第218話 1539年 9歳 蝦夷開拓村、イナゴの大群に襲われる
五十公野左京は、二十代で蝦夷地に転地することを希望して蝦夷地に来た国人だ。
五十公野左京
「聞いて下さい若様、私が蝦夷地でイナゴと戦った話を……」
と言い、語った。
五十公野左京は十勝地方に配属になった。
九島兄弟に手伝ってもらい、アイヌの村と話しをして平原を分けてもらった。
川も近く、土に恵まれ、とても良い。
平原なので畑にするのも、原生林を切り開くよりはまだ比較的楽なのである。
何しろ、原生林を切り開くとなれば、いくらアイヌの許可が出ていても、木は大木ばかりだし、根の掘り方は講習会で教えてもらったけれども物凄く大変なのだ。
種を植え、初の収穫に向けて、男も女も順調な滑り出しに機嫌が良い。
信濃出身の若者、依田新吉も、機嫌が良い人間のうちの一人だ。
依田新吉の夢は、信濃では叶う事は絶対ない広い土地を自分の物とし、大金持ちになってベッピンの嫁さんをもらい、幸せになることだ。
夢見がちな依田新吉は、まだ結婚も相手すらもいないのに、自分の子供の名前を、男の場合は新一から始まりで五人、女の場合でも里美から始まり五人、計十人分考えてあり、自分が年を取って十人に畑を分け与える事を夢に見ている。
そんな依田新吉が、まだ未開拓の平原に行くと、何やら緑の物体が動いている。
鍬を構えながら近づく。
依田新吉の顔が青ざめる。
依田新吉
「大変だーー、大変、早く五十公野様に知らせないとーーー」
依田新吉はすっ飛んで、五十公野ほか世話役を連れてくる。
依田新吉
「これ見てくれ、子イナゴの大群だよ。バァさんから散々聞かされている。イナゴ大群が出る時はこんな感じで子イナゴが出るんだよ。どうする? どうする?」
五十公野
「バカ、俺がどうする?だよ。本当どうしようか? 依田新吉のバァさんは何か対策を言ってなかったか?」
依田新吉は首を振る。
依田新吉
「無いよ、無い、無い。イナゴが来たら信濃の村で餓死者が出るのは当たり前なんだよーー。あっでも、ちょっと待って、バァさんが大事な作物があって、それを守るために成功した方法があるって言ってたっけ」
五十公野
「それはどんな方法だ?」
世話役望月平三
「イヤイヤ、まずはこの子イナゴを火のついた松明で焼きましょうよ。話はそれからで」
五十公野
「そうだな。依田新吉は村のみんなと、アイヌの皆にも伝えてくれ。アイヌを大事にしないと若様から怒られるのだ」
依田新吉は急いで村のみんなとアイヌの村にも知らせた。
そして自分の家に帰り、バァさんから教えてもらった方法を準備する。
「待ってろよ新一と里美」と、まだ産まれてもいない子供のために頑張るのだった。
(まず相手から先に見つけろ!!)
<異変>
夜。
疲労困憊の五十公野が、依田新吉を訪ねてきた。
五十公野
「あれから、ずっーーーと火でイナゴやっつけてたけど、アレは無理無理。どうすんだ? あんなの。
依田、バァさんの秘策とやらを教えてくれ。うん、何だその木の枝をつなげた物は?」
依田新吉
「これが秘策です。木の枝と葉と布を組み合わせて作物を守るのです。
ただ、イナゴが怖いからといって早めにこの木の枝組を被せると日陰になるので作物は枯れます。かといって遅いと準備に時間がかかるのでイナゴに食われます。何よりこの木の枝を組み上げるのに物凄く時間がかかります」
五十公野は考える。
ありとあらゆる方法を考える。
思い付かない。
五十公野
「これしかないな。よし、村の方針はこの依田新吉のやり方、依田法にする」
依田新吉(心の声)
「やったぞ、新一、里美」
(だからまだ産まれてません、相手もいません)
翌朝、五十公野は村の三十人に依田法のやり方を説明する。
反対の声が上がる。
世話役望月平三だ。
世話役望月平三
「地道に子イナゴを退治していけば良い。雑草と同じだよ。雑草が出ているのに作物隠してどうする。雑草が出たらどんなに大変でも抜く。
百姓の常識だろ。」
五十公野
「望月、雑草は襲ってこないけど、イナゴは襲って来るんだぞ」
世話役望月平三
「だから雑草と同じで、みんなでイナゴを退治するんだよ」
五十公野
「そしたらイナゴが襲って来たらどうするのか?」
世話役望月平三
「火で防ぐ。雑草も増えて来たら火。イナゴも増えて来たら火」
五十公野
「じゃぁ、望月はそうしろ。他の村の者で望月案を使用したい者は構わん。村の方針は依田法だ。今から作るぞ」
こうして十日間、大半の村の皆は依田法の木の枝組を準備した。
村人たちは昼夜を問わず枝を集め、組み上げた。
手は擦り剥け、腰は痛んだが、誰も文句を言わなかった。
依田新吉が相変わらず木の枝を組んでいると、後ろから声がした。
世話役望月平三の娘、望月平子だ。
年は依田新吉と同じ年で、美人ではないが平凡な娘だ。
望月平子
「私、毎日イナゴを退治しているけど、おとっつぁんの言っている事は無理だと思う。あんたの方が正しいよ。やり方を教えてよ」
依田新吉
「お父さんに叱られないのかい?」
望月平子
「平気よ、ねぇどうやんの?」
依田新吉はやり方を懇切丁寧に教えた。
望月平子
「ありがとう、今日から作るわ」
望月平子が立ち去った後、依田新吉はつぶやく。
依田新吉
「間に合うと良いけどなーー」
<緑の恐怖>
二日後、イナゴの大群が来た。
前日に依田新吉が五十公野に「そろそろ危ない。作物に木の枝の組をかけましょう」と言った事が当たった。
空が緑に染まる。
ザザザザザッ!
耳元で羽音がブンブン鳴り、鼻を突く草の腐ったような匂い。
視界が緑に埋め尽くされ、緑がみるみる食われていく。
依田新吉
「うわっ! 顔に! 痛っ!」
彼は必死に手を振り回すが、イナゴは容赦ない。
少し離れた場所で、望月平子がしゃがみ込んで悲鳴を上げる。
平子
「いやぁぁっ! 来ないでぇ!」
依田(走りながら)
「平子さんっ!」
彼は迷わず飛び込み、平子を両腕で抱きかかえるように覆い被さった。
背中にイナゴがバサバサ当たる音が響く。
依田の背中に無数の足が這い、羽が顔を叩く。
息をするたび草の腐臭が肺に染み込み、吐き気が込み上げる。
依田
「大丈夫か!? 平子さん!」
平子(震えながら)
「……あ、ありがとう……」
イナゴは去った。
林は枝だけとなり、未開拓の平原に緑はなくなった。
依田新吉
「心配になって来ちゃった」
望月平子
「嬉しかったけど、あんたの畑は?」
依田新吉
「いっぱい準備した、そこまで心配していない。なんか心配だったから来た」
二人とも顔が真っ赤である。
一方、顔が真っ青な者もいる。
世話役望月平三の畑の周りで火を焚いてたけど無意味だったようだ。
望月平三
「……俺の負けだ。依田、お前が正しかった」
依田新吉と望月平子は、依田新吉の畑に行く。
木の枝組を剥がすと、全体の三割は食われていたが、七割は無事だった。
餓死はしない量は確保出来る。
依田新吉
「俺の畑はまだ無事な方だ。平子さんとお父さんに、そこまで多くないけど分けることが出来る量はあると思う」
望月平子
「いいの? 本気にするわよ」
依田新吉
「結婚して下さい」
望月平子
「もちろん」
依田新吉
「ただ一つお願いがあります」
望月平子
「何でも聞くわ」
依田新吉
「男の子が産まれたら新一、女の子なら里美って名付けたい」
五十公野左京
「若様。あの時、依田法のおかげで畑が七割残りました。それで村はなんとか飢えを免れました。
それに、依田新吉はその後、ちゃんと平子さんと夫婦になって、今じゃ本当に『新一』が生まれたんですよ」
五十公野左京
「それでこれが、信州出身の依田新吉が作ったイナゴの佃煮です。若様、菊姫様どうぞ」
イナゴの佃煮を、俺と菊姫は笑顔で食べた。
それを見て蘆名も食べた。
ただ安田は虫が苦手なのでドン引きしていた。
「虫美味しそうですね」と言いながら、全然食べない。
まぁしょうがないよね。
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