第57話 1536年 6歳 蝦夷地に向かうぞ
蝦夷地へ向かうため、
準備はすでに整っていた。
この航海が、後の時代を大きく動かすことになる。
我々は蝦夷地へ向けて出発した。
西洋帆船七隻――当時としては大船団だ。
風にも恵まれ、航海は計画通り進んでいる。
船の中で、普段あまり話す機会のない者たちと話をした。
① 甘粕景持・直江景綱
甘粕景持は舟好きの二十七歳。
大好きな船で蝦夷地まで行けるとあって、終始ご機嫌だ。
一方、直江景綱はまだ十七。
若いが、目は真剣だった。
俺は二人を呼び、改めて話を切り出す。
俺
「蝦夷地の価値を、もう一度確認しておく」
甘粕
「はい、若様」
俺
「まず一つ。
蝦夷地の商品は、堺、朝鮮、明、南蛮――
どこへでも売れる」
直江
「交易の要、ということですね」
俺
「二つ目。
蝦夷地は広大だ。蕎麦を育てれば、
米換算で一千万石以上になる」
甘粕
「……一千万石」
俺
「しかも今は、誰のものでもない」
二人の目の色が変わる。
俺
「将来は蝦夷地を実効支配し、
越後の民の一部を移住させる」
直江
「その先は……」
俺
「幕府から守護大名の地位を得る。
つまり――」
甘粕
「蝦夷地を押さえれば、
天下統一も見える、というわけですな」
俺
「そうだ」
天下統一。
その言葉に、二人ともはっきりと興奮を隠せなくなった。
甘粕
「若様、我々は何をすればよろしいのですか?」
俺
「狙うのは、蝦夷地の権益独占だ」
直江
「既存勢力が黙っていませんね」
俺
「当然だ。
新規参入者を、歓迎すると思うな」
甘粕
「……では」
俺
「そのための兵が二百。
少数だが、覚悟は決める」
二人は、力強くうなずいた。
② 安田親子
次は安田親子だ。
俺
「安田家には、蝦夷地常駐という
厳しい役目を頼むことになる。正直、心苦しい」
安田長秀
「とんでもありません、若様」
長秀は即座に頭を下げた。
安田長秀
「石けん製造をお任せいただき、
我らはすでに十分すぎるほど潤っております。
蝦夷地常駐は、せめてもの恩返しです」
俺
「……そう言ってもらえると助かる」
俺は隣にいる父の方を見る。
俺
「安田。船酔いの具合はどうだ?」
守役安田
「問題ありません。
どこへ行こうと、戦えますよ」
俺
「無理はするな。
倒れられる方が困る」
安田
「はは、承知しております」
蝦夷地は、
まだ誰のものでもない土地です。
だからこそ、夢も野心も入り込める。
次回、さらに踏み込んでいきます。
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