第42話 捜査
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「ノーモア・ベット! さあ、運命の女神が微笑むのは誰か!」
ディーラーがベット終了の宣言をする声が響き渡る。
出目を操作して射幸心を煽り、客を食い物にしているカジノ「運命の輪」のイカサマを暴くため、俺は行商人のミクさんと協力してカジノを見張ることにした。
ルーレットの不自然の動き方、そして客が高額ベットをしたマスのすぐ隣に当たりが続いている状況からして、このカジノが出目を操作していることはまず間違いない。
だがその方法はと言えば、見当もつかないというのが正直なところだ。
だから刑事ドラマよろしく「現場100回!」とカジノ「運命の輪」に来たのだった。
このカジノの1階には巨大ルーレットをはじめとするあらゆるゲームが置いてあるのだが、元は酒場なのでその2階はアルコールも楽しめる休憩スペースになっている。
吹き抜けからは階下の様子もよく見えるので俺はドリンクを片手にカジノの全体を観察する。
ミクさんには一階のすみからルーレットを見張ってもらっている。近くと遠くの両方から異変に気づくことができるというわけだ。
「で、なんであんたまでここにいんだよ……」
そう呟く俺の隣には、
「いやあ、なんでと言うか、なんと言うか……」
ゴスロリ服の上から懐中時計をさげた女子がいた。
戻し屋ムツミ。
彼女は先ほど俺たち二人に見せた横柄な態度は何処へやら、指先を突き合わせて視線を泳がせている。
「さっきまであんなに熱心にルーレットに挑戦してたじゃねぇか。どうした? 流石に飽きたか」
「いやあ、飽きたのならまだ良かったんだけどね……」
「お前、まさか……」
ムツミは開き直ったかのようにこちらに笑顔を浮かべ、両手を差し出すと、
「えっと、お金、貸してくれないかな?」
「そうか、達者でな」
「ちょ、ちょっと待って!」
踵を返してその場を離れようとする俺の脇腹にしがみついてきた。
それを必死で剥がそうとする俺。
「いやふざけんなよ! 病気の子どもを治してほしいって依頼を断っておいてギャンブルに勤しんだ挙句、有金全部スッたから金貸して欲しいだって? 虫が良いにも程があるだろ!」
「お願いだよ! お願いだから話だけでも聞いておくれよ!」
冗談じゃない! 断る! と言うのは簡単だったが、ムツミの大声に周りの客たちが、なんだなんだと集まってきてしまう。
このままではカジノのスタッフがやってくるのは時間の問題だ。そうなると作戦の続行は不可能だ。
「わかった! わかったからとりあえず離せ!」
本当? とこちらを上目遣いで見ながら尚も離さんとするゴスロリ少女を、いっそ引きずりながら俺は場所を変えるべく2階壁際へと移動した。
ここならばギャラリーを気にせずに話の内容に集中できる。
ルーレットのトリックを見破るのは、この邪魔者を片付けてからにしようと心に決めた。
「で、話っていうのは?」
「えーっと、なんて言ったっけな──」
「あんたに名乗ったことはないよ。ハジメ」
「──くんは、お金って好きかい?」
予想外の質問に一瞬考える。
「……どうだろうね。自分への正当な報酬としてもらえる分には、たぶん好きって言っていいんじゃないかな。それをぞんざいに扱う人間は別として。って言うか、随分遠くから話を進めるな。まさか自分は嫌いだとでも言うつもりか?」
「そう、ボクはお金が嫌い。大嫌いなんだ」
ムツミは言い放った。
一瞬冗談かと思ったが、その表情は真剣だった。
「ボクも昔は好きだったよ。なんでもできるし、あればあるだけいい。最高のシステムだと思ってた。だけどいくら稼いでも、貯め込んでも、心の奥底の一番大事な物は満たされない。こんなにもどかしいことはない」
ムツミが胸の懐中時計をいじる。
「だからボクは考えたんだ。100がダメならいっそ0にしてしまおうって。この世で一番くだらないことに金を使ってしまおう。そうしてこの身全ての金を使い倒した時、その時こそボクは真に心から満たされることができるだろうって」
「……それで?」
俺はムツミの顔をジッと見つめた。
そうして、彼女は心を決めたように顔をあげると、
「なーんにも変わりませんでした(笑)」
バチコーン!
俺は彼女の頭を引っ叩いた。
「クズかと思いきや裏にシリアスな過去を抱えてましたって話かと思いきや、結局ギャンブル中毒が無事出来上がりましたってオチじゃねぇか! 真面目に聞いて損したわ!」
「いやあ、思ったより楽しくて、気づいたらやめられなくなってたんだよね。それで、ええと、お金貸してもらってもいいかな?」
「いいわけないだろうが! お前なんかに貸す金はビタ1クルもない! 帰れ!」
「頼むから! 1ゴルでもいいから貸しておくれよ! じゃないとボク、明日の生活も危ういんだよ!」
また大声に反応したギャラリーゾロゾロと集まってきてしまったので、結局俺はまた腰にしがみつくムツミを引きずりながら、吹き抜けへと戻ってくるハメになった。
ぎゃーぎゃーと喚き続けるムツミの腕を剥がしながら、俺は真面目な表情を作ってゆっくりと言った。
「金ならいくらでも貸してやる。なんならあげたっていい……」
「ホントかい⁉︎ 」
「ただし、今度こそヒナタちゃんの病気を治すために全力を尽くすと約束してほしい。頼む」
ムツミは一瞬一時停止ボタンが押されたかのように固まると、急に押し黙って、やがて口を開いた。
「──ああ、わかった。約束しよう」
「ありがとう」
なんだか思わぬ展開になってしまったが、当初の目的は達成できた。
あとはこのカジノのイカサマを破ることができれば、というところで、ミクが息を荒げて階段を登ってくる。
「ハジメさん! って、あれ、なんでまたその人と……」
「ああ、話すとややこしいんだが、それよりひょっとして、その様子、もしかして──」
「ええ、わかりましたよ! どうやってあの巨大ルーレットが出目を操作していたのか、そのイカサマのカラクリが!」
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