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21話 ボクはチョコ

<登場人物>

・ルナ:月から来た魔法使い。月年齢で十歳

葵星あおせ:異世界転移した在宅ぼっち。地球年齢で三十歳+α

未心みこ:初めて出会ったステラの住人。ステラ年齢で十七歳

・ピコ:持ち運びも可能な球体の投影機プラネタリウム

・チョコ:星空の魔法で人間になった、元トイプードルの少年。


<前回のあらすじ>

 ネオンの光にあてられて体調を崩したルナ。

 人気のない丘の上でプラネタリウムを上映すると元気を取り戻した。

 そこにふらりとやってきたチョコは、人の姿をしていた。

 目が覚めた時、体がいつもより軽かった。

 二度寝という欲求に駆られず、無心でベッドから起きる。

 カーテンを開けてポーッと外を眺め、顔を洗って着替えを済ませ、キッチンに立った。

 心にぽっかり穴が空いている。

 大量に残ったドッグフードの紙袋を見て気がついた。

 葵星は消失間を抱えていた。


☆彡


「改めまして、ボクがチョコです。迷子になっていたところを助けていただいて、ありがとうございました」


 犬の恩返しか。と言いたいくなるほど、少年は丁寧にお礼を述べた。

 ホテルの朝食ビュッフェに招かれた葵星とルナは、昨夜現れたチョコと同じ席についていた。

 無地の白シャツを着こなした好青年。彼もまた、洋画映えのしそうな面持ちだった。

 柔らかな髪はブロンズ色の天然パーマ。

 くるっと巻いた前髪から、上目遣いの瞳が覗かれる。


「もぐもぐ……。いいってことよ」


 ルナは山盛りのフルーツをパクパクと食べている。

 ポテトをつかみ取りしようとしていたので、健康のために葵星はフルーツを勧めた。

 チョコも当然のように、サンドイッチやサラダを選んでいる。


「チョコちゃんは、その、人間の食べ物でも大丈夫なのかな?」

「うん! 今はちゃんと人間だからね」

「はは、そうなんだね」


 ドッグフードの処理をどうしたものかと考え、心の穴は広がった。


「散歩、ありがとうございました」

「……俺も、……楽しかったよ」


 歳を取ると涙脆くて嫌になる。

 犬のいる生活、楽しかったなぁ。


「大人は辛い生き物だって言うから、大変ですよね」


 おじさんの涙には誰も興味を持たない。いや、持ってくれなくていい。

 根底には子供みたいな恥ずかしいしか渦巻いていないのだから。

 えづくおじさんには構わず、ルナが聞いた。


「チョコはどうやって人間になったの?」

「星空の魔法だよ」

「すごい! 魔法みたい! ステラの星空は本当に、願いを叶えてくれるんだね!」


 感嘆したルナは、ぶどうの皮を紙に吐き出した。


「いやいや、その星空が盗まれたって話なんだろ?」

「お城には星空が見れるお部屋があって、そこに行くと願いが叶うんだ」

「なるほど。そこに、<星空収集兵器(プラネタリウム)>があるわけか」


 何かあった時のための貯蓄。

 イチゴ姫はそう言っていたけれど、本当にそれだけなのだろうか。


「はい。ステラに残された星空で、ボクの願いが叶ったってことです」

「……チョコが、星空泥棒の犯人なのか?」

「ごめんなさい。でも、盗むつもりなんてなかったんだ」


 バツが悪そうにチョコが俯くと、前髪で目が隠れてしまう。

 パインカットを食べながら、ルナは視線を覗きこんでいた。


「願いすぎは良くないって思ってたから、いつものように少し願っただけなんだ」

「少し?」

「うん。一年に一度、半日だけ、人間になりたいって」

「望みさえすれば、なんでも叶うっていうのか?」


 こくりと、チョコは首を縦に振った。。


「それで、今回は多くを望んでしまったのかな」

「ボクは、そんなつもりじゃ……」


 少年はまた下を向いてしまう。

 星空が願いを叶える。

 そこに明確なルールはないのだ。

 口にしたことを忠実に叶えてくれる?

 なら言い間違えたらどうなるのか。途中で噛んでしまったら。

 機械じゃないのだから、人が理解できるものではない。

 できるのは、都合のいいように解釈することだ。


「そういえばチョコは、未心ちゃんに連れてこられたよね」


 散歩中に拾ったと、言っていた。


「全然元に戻れなくて、行き倒れてたところを拾ってもらったんだ。いつの間にか、犬に戻ってたけど」

「なるほどね」

「昨日の星空でまた人間になれたんだから、ルナのプラネタリウムには、不思議な力があるんだね」

「……そうでしょうともっ」


 ルナは胸を張った。

 

「仮面のダンサーっていうのも、やっぱりチョコのことだったんだね」

「うん。その、姫様と、踊りたくて」

「なんで仮面を?」

「もしかしたら、気づくかもしれないじゃないか」

「普通に会っても問題ないと思うけどな」


 犬だし。

 目の前の少年に会ったところで、トイプードルのチョコを連想することはなかった筈だ。


「声を出さなかったのも、バレ防止だったの?」

「ううん。なぜか、姫様を前にすると、うまく喋れなくなるんだ」


 チョコはコッペパンをつかみとり、大きな一口で食べる。

 周りからしたら絶対に問題ないことなのだが、本人にとっては大きな万が一なのだ。

 不安は、大きな期待が連れてくる。


「え、待ってよ!」


 ルナが口を拭いた。


「イチゴちゃん、ステージに出てたの?」

「優勝歴があるそうだよ」

「先輩じゃん! 挨拶しなきゃ!」


 と、ルナはステージのことで頭がいっぱいのようだ。


「ルナ、優勝したんだってね。おめでとう」

「そっか。チョコちゃんも先輩じゃん! どもっ」


 ルナは軽やかに敬礼した。


「婚約の日、チョコちゃんも一緒にパフォーマーになろうよ!」

「え?」

「話をするいいキッカケになると思うんだ」


 突拍子もない提案に、チョコの動きが止まっていた。


「だって、本当は話したいことがあるから、人間になったんでしょ?」

「……うん」

「だったらまずは謝らなきゃ。自分が悪くなくても、後ろめたいと話し出せないじゃん」

「そうだね。ボクが、星空を使っちゃったって……」

「何かあったら絶対に助けるから! 私たちは、大切な願いごとを見捨てたりしないから」


 忽然とルナは言い切った。

 そこに正義感はない。

 それがルナの性質だった。

 そこに、不思議な魅力が宿っている。


「ふふふ、これで今回の計画を実行できるよ」

「計画?」


 ルナは不敵に笑う。

 葵星は嫌な予感がしたものだ。


「おしゃべりが苦手な子でも話さずには入れられない場所、それは舞台!」


 ここにきて、ルナが調子を上げて話し出す。


「舞台の出番だよっ」

「わぁお、楽しそうじゃん!」


 タイミングよく現れるのが未心ちゃんだ。


「未心ちゃん、どうしてここに?」

「葵星さんはいつもそれを聞くね。そういうものだと受け入れた方がいいよ。私はそういう存在だから」


 ふふんと鼻を鳴らして、彼女は当然のようにチョコの隣に腰掛けた。

 

「偶然同じホテルに泊まって、偶然ここで再会しただけだよ」


 未心はドーナツを三つお皿に並べていて、湯気の立ったコーヒーが抜群に合いそうな組み合わせだった。


「やっほー、チョコちゃん」

「おはよう未心ちゃん。昨日は沢山走ってくれてありがとう」

「もう、ずっと全速力なんだもん。こちとら筋肉痛だよ」


 未心はチョコと面識があるようだった。というよりも……。


「チョコの正体を知ってるの!?」

「だって、私が拾ってきたんだし」

「知ってたのなら、教えてよ」

「ネタバレになっちゃうじゃん?」


 嬉しそうにして未心は言う。


「ささ、ルナちゃん。続きをどうぞ」


 未心が促す。

 一つ、二つ咳をして、ルナが唱えた。


「劇団を発足するよ」


 劇団の発足を宣言したルナは、球体の彼女を机に置いた。


「団長はピコ!」


 いきなりの変化球だった。


「やるならルナでしょ!」

「ワンマンチームみたいで嫌なんだよ。中立の関係を取り持つためにも、ピコが適任なの」

「……」


 ピコは、球体の彼女は、どんな気持ちなのだろうか。

 葵星の能力を持ってしても、想像できなかった。


「脚本演出は私、ルナ」

「優勝者が出ないのは問題にならない?」

「ちゃんと説明受けてないもんっ。電話で説明されたって、聞き漏らすこともあるよねっ」


 夜になったら颯爽と解散したステージを思い出す。

 ルナの言い分は最もだ。


「役者はチョコ、君に決めた!」

「……ボクだけ!?」


 チョコの驚きもよそに、ルナの任命は続く。


「音響照明はあおくん!」

「多いね」

「未心ちゃんは、自由参加!」

「私のこと、分かってるじゃん」


 未心はのんびりとドーナツを頬張っていた。


「そうと決まったら、稽古しなくちゃ」

☆彡

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