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第18話 私の心は貴方色



 ラグの実家で朝食をいただいた後、私達は我が家へと帰ることにした。

 アルバートさんやマリベルさんは、もう少しゆっくりしていけばいいのに、と言ってくれたけど、住んで早々家を空けるのもしのびない。残念そうに見送る二人にお礼を告げて、私とラグは晴れた空の下家路を行く。


「あっという間の里帰りだったね」

「里帰りと言っても、同じエンデですよ。師匠に至ってはワラワヘムで顔を合わせていますし」

「でも嬉しそうだったよ。アルバートさんもマリベルさんも」


 今度は家に呼ぼうね、そう言って笑いかけると、渋々ながらも了解してくれた。


「じゃあ頑張ってお料理覚えないと。あ、今度ねぇ、マリベルさんがお料理教えてくれるって。ラグの好きなもの、いっぱい覚えるからね!」

「楽しみにしていますよ。しかし、まずは卵をきちんと割る練習からはじめないと」

「うっ……あれは偶然入っただけだもん!!」

「はいはい」

「返事は一回!!」


 いつも通りの賑やかなやりとりを交わしながら、美しいエンデの街を歩く。

 エンデの白を几帳とした街並みは、あちこちに通る水路の水と相まって、見事な風景を作り出す。本当に、おとぎ話の世界だ。

 

 ラグは、今日一日仕事を休んでいる。

 ベルゼブの話を聞いたアルバートさんからも、私の側に付いているよう言われているらしい。気を使わせて申し訳ないが、やっぱり頼もしい。だって、あんな面倒なやつ、私一人で相手にするのは色々と辛いものがあるから。

 

「あ、そういえば、市場に行きたかったんだ。ラグ、このまま寄っていこうよ」

「構いませんよ」


 市場は街の中心部に並んでいる。魔術師協会の建物からは、ほんの少ししか離れていない。

 所狭しと色とりどりのテントが張られ、商人や街の人で賑わっている。売っている物も様々で、冒険者用の武器や防具を扱う店もあれば、新鮮な果物や野菜を売る店もある。骨董品を並べているテントには、あきらかに呪いの掛かっていそうな趣味の悪い魔術具が置いてあり、物珍しそうに眺める私にラグの声が掛かる。


「手を触れてはいけませんからね」

「分かってるよ。魔術関係のものには手を出さないって決めてるから」

「いい心がけです」


 私は以前、こうした魔術具によってとんでもない悲劇に見舞われたことがある。まだこの世界に来て間もない頃だ。あまり気持ちのいい出来事ではなかったので割愛させていただくが、とにかく、それ以来魔術関係の品物には迂闊に近付かないようにしている。


 ピレッツァと調味料用のハーブ、それから腐らせない程度の野菜と果物、不足していた日用品を買い込むと、ラグの手はあっという間に荷物で埋まる。

 後は衣服類を買えば、本日の買い物は終了だ。

 市場にある衣類は、旅用に作られたものか魔術師用の古びたローブしかないので、少し離れた大通りまで行かなければならない。そこならば、普段から着られるような、上質の品物が置いてある。


 明け透けに言ってしまえば、私達はお金には困っていない。

 ラグは城に召されていた時のお給金をほとんど使っておらず、私に至っては王子から貰ったドレスや宝石を売り払ったお金がある。

 この世界には、マンガもなければCDやDVDも無い。さして欲しいものなどないから、こうした買い物の時にしかお金を使うことはない。

 ただ、洋服だけはみすぼらしいものを着るわけにはいかない。旅をしていた頃と違い、多少なりとも身なりにも気を使わなければならなかった。私の恥は、イコールでラグへと繋がってしまう。せめて他人に見られる部分は、しっかりとしなければ。


 大通り沿いには、様々な衣服の仕立屋が並んでいた。多いのはやはり魔術師のローブを作る仕立屋だ。エンデに住むのはほとんどが魔術師だと聞いていたが、なるほど、道行く人々も大体ラグと似たような格好をしている。

 その中でも、ラグが一番かっこいいけど……これはひっそりと心の中に留めておく。


 それぞれの店先には、その店舗の新作やら流行の商品やらが置かれている。まさか異世界に来てウィンドウショッピングができるとは思わなかった。なかなかに面白い。

 目的も忘れてあれこれ見て回っていると、隣を歩いていたラグが呆れてため息をついた。

 やばい。ラグに荷物を持たせているのに、そっちのけで楽しんでしまった……。


「ご、ごめんラグ。荷物、重いよね。半分持つから」

「荷物は大丈夫ですが……貴女、自分の洋服を買いに来たのでしょう? さっきから、魔術師のローブばかり見ているじゃありませんか」

「え!?」


 言われて見れば、確かにそうだ。

 多分、無意識のうちに見てしまうのだろう。あの色はラグに似合いそう、あの形は好きかな……とか。

 何だか、いつもラグのことばかり考えているな。そう思うと途端に恥ずかしくなって、一人で勝手に照れてしまった。


「貴女にローブは似合いませんよ。どうしても着てみたいなら、後で私のを貸しますから」

「いやぁ、そうじゃないんだけど……」


 ……まあ、いいか。

私は気を取り直すと、今度は自分の洋服を見るために大通りを進むのであった。

 


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