第55話 1536年 6歳 蝦夷地に向かうぞ ― 準備①
前回は、武芸大会でスカウトした兵士たちの訓練回でした。
いよいよ、蝦夷地へ向かうための準備を始めます。
去年の初夏頃、九島兄弟はすでに蝦夷地へ旅立っている。
越後の長い冬も、ようやく終わりつつあった。
俺
「……よし。そろそろ、蝦夷地に向かう準備を始めよう」
将来的には、蝦夷地貿易を独占したい。
新規参入者である以上、既存の商人や領主と衝突する可能性は高い。
だから――最初の一手が重要だ。
四天王である甘粕景持、直江景綱に、
それぞれ百人ずつ、計二百人の兵を借りることにした。
船は、西洋帆船を七隻。
兵士には募集兵と同条件で給与を支払う。
加えて、甘粕と直江には前払いで二千貫ずつ渡した。
甘粕
「前払いとは、また思い切ったな」
俺
「遠征中に不満が出る方が、よほど高くつきます」
直江
「……確かに」
対船戦闘も想定し、火矢の訓練は事前に済ませてもらう。
同行する人選はこうだ。
甘粕景持、直江景綱。
守役の安田と、その息子・安田長秀。
さらに安田には、蝦夷地常駐用として兵を五十名用意してもらった。
雷蔵と風馬は、軍団の訓練があるため留守番。
水斗と島田官兵衛は同行。
九島と商人十五人。
十八人のうち、残り三人は牧場に専念だ。
どうしても長弓の使い手が二人欲しかったため、
訓練途中ではあるが、黒崎仁と黒田リンを引き抜いた。
黒崎兄弟は、揃って黒田リンに惚れている。
俺
「黒崎仁。お前はリンと一緒に蝦夷地だ」
その瞬間、兄の黒崎弦は露骨に肩を落とした。
黒崎弦
「……了解です」
俺
「すまん。だが、お前には長弓部隊を任せたい」
黒崎弦は長弓部隊のリーダーだ。
ここで外すわけにはいかない。
赤目からは五人。
赤目滝、霧狼、夜雀、水鬼、影牙。
――そして、問題が一つあった。
守役の安田だ。
安田は船酔いが酷い。
蝦夷地までの長旅に耐えられるとは、とても思えない。
俺
「安田、今回は――」
安田
「若様の行く所に、私が行かずして誰が行くのですか?」
俺
「船酔いの話をしているんだ。
船酔いの間は食事も取れないだろ。
長旅だぞ。下手をすれば、本当に死ぬ」
安田
「武士の本分は、死ぬことにあり」
……いや。
船酔いで死ぬのは、武士の本分じゃない。
この話を聞きつけた赤目が、一人の忍者を連れてきた。
赤目滝
「水鬼だ」
目の前に立っていたのは、
忍者とは思えない――百八十センチの筋肉男。
俺
「……忍者?」
水鬼
「はい」
通常の潜入やスパイは無理そうだが、
海や川での戦闘なら、間違いなく強い。
瀬戸内海の、聞いたこともない忍者の里の抜け忍らしい。
水鬼
「私が治療すれば、船酔いは予防できます」
半信半疑のまま、治療が始まった。
耳の後ろ。
いくつかのツボにお灸。
さらに薬を使った処置。
安田
「……あれ? 気持ち悪くない」
俺
「効いてるな」
水鬼
「予防は可能です」
安田は、ほっとしたように息をついた。
俺
「安田、良かったな」
船酔いは命に関わる。
武士の本分ではありません。
次回も蝦夷地編 準備、続きます。
感想やレビューをもらえると、作者が元気になります。




