空を飛んだ
しばらくすると
「もういいよ龍ちゃん、目を開けて」
すると龍二は
「何か体がフワフワしてる感じがするねんけど」
「すぐにようなるよ」
カイトはがじゅまるの木の上に飛んでいった。
「おーい龍ちゃんー!こっちまでおいでやー」
「えーっ、どうやって?」
龍二は、大きな声でいった。
「むずかしく考えちゃーあかんよう!いつものように歩く気持ちでいいねん。歩くときっていちいち意識せーへんやろう。なっ、そう考えると簡単やろ」
(歩くようにかー)
龍二はそうつぶやくと、ゆっくりゆっくりと宙に浮いていった。龍二の顔は、まるでジェットコースターに乗る前の期待と不安の入り混じった表情になっていた。
「そうそうー、それでいいねん。その調子その調子!そのままこっちまでこいやー」
「カイトー、僕ほんまに宙に浮いてるねんけど途中で下に落ちたりせーへん?」
龍二は、ちょっと不安になった。
「大丈夫大丈夫、そんなこと絶対にないよ」
龍二は安心した。
「ほんならそっち行くー」
ちょっとバランスは悪いが、なんとかカイトのいるがじゅまるの木の上に向かっていった。
「わー、がじゅまるの木ってこんなに高かったんやー」
龍二は、生まれて始めて見る光景に胸が躍った。月の灯りが龍二とカイトを照らし、小さく風に揺られながらフワフワと浮いていた。それはまるで神秘的だ。
「なー、龍ちゃん。空の散歩せーへんか?龍ちゃんに見せたいとこがあるねん」
「へー、空の散歩?僕、なんか心臓がドキドキしてきたワ」
「そんなんでドキドキしてる場合やないで!これからもっとすごい体験するねんから。さっ、それにつかまって」
龍二は、カイトの腰巻のはしをつかまえると、「出発進行」と叫びながら、カイトに引っ張られるように飛んでいった。
しばらく行くと左に海、その向こうに屋我地の島が見える。空から見る今帰仁の夜景は神秘的だ。
真夏だというのになぜか風が冷たい。涼しいというより寒いくらいだ。
周りを見渡すと満天の星。油断するとぶつかりそうな感覚だ!それに、いくつもの流れ星が目の前を通り過ぎて行く感覚だ。しかし、こんな感動も龍二には空を飛んでること自体が不思議であり、周りを見る余裕はなかった。
「龍ちゃん、あれ何だかわかるか?」
カイトはある場所を指差した。
「・・・わからへん?」
龍二は首をかしげた。
カイトはニヤッと笑うと
「学校や学校、龍ちゃんの通ってる天底小学校やんか」
「うそやー、学校ってあんなにちいちゃかったん?なんか違うような感じするねんけど」
カイトはまたニヤッと笑った。今度は学校のすぐ真上まで来てみた。
「ほんまやー、ほんまに学校やんか!・・・そっかー、さっきは高いとこから見たからちっちゃく見えたんや」
龍二は、しばらく周りを見ていた。
カイトは嬉しかった。人間と仲良くなれたのが本当に嬉しかった。
村の長老に何度もも聞かされていた。昔子供の頃、人間と仲が良かった頃がいちばん幸せだったという話がうらやましかった。
しかし、今は違う!カイトは龍二に出会い、そしてこうして遊べることに感謝していた。
龍二はまだ周りを見ている。龍二もまた、違う意味でカイトと同じ気持ちなのであろう。
龍二はカイトの腰巻をつかまえると、また違う方向へ飛んでいった。
「龍ちゃん、あれなんか知ってるか?」
「知ってるで。あれおっぱい山(乙羽岳)やろう。こないだ遠足で行ってきたワ」
今帰仁ではおっぱい山と呼ぶ。ふたつ山が並ぶことで、そう呼ばれたらしい。
「それにあれ東京タワーやろう。あきらくんいうとったで」
(ちゃーういうねん。テレビ塔やんけ。ここは今帰仁やぞあきらのボケ!嘘ばっかりいいやがってからに。・・・まっ、ええか。あきらなんかほっといたろ!)
「ちゃーうちゃーう、あれわな、東京タワーやなくテレビ塔やねん」
しばらくいくと、今帰仁城址が見えた。空から見るとまるで万里の長城を小さくしたようだ。
北側には東シナ海が見え、砂浜が広く長く続いていて、ここ今帰仁ではうっぱま(広い砂浜)と呼ばれている。
そのうっぱまから丘の方向にいくと、突然カイトは止まった。真下には{源の為朝}の上陸碑があった。
その上陸碑は、人々の祈りの場所でもあり、そばには賽銭箱が置かれていた。
しかし、その神聖なる賽銭箱を荒らす子供がいた。
あきらである。
カイトは知っていた。しかし、そのことはもちろん龍二は知らない。そして龍二には言えなかった。




