悍で、何処かの貴族と言われても通用しそうだ。持っているリュートは細工も凝っていて、良い音を奏でそうな雰囲気を持っている。まあ、全体的に言えば旅の吟遊詩人に見えるのは間違いない。ないが……服が然程高級そうに見えないせいで、楽器だけにお金を注ぎ込んでいる、という風にも見えるだろう。そんな老人は、先程から自分の話を物陰から聞いていた少年に視線を向ける。
「それで? 少年。こんなところで何をしているのかね? まるで酷いイジメから逃げてきたかのようにボロボロではないか」
「えっと……」
言いにくそうにする少年の格好は、本当にボロボロだ。薄汚れた服は地面を転がっただけではなく、同じ服を長い間着まわして使っている場合に特有の「疲れた」服であることが見て取れた。栄養不足で細い手足は痣などが多くあり、それは暴力にさらされ続けている様子を容易に連想させた。典型的な虐待のお手本のような、そんな様子ですらある。
(やれやれ。人心の荒廃極まれり、といったところか)
よくある話。そう、よくある胸糞の悪い話だ。世の中が悪くなれば弱い者から淘汰され、世の中が良くなればやはり弱い者が淘汰される。誰が淘汰するのか、という違いでしかないという話であるのは人の過ちなのか、そのような人という種を生み出してしまった世界の過ちなのか。どうであるにせよ、不幸の形が老人の前にあった。
「まあ、見れば分かる。この近くの村の子だろう? 虐められたかね? ご両親は……居ないか? 居ればそうなるはずもないからな」
「いえ、います……」
「いる?」
それは驚きだ。まさか親がいて「こう」とは、何か複雑な事情でもあるのではないだろうか。そこまで考えて老人はハッと気づき苦虫を嚙み潰したような表情になる。そう、そういう可能性も有り得る。まさか、この子は。
「僕は、5人目で。僕まで食べさせる余裕がないんです。だから、村で仕事を手伝って。それで暮らしてます」
カラカラに乾いた豆に、カビが生えて食べられなくなったパンや肉の欠片。そうしたものを食べて少年は生きてきていた。よくある……本当によくある話だ。子どもを労働力としか見ない家に生まれてしまった場合、使用人のような扱いをされて暮らしたりもする。まあ、それでも此処まで酷くは無いが……。
「今は、焚き木に使う枝を集めて……」
その割には背負っている籠には何も入っておらず、真新しい殴られた跡もある。となれば……。
「あ、見つけた! こんな所にいやがったぞ、このゴミがよお!」
「さっさと村から出てけって言っただろ!? またぶん殴って……」
「なんだあのジジイ。汚えカッコしてんな。生意気に仲間でも呼んだのかよ?」
茂みから出てきたのは、小奇麗な恰好をした少年3人組。なるほど、どうやら少年を殴ったのはこの連中であるらしいと老人は察する。
「でも見ろよ。なんか楽器持ってるぞ?」
「吟遊詩人気取りってやつだろ? ああいう楽器は高く売れるから稼ぎになるって父さん言ってたぞ」
聞いていて老人はめまいがするような気分になってくる。人心の荒廃際まれり、とは思ったが、極まり過ぎて獣心に到っている。
「おい爺さん。吟遊詩人なんだろ? そこのそれぶん殴ったら村まで案内してやるよ」




