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idealonline~白き龍と魔王~  作者: 十月
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11/26

Ex 明日ありと思う命の仇桜

 ――――ここはどこだ?


 確かに俺はゲームからログアウトしてリアルのベッドで横になって寝たはずだ、だが意識はハッキリしているし体も自由に動かせる。



(明晰夢(めいせきむ)って奴か?)


 いま俺が立っているのは、どこか見知らぬ鬱蒼とした森の中。激しく降り注ぐ豪雨のせいで、周囲の視界はひどく煙ってよく見えない。


『あの日、あの光景を見たから思う……いや、作ってしまったからこそ思う』


 不意に聞こえたのはそんな声、後ろを振り返ると


(ソレイユ!?)


 針金のように逆立った金髪のツンツンヘア、右目を覆う特徴的な眼帯。そして、首元に巻かれたあの長いマフラー。見間違えるはずもない、ゲーム内で出会ったあの『抑止力NPC』のソレイユ本人だ。

しかし、彼からこちらの姿は見えていないらしい。一切視線を交わすことなく、ただ一心に、暗雲の立ち込める遥か上空を睨みつけている。


 俺もその方向を見ると……


(なんだよアレ……)

 

 雨でよくわからないが巨大な物体があることはわかった、しかもそれが生きている……?


『俺は人に、泣くより笑って生きて欲しいと』


 激しい雨のカーテンに遮られて全貌は掴めないが、そこに「山」と見紛うほどの巨大な質量が存在することだけは分かった。しかも、それが明確な意思を持って蠢いている。生きている……。


 激しい雷光が走り、一瞬だけ世界の輪郭が白く染まる。目が慣れてきたせいか、その巨大な物体の正体が徐々に視認できるようになってきた。

――巨大な、鉄の人形。ゲームの枠組みで表現するなら『アイアンゴーレム』と言えるだろう。だが、サイズが規格外。見上げただけでも、優に100メートルは超えていることが分かる超巨大兵器だ。

……しかも、それが視界の届く範囲だけでも、計六体。地響きを立てて進軍している。

 対するソレイユの手に握られているのは、ルーさんが使っていたような双剣ではない。抜き放たれているのは、刀身から眩いばかりの神聖な輝きを放つ、真っ白なロングソードだった。見ただけでただの武器ではないと察せられる覇気があるが、それでも、あんな規格外のバケモノ共を相手にするには、無謀にも程がある。


『人の夢が続いてほしい、笑いが続いて欲しい』


……呟いている言葉はなにかの詠唱か?


『待って光輝(こうき)! それだけは止めて! もう貴方の体は貴方自身の本気に耐えられない!!』


 不意に、ソレイユの耳元から切羽詰まった女性の叫び声が聞こえた。よく見ると、彼の耳には小さな通信用インカムが装着されている。そこから音声が漏れるほどの怒声だ。……光輝? それが、彼の本名なのか?


『だからこそ、ここで終わらせる。ひっくり返すだけではなく、幕を引く!!』

 

(これはダメだ……)


 止めないと思った、ただ感情的にそう思わされた、言語化して説明はできそうにない。けれど止めないときっと大勢の人が悲しむような気がした


「悪い美夏(みか)


 静かにそう呟いたソレイユは、耳元のインカムを無造作に毟り取ると、そのまま右手の握力だけで粉々に握りつぶしてしまった。


『明日ありと思う命、絶対に……嵐に吹かせやしない!』


 彼がこれほど感情を剥き出しにして叫んだところを、俺は初めて見た。

その絶叫と同時に、彼の全身の皮膚が裂け、凄まじい血飛沫が豪雨の中にブワッと吹き出す。彼の纏う魔力そのものが、肉体を崩壊、しかし即座に再生させながら暴走しているのだ。


六天(りくてん)


(止めろ!!)


 今まで出したことのない位の声で叫んだつもりだった、けれど彼には届いていない。


阿修羅(あすら)――!!」


 全てがスローモションに見えた、敵に肉薄するために空に跳び出すソレイユ、それの背中を押すように現れたのが無数のソレイユと似たデザインの服を着た同年代の男女だ。そいつらの口が何かを告げるように動いている。


(行ってこい、そして生きて帰ってこい……?)


 声そのものは聞こえなかったけれど、彼らの口の動きを真似てみたら、そんな言葉を投げかけているような気がした。――だが、その直後、視界が真っ白な光に包まれて……



※※※


「ぶはっ!!……はぁ、はぁ」


 そこで目が覚めた、なんとも目覚めが悪いし、息も荒くなっている。


(……なんだ、ったんだよ、今の夢……)


 そもそも、これはただの現実の高校生が見た、ただの悪夢なのか?

いや、違う。まるで、システムに刻まれた何かの記録が、俺の脳内に直接流れ込んできたかのような、そんな奇妙な現実感があった。


 胸騒ぎが収まらず、俺は枕元に置いてあったスマートフォンを手に取り、いつもの攻略掲示板を開いた。必死になって検索窓にワードを打ち込み、探したのは『抑止力NPC』の項目だ。


【陽光・ソレイユ


 現状、プレイヤーがカトルの次に出会い、会話を交わしたことのある数少ない『抑止力NPC』の一人だと思われるが、その戦闘実力は完全に未知数。気付けばそこにいて、気付けばいなくなっている。マフラーの刺繍にある通り、まさに『風』のような神出鬼没の人物である。


現在分かっていることは、「一見、睨むだけで人を殺せそうな鋭い雰囲気と顔つきの持ち主だが、その根は大変優しく、プレイヤーに対しても面倒見が良い最高の兄貴分」という程度の情報のみ。詳しい背景設定などは一切不明。


 画面に表示されたのは、それだけだった。

俺が知りたかった彼の本名や、あの100メートルを超えるゴーレムたちの情報、そして彼が最後に発動しようとしていた、あの命を削る最上位スキルの情報なんて、どこにも書かれていなかった。


(……はぁ。明日、マジでゲーム内で何も起きなきゃいいんだけどな)


自分で自分に変なフラグを立ててしまったかもしれない、と思いつつ、俺はまだ震えの収まらない手でスマートフォンを閉じ、再び布団にくるまった。

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