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噛ませ犬スキルで異世界転移 〜俺が本当の相棒に出会うまで〜  作者: 二階堂次郎
第4章 賭博の町 メローヌ
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第48話 終わりと始まり

読んでいただきありがとうございます!

感想お待ちしております!

 気がついた時、俺はベッドの上にいた。


「知らない天井だ……」


 なんとなく言ってみたけれど、実のところその部屋の光景には見覚えがあった。

 謎の病にかかってしまった少女、ヒナタちゃんが眠っていた部屋だ。


「やあ、お目覚めだね」


 声をした方に顔を向けると、ムツミが枕元に座っていた。

 この角度からだとスカートの中が見えそうで、予期せぬ状況にドキッとする。

 本人は相変わらず懐中時計をいじるのに急がしそうで、気づいていない様子なのが尚のこと背徳感を刺激したが、理性を奮い立たせてなんとか顔を逸らした。


「お、お前が俺をここまで運んでくれたのか?」


「うん? まあ、そうだよ。君のスキルのおかげで非力なボクでも君を担いでこれたってわけ。それでどこに連れて行こうかと悩んでいたら、この家のお母さんが声をかけてくれたからさ」


 娘の治療法を探しに行った旅人が瀕死になって帰ってきたら、さぞ驚いたことだろうな、とヒナタちゃんのお母さんへの申し訳なさでいっぱいになる。

 そうだ、それで思い出した。


「ヒナタちゃんはどうしたんだ? このベッドの持ち主は」


「それは──」


 俯き、黙ってしまうムツミ。


「おい、まさかそんな」


 間に合わなかったのか?

 俺がカジノの闇を暴いている間に、あの娘は──


「あ! ハジメお兄ちゃん起きたんだ! おはよう!」


 え。

 もし今ここに鏡があったのなら、ポカンと口を半開きにする俺の間抜け面が拝めたことだろう。

 顔を上げると、ヒナタちゃんが元気に走り周りながら部屋の前を通りすぎていった。

 生きてる。っていうか、病気も治ってる?


「ぷー! くすくす! ボクは何も言ってませんけど? ただ暗い顔して俯いてただけですけど? ナニカンチガイシチャッテルノカナ?」


「この野郎!」


 隣でケラケラ笑うゴスロリ少女の肩を掴んで揺さぶる俺。

 マジで男だったら掴んでたの胸ぐらだったからなこのボクっ娘が!


 結局のところ、ムツミは俺との約束を守ってくれたらしい。

 ヒナタちゃんの病気を治すという約束を。


「まあ、流石のボクも仕事をしたってわけ。お陰様でボクが騙し取られたお金は戻ってきたわけだしね。それに、金にならない仕事っていうのもたまにはいいもんだよね」


 楽しそうに笑うムツミ。

 金が嫌いで、金を憎むが故に、金に執着してしまい、他人のために身銭を切ろうとした俺を嫌っていた少女。

 そんな彼女が無償の善意によって人助けをしたことで憑き物が落ちたような笑顔を見せているなんて。

 皮肉と言ってやるのは簡単だが、俺は不思議と悪い気持ちはしなかった。


「今、隣り町の憲兵が調査に来てるけど、結局のところ、ヒナタちゃんの奇病もあの天命の矛先(ヘブンズトライデント)って奴らの仕業だったっぽいね」


 ムツミが懐中時計をいじりながら言った。


「憲兵団もダンジョンもないこの町に目をつけた奴らは、大人たちをギャンブルで、子どもたちを病で侵すことで財政面から町を乗っ取る算段だったみたいだな」


 流石に聞き捨てならない台詞が飛び出してきた。


「なんだよそれ……いや、ギャンブルで大人たちから金を巻き上げてたってのはわかるけど、子どもたちを病気にして、いったいなんの得があるっていうんだ?」


 そもそも未知の病にかかっていたのは俺が知る限りヒナタちゃん一人だったはずだが……


「だから、ヒナタちゃんが症例第一号だったってことだろ? 未知のウィルスを作って子どもたちに感染させる。でもってその特効薬を高額で販売する。大人たちは薬を手に入れるために、無茶なギャンブルにも手を染める。上がりは全部組織のものって寸法さ」


 俺はベッドから身を乗り出し、そんな無茶な──! と叫びかけて、結局押し黙ることになった。

 町一つ巻き込んだ巧妙な詐欺。背に腹は変えられない状況を自ら作り出して人々の欲求を煽り、金を巻き上げる狡猾な手口に、俺は覚えがあったからだ。

 それはまさに水の都グレイブルにて、汚職に犯された憲兵団の副団長カガネが行っていた策略そのものだった。


「今回はたまたま町に病が蔓延する前に俺たちがカジノを潰すことができたから偶然にも未然に防がれただけで、本当はもっとひどいことになっていたってことか……」


 謎の病に苦しむ我が子を救うためになけなしの金を抱えてギャンブルに挑むも、カジノのイカサマにより賭け金を容赦なく持っていかれる親たち。

 そんな惨状が繰り広げられる寸前だったのだ、この町は。


「まあ、それもこれもボクたちがカチコミに行ったおかげだよね!」


「いやお前ほとんどなんもやってないけどな⁉︎」


 実のところ、今回の事件が解決できたのは、ミクさんがイカサマを見抜いてくれたからで──


「そうだ、ミクさんは? 俺と一緒にいた緑の髪の行商人の女の人はどこいったんだ?」


「行商人? へえ、あの人って行商人だったんだ。てっきりボクはヒーラーの探索者かなんかだと思ってたけどな」


 ヒーラー? 探索者?

 待ってくれ、いったいなんの話をしている。


「だって槍にブッ刺された君を生き返られたのは彼女だよ? 見たこともないスキル使ってさ。あれには流石のボクも驚いたね。まあ治癒って言うよりは蘇生って言う方がしっくりきたけどな」

 

 蘇生スキル、だって?

 待ってくれ、それじゃあまるで彼女が、俺の探していた翡翠色の目の──


「ちくしょう、こうしちゃいられない」


 俺はベッドから跳ね起き──ようとしたところを、ムツミとヒナタちゃん、それにヒナタちゃんのお母さんの三人がかりで取り押さえられる。


「いったいどうしたんだよ急に。いちおう傷は塞がったとはいえ、まだ万全の状態とはほど遠いんだよ。安静にしてなよ」


「彼女は! ミクさんはどこに⁉︎」


「知らないよ。行商人ってことなら、また次の町にでも行ったんじゃない?」

 

 クソ、よりにもよってまさかミクさんだなんて。

 つまりオランゲルで俺がヤマトたちに殺されてから彼女はずっと俺のことを助けてくれたのか……

 俺はどれだけあの人にお礼を言えばいいんだ……


「次の町って、どのくらいかかるんだ?」


「うーん、3日くらいかなぁ。ボクも1回しか行ったことないからあんまり詳しくないけど。でも、結構複雑な道のりだから3日っていうのも迷わず行ければっていう話だよ?」


「クソ! ようやくあの時の借りを返せるってところで、こんな体じゃ……!」


 なぜ見ず知らずの俺を助けてくれたのか。

 なぜ蘇生スキルが使えることを黙っていたのか。

 なぜ行商人なんてやっているのか。

 聞きたいことだって、いっぱいあるのに!


「──もしかしなくても困ってる感じかな、ハジメくん?」


「見ればわかるだろ……」


「ふーん、じゃあもしもボクが戻し屋として君の体をキレイさっぱり治してあげると言ったら、どうする?」


「本当か!」


 俺はベッドから勢いよく身を乗り出し、直後、腹部の激痛に身をよじらせる。


「あーあー、動かない方がいいよ。でないと、ボクが治す前に死んじゃうよ?」


「……金にうるさいお前がタダで怪我を治すなんて、そりゃベットから跳ね起きるには十分な理由だろうよ。いったい何が目的だ。治療の対価として俺はお前に何を差し出せばいい?」


「おっ、流石、するどいねぇ。そうだなぁ、今の君になら全財産をふっかけても応じてくれそうだから、悩みどころではあるけれど」


 ニマニマ笑うゴスロリ少女のは予想は、悔しいが当たっている。

 ずっと追い求めていた翡翠色の目の彼女のことならば、俺はなんでも差し出せる気でいた。


「それじゃあね、次の町までボクをボディガードしてもらおうかな」


「え……それだけ?」


「それだけだけど。何か不満かな?」


「不満も何も……」

 

 俺にメリットしかないじゃないか。

 次の町までの道のりが長く複雑だということはさっきムツミ自身が説明してくれたことだ。

 だがムツミは一度行ったことがあり、最短距離でたどり着くことができる。

 実質、彼女の言っていることは俺の怪我を治してくれる上に道案内まで引き受けてくれるということ。


「いいのか、本当に?」


「うん。久しぶりにあの町に顔を出してようかなって。それに、ハジメについて行くのも面白そうだしね。果たして金より大事なものがあるのか。それはいったいなんなのか、君について行けばわかるかもしれないじゃない?」


「そうか……ありがとう。それじゃあもう少しだけ一緒に頼むよ」


 冒険の終わりはまた次の冒険への始まりもまた示唆していた。

 俺が何度死にかけて噛ませ犬になろうとも、手を差し伸べてくれた少女。

 彼女の優しさの理由を知るために、ここまで旅をしてきた。

 今その謎が手の届くところまで来ている気がする。

 立ち止まっている暇はない。


「おいおい、一応ボディガードを頼んでるのはボクなんだから、君が頭を下げるのは違うよ。それに、お礼をいうのはまだ早い。なんたって時期が時期だ。君ってば、無事にミクに会えるかわからないよ」


 ゴスロリ少女は不敵な笑みを浮かべた。


「何せボクらが向かおうとしているのは血気盛んなファイターたちが覇を競い合う戦いの場。人呼んで、血闘都市ベストロウムなんだからさ」

読んでいただきありがとうございます!

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