tame3 抑止力npc/自由度故の闇
町を残して周りが焼け野原と化している。町に傷一つないのはゲームならでは、あぁああああ良かった、心底良かった。壊してGMが来るような案件になったら不味かったからね、ウン。なんなら20人近いプレイヤーが付近から消え去った。
……そういえば今のティアともステータスを共有してるんだっけか、好奇心で自分のステータスを確認する。
なんかとんでもないステータスになっている。HPは2000万超えているし他のステータスもオール2000を超えている。ステータス四桁がこのゲームのバランスでどの位の価値があるか分からないが、分かったのは目の前に溜まっていた連中位は一撃で倒せるってこと位だ。
ティアのスキル画面を確認する。
【ドラゴン:【極光希龍】ブルーティアラ 信頼度100/100
パッシブスキル:常時発動スキルです ※ブルーティアラのスキルから下記のスキルが追加されます
追加スキル
―活:ブルーティアラ周囲の味方プレイヤー、ファミリア全てのHPを徐々に回復させます。
アクティブスキル:任意で使用するスキルです
カーネージ・ブレス:横薙ぎに光属性のブレス攻撃を放ち、そのラインを爆発させます。
デストラクトレイ:上空から無差別に光属性の槍を降らせます
World Destruction:光属性の超極大のブレス攻撃を放った後広範囲を円形状に爆発を起こします
】
いくらなんでもバランスブレイカー過ぎやしませんかね? と所有者でも思う、これなら相手の魔法や遠距離攻撃の射程外から一方的に殺せるじゃないか
そんなこと思いながら口では
「ティア、多分大丈夫だ降りよう」
「承知しました」
ゆっくりと地上に降りていくティア、地上に降り立つと広場にはルー以外誰もいなかった。そりゃ町が攻撃されたら死なないとはいえ家の中でブルブルとマナーモードになる……と思ういやホントスイマセン俺が考えなしだった。
「あはは……すごい威力だったね」
どこかにいたルーさんが近寄ってくる
「し、暫くは戦えませ~ん……」
元の大きさに戻りどういうわけか目を回すティアを抱きかかえて彼女(?)に話しかけようとすると彼女の視線は俺に向いていない。どうやらその後ろ向いている、俺も振り向くとさっきの攻撃を咄嗟に町に入ることでなんとか躱したプレイヤーがいたらしい、鎧兜で顔までは分からない、ネトゲらしく考えれば装備アバターではなく、本来の装備むき出しの無課金者ってとこか?
「……よこせ、ブルーティアラをよこせ……」
「俺の……俺のユニークアイテム……」
全員が呪詛を吐くようにティアを寄こせというプレイヤー、声は男性と言うより少年だ。リアル中学生位か? ただ疑問に思うのはこのゲームの売りは高い自由度を誇るオリジナルスキルやオリジナルジョブの作成だろ? こんなことに時間を割くなら自分のスキル作成に時間を割いた方がよっぽど有益だと思うんだが
「そう、そのスキル、ジョブ作成が大きな闇を生んでしまったの」
そう彼女が呟いた瞬間
――――ズキンと本来アバターに無いはずの心臓が跳ね上がる、途端に鼻呼吸だけでは酸素が足りなくなって口で酸素を貪る。
「今すぐ失せなさい! この子は彼の家族よ!」
さっきまで優しいほんわかお姉さん、という感じの彼女は身を潜めている。ここにいるのは静かに金色の髪を揺らす夜叉かなんかだ。立っているだけで相手を黙らせる様な威圧を放っている。
「邪魔だぁあああああああああああ!!」
泣き叫びながら俺に、というか腕の中にいるティアに飛び掛かってくる。だがそのプレイヤーは次の瞬間には消し飛んでいた、と思ったら彼女の両手にはさっき見せてもらったクラウソラスが握られていた。
「まだやる?」
無感情に放たれた言葉は他の生き残ったプレイヤーを俺から遠ざけるのに十分すぎる効果を発揮していた。
残された他のプレイヤーも蜘蛛の子を散らすように泣き叫びながら逃げていく。どうやら事態は収まったようだ。
「ごめんね、ああいうの新しいユニークアイテム、スキルを持った子が来るたびに現れるから……」
罰悪そうな表情でこちらに振り向くルーさん、俺は何か喋らないとと思い口を開こうとしたが
「だとしても今回のこれはやり過ぎだぞ」
左肩に手を置かれてからようやくその存在に気付く、何者だこいつは。
注目するとプレイヤーの頭上に出るアイコンがプレイヤーの緑とは違う、橙色だ。
「本当に神出鬼没ですね、"陽光・ソレイユ"」
軍服をモチーフにしたであろう、黒い軍靴にボトムス、上着も黒いタンクトップ。服装で一番目立つのはかなり長い真っ白なマフラーだ。右には【不退】、左には【神風】の文字が見える。髪はルーさんと似た色合いの金髪それが俺のアバターの髪みたいに不規則にハネている。マフラーと髪で分かり辛かったが目つきはかなり鋭く、視線だけで魔物を殺せそうなイメージを受ける。右目にしているのは……眼帯か?
「ドラゴニア、貴様何故この町に攻撃を仕掛けたか詳しく聞かせてもらおうか」
……はい、全てお話しします。この人は下手に嘘つくとすぐに殺されそうでホントに怖い……
俺はことの経緯を包み隠さず正直に、真摯に誠実にに話す。
「成程な、状況は理解した」
はぁとため息を吐く彼、そして
「今回は流石にお咎めなしだな、右も左も分からない奴に寄ってたかる奴らが悪い」
どうやら無罪らしい、良かった、心底良かった……
「だからって、町を巻き込むようなことは今後控えてほしい。お前らプレイヤーにとって俺達はただのプログラムの塊かもしれないが、彼らの世界はここなんだ、ここで必死に生きているんだ。だからいたずらでなくても、な?」
「はい……」
俺が安直過ぎました……心の底から反省しています。
「最後だ、そこの睨んでるチビスケ」
どうやら俺の腕の中にいるティアの事らしい、次元が遥かに上の存在である奴が敵になっても俺を守る気でいるらしい
「お前は今の主人が大好きか?」
「はい、ボクの主人はこのドラゴニア以外にあり得ない」
少し覚醒中の言動が混ざったような喋り方をするティア、それを聞いた彼の雰囲気は少し柔らかくなる。
「そっか、おいドラゴニア……って言わなくても分かってるな?」
「えぇ、ティアはただの戦力なんかじゃない、俺の大事な相棒で家族です」
「いい答えが聞けた」
一瞬、ほんの一瞬だが彼の雰囲気だけじゃなく視線からも優しさを感じた。まるで子供を見守る父親の視線の様だった。
そして気付いたら彼は姿を消していた、ホントに神出鬼没なんだな……。
「あの人はいつもいつも……」
半ば呆れている彼女。そういえばさっきのが抑止力NPCって奴だよな? 具体的にはどんな連中なんだろうか
「ルーさん、気になってたんですけど抑止力NPCとは?」
「んー、簡単に言えば不眠不休のGMね。彼らが違法行為や非マナー行為とかを取り締まっているの、噂だけど彼らの過去を中心としたイベントも企画されてるみたい」
なるほどな、そして
「さっきの……」
「ニア君、長話になりそうだから喫茶店に入らない? 奢るよ」
彼女に言われて気付く、しかし……
「ネカマな上に姫プ企んでるなんて思われたくないからね」
……根に持ってた、ほんとゴメンナサイ
※※※
喫茶店に入ると中は以外にも空いていた、最初の町だし当然っちゃ当然か?
彼女が頼んだのは紅茶、俺は一番安いコーヒーを頼む、ティアにはパンケーキを頼んであげた。
「それじゃあ、まずさっき言った闇についてね」
彼女はゆっくりと話し出す。
「サービス開始初日、このゲームは運営の予想を遥かに超えて初日の登録者人数は50万を超えたの、そして千種類を超えるスキルとそこまでは行かないにしろ数百種類のジョブが作られたの」
それは、さぞ面白い光景だったろう。先駆者が切磋琢磨している姿が思い浮かぶ。
「だけど悲劇はすぐに起きたの、心許ないプレイヤーが他人のスキルを批判するようになったの」
あぁー……なんか『それ〇〇でよくね?』とか『〇○のパクリやん』とか平然というプレイヤー達も思い浮かぶ。
「さっきの子達はそういう意味で"叩き折られた"子達ね、自分専用の技が欲しくて、努力して、唯一無二のスキルを作ったつもりが既に似た挙動のスキルがあって行き詰まっちゃった子達」
そこに現れたユニークアイテム……とは違うなユニークファミリアを持った俺は恰好の餌食だった訳か。
「それにね、ユニークのファミリアって君が初なんだよ。今までは武器かスキルばかりだったのに今回はファミリアだったから」
そういう意味でも注目を集めてしまったのか、ようやく合点がいった。
「そうこというか……」
「ルーさん、ルーさん、ネカマと姫プって何ですか!?」
俺は落ち着くために、彼女は喋って乾いた喉を潤すためにそれぞれ飲み物に口を付けたところでティアがとんでもない爆弾を全力投球してくるものだから同時に吹き出す。しかも当の本人は目を輝かせている、まるで小さい子供だ……いや実際小さいけど!
「え、えっとね……ネカマっていうのはネットオカマっていうのが正式名称で、リアルは男性なのに女性のアバター使ったりすることを言うのよ、この言葉自体は本来悪口じゃないんだけどね」
彼女にばかりに説明させるのは気が引けたので目で合図を送って説明を引き継ぐ。
「姫プは正式には姫プレイ。女性のアバター、こっちでの自分を作って複数の男性アバターのプレイヤ―に守らせる行為、これも周りから見たら気持ち悪いって避難されやすいんだ。まぁ俺は当の本人たちが楽しんでるモノならいいんだけどさ、問題はその姫の中身が実は男性、つまりネカマだったりとか中身が女性でも課金アイテムや強い装備を貰ったら、その取り巻き達と縁を切ってしまうことが多々あるから悪口で使われることが多いんだ」
「そういう事でしたか……当てはまる人はあまりいい人には見えませんね」
うん、割とマジで関わりたくない連中だ。
「と、とりあえずこの話はもう忘れようねティアちゃん?」
俺にとっても彼女にとってもこれ以上続けたくない話題だよこれ……