第029話 事件
「殺人事件の担当ねー……」
「レオン、見せて」
フィリスがそう言うので、書類を渡そうと思ったが、手が止まった。
「大丈夫か? ショッキングな写真だぞ」
「何を今さら。私は元警察」
「私も大丈夫よ」
アリアも大丈夫か。
「じゃあ、これな」
書類をフィリスのデスクに置く。
アリアが立ち上がり、こちらにやってくると、ギルバードも椅子ごとやってきた。
「こりゃ一撃だな」
「エアカッターかしら?」
「確かに魔法だろうね」
3人共、特にショックを受けた様子はない。
強がっている感じでもないし、これなら問題なさそうだ。
「なあ、魔法使いってどれくらいいるんだ? 前に言っていた魔法を外に出せる魔法使いだ」
アリアに聞く。
「どうだろ……魔法学校を出た人ならこれくらいはできるし、それ以外もフリーの魔法使いとかいるしね……人口の2割くらい?」
「そんなにいるかな? 1割もいれば良い方じゃない?」
ふーむ……
「すまん。王都ってどれくらいの人間がいるんだ?」
「5、6万くらいね」
「王都はそんなもの。周りの町や農村を加えた国の中心って考えると、20万は超えているけど」
ヴァルテンブルクの王都は10万を超えていた。
ここはばらけているのか。
「となると、容疑者は王都だけで5、6000人か?」
「多いなー……」
ギルバードが苦笑いを浮かべた。
「ある程度、絞らないと……」
フィリスが書類を取り、読み込んでいく。
「そういえば、フィリスは元警察所属だったな。どこの部署だったんだ?」
「解析課」
へー……
「それなのに書類仕事が苦手なのか?」
「それはそれ。これはこれ。書記、ちょっとホワイトボードにまとめよう」
んー?
「書記って誰だ?」
「ホワイトボードの上まで手が届きそうな軽薄男」
「俺かい……」
ギルバードが立ち上がり、部屋の隅にあるホワイトボードを引いてきた。
「俺も届くな」
「私も届くわよ」
「届かないのは私だけ……いいんだ。私はロリ好きの素敵な紳士と結婚するから」
いいのかね?
「ほれ、ロリ。何を書くんだ?」
「まずは被害者の情報。アダム・ライトフット。45歳。宝石店店主で独身男性」
ギルバードがホワイトボードに書いていく。
「宝石店……強盗が浮かぶな」
「そうよね」
アリアと顔を見合わせる。
「それが微妙。発見当時の情報を言う。被害者は店の裏の倉庫で作業をしていたらしい。第一発見者は従業員で、店の方にいた。物音がするなとは思っていたらしいけど、それもすぐに収まった。ただ、いつまで経っても店主が戻ってこないので様子を見に行くと、遺体があり、警察に通報したらしい。被害者が裏の倉庫に行き、遺体発見までが30分。しかし、倉庫には宝石がたくさんあったのに1つも手を付けられていないらしい」
30分もあれば宝石は盗めるな。
強盗じゃない?
「裏の倉庫に出入り口は?」
「店から回れる表口と裏口。発見当初、裏口は鍵がかかっていたそう」
ん?
「外部犯じゃない?」
「店の従業員は店主を除いて3人。うち2人は営業に行っていて、アリバイあり」
うーん……
「素人考えだが、容疑者が1人いるな」
「第一発見者ね」
「まずはそれが浮かぶよな」
3人で頷き合う。
「警察もそう思ったみたい。現在、第一発見者は警察署に拘留中。話を聞いているらしい。ただ、容疑は否認」
認めてたら俺達の出番はないな。
「そいつのような気がするわねー」
まあ、決めつけは良くないが、そう思ってしまうな。
「否定要素もある。第一発見者は魔法使いじゃない」
あ、なるほど。
「こんな芸当は無理ってことか」
「魔道具? うーん、あったかしら?」
「フィリス、情報はそれだけか?」
ギルバードが聞く。
「鑑識の結果もある。死亡推定時刻は15時半で第一発見者の話とも一致するから間違いなし。死因もその外傷で即死。それと警察が周囲に聞き込みをしたり、目撃情報を集めているところだって」
俺達がエルトナ村から戻り、ちょうど街に帰ったくらいか。
「以上か?」
「うん。今のところはこれだけ。あとは随時、情報が来ると思う」
聞き込み結果や目撃情報か。
「第一容疑者は第一発見者で間違いないな。ただ、証拠もないし、魔法使いでもない」
ギルバードが第一発見者と書かれた文字をペンでトントンと叩く。
「あ、コリー・ダンウィルって書いておいて」
「はいよ」
ギルバードが第一発見者の下に名前を書いた。
「それで捜査ってこれからどうするの? 私、捜査のやり方なんて知らないわよ」
「俺もだな」
騎士団でも捜査はするが……
「フィリス、どうする?」
経験者に聞く。
「まずは現場に行ってみようよ。文字を読むより実際に現場を見る方が大事」
なるほど。
事件は会議室で起きてないからな。
いつか言いたいな……
「じゃあ、行ってみましょうか。場所は?」
「住所も地図もあるから案内する。歩きだね。昨日、警邏で回った道。そこから通りに入ったところにある」
フィリスがそう言って、書類を空間魔法に収納すると、立ち上がった。
「全員で行く? 誰か残った方が良いのかしら?」
「全員で良いと思う。昨日も空いてたわけだし、警察から新情報があってもジェーンや特殊捜査チームが対応してくれるでしょ」
「それもそうね」
アリアとフィリスが杖を取った。
「アリア、フィリス、現場では単独行動を避けてくれ。それと魔法も頼むぞ」
「ええ」
「わかってる。ミニインパクトを覚えた」
大丈夫そうだな。
「じゃあ、行こうか。ギルバード、戦闘があったら頼むぞ」
「任せておけ」
俺達はチーム室を出ると、1階に下り、受付に向かった。
「ジェーン、例の殺人事件の捜査に行ってくる。何か新情報があったら聞いておいてくれ」
「わかりました。お気を付けて」
「ああ」
俺達は部署を出ると、昨日の警邏と同じ南の道を進んでいった。
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