第141話 1538年 8歳 楽市楽座より効果がある移住だぞ(その1)
前回は論功行賞をしました
<楽市楽座と直接募集>
(1) 楽市楽座と直接募集との異同
俺「安田は楽市楽座ってわかるか?」
安田「知らないです」
俺「楽市楽座っていうのは、商人が自由に商売できて、税や座――つまり同業組合の独占権を廃止して、人と物を集める政策のことを言うんだ」
安田「えー、税金が取れないなら、大名が損するじゃないですか」
俺「一見そう見えるけど、商人を中心に人口を増やせる。そして普段は商人から税を取らない代わりに、矢銭と言って戦争の度に金を出させるんだ」
安田「そしたら楽市楽座だと、商人を中心に人を増やして、矢銭を取るということですね」
俺「そう。で、今回の健康な三十五歳以下の男女を直接募集する方法は、楽市楽座より長所が多い」
安田「それはどういうことですか?」
俺「直接募集だと、商人だけじゃない。兵士、農業、工業、鉱山……国が伸ばしたい産業を中心に人が増える。新田開発や工業生産、その他もろもろだ」
俺「この人たちからは税も取れるし、矢銭も取れる」
安田「そしたら、商人しか増えない楽市楽座より、直接募集の方が良いじゃないですか」
俺「ただし短所も多い。
① できる機会が限られる
② 初期費用がとにかく高い」
俺「今回は安全を重視して一万貫出した。本気で切り詰めれば五千貫でもできたけどな」
安田「よほどの機会がないと、できないということですね」
俺「中国の歴史だと、募集じゃなくて都市ごと移動させることがあってな。
それを受け入れた都市は、大規模に発展している」
安田「そしたら、今回の一万二千人の移動は……?」
俺「順番に説明するよ」
<計画と運営>
(2) 計画運営方法
① 組織
運営側
運営側の隊長は馬場信春とする。
これに津村淳之介、環金鉄男、鬼瓦武蔵の新人三人と、軽騎兵五百人を付ける。
木沢長政からスカウトした三百人も同行させる。
先遣隊として鬼瓦武蔵と軽騎兵五十人は、移住者本隊出発日の一か月前に出発させた。
食料購入の交渉、関所通過の事前連絡、宿泊地・野営地の確保を担当する。
移住者側
移住者一万二千人は、百人ごとに男の百人隊隊長と、女の副隊長を定める。
さらに二十人ごとに二十人隊隊長を置いた。
食事は百人隊ごとに配布し、二十人隊長が移住者に支給する。
病人が出た場合は病人特別隊に引き渡し、病気の蔓延を防ぐ。
インフルエンザなどの重症者や、連れて行くのが困難な重傷者は、通過途中の医者に治療費を全額支払い、その場に残す。
回復後、改めて越後へ向かえばいい。
病人特別隊の医者は堺で雇った。
医者五名で三百貫だ。
風邪薬や腹痛の薬なども大量に購入してある。
② 外交
移動経路は、普門寺城近辺を出発し、京都、滋賀、福井、加賀を通る。
すべての領主から許可を得ている。
移動が決まった時点で、書簡を持った飛脚を走らせてある。
滋賀の六角と福井の朝倉は経済同盟を結んでいるため、話も早かった。
③ 食料
一万二千人、二か月分の食料を用意する。
食料を食べさせる約束で集めた以上、飢えさせるわけにはいかない。
一か月分でも千石高、総重量は三百六十トンを超える。
二か月分をまとめて越後まで運ぶのは無理がある。
そのため一か月分のみを運び、残り十日となった時点で三週間分を現地購入する。
④ 夜営
堺では明からの綿布・麻布を大量に購入できる。
テント一二〇〇張分の布の調達は容易で、費用は一二〇〇貫。
布は特注で柿渋を塗り、菜種油と荏胡麻油を混ぜて防水加工している。
ロープと支柱があれば、十人用のテントが完成する。
テントは男女別に使用する。
朝八時に出発し、十五時に野営地へ到着。
そこから野営準備に入る予定だ。
炊事は女性が担当する。
男性はテント設営や薪拾いを行う。
薪が取り合いにならないよう、百人隊隊長が場所と割り当てを管理する。
このため、一か月分の食料と夜営道具を運ぶために、牛一五〇〇頭と牛車を購入した。
費用は一八〇〇貫。
一万二千人で牛車一五〇〇台を管理しながら進軍する。
⑤ 期間
普門寺城から直江津まで約五五〇〜六〇〇キロ。
山道や曲がりくねった道、大軍と荷駄を考慮し、
一日の移動距離は二十キロ前後とする。
週六日移動、週一日完全休養。
順調なら三十五日ほどだが、
大雨や増水、関所交渉などを考え、
四十〜四十五日(五〜六週間)での到着を想定する。
移住者全員に歩行補助兼防御用の杖を配布する。
これで足腰の負担は二〜三割軽減される。
⑥ 出発
若様たちは上洛後、再び普門寺城へ戻り、移住者の状況を確認した。
その後、若様たちは堺港から旅立つ。
馬場たちがそれを見送った。
――そして、その一か月後。
ようやく一万二千人の移住者本隊が、普門寺城を出発した。
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