欠けた茶碗
「これどうするよ」
僕たちは実家の納屋の中で途方に暮れていた。兄が1人、それに近寄りカチャリと音を立てる。
「どうするもこうするもない。いるか、これ?」
種々様々な茶器、食器が床に広々と並んでいる。出した一箱の中身がこれで、同じ様な箱がまだいくつもある。
「お婆ちゃんの実家って、加賀の旅館事業で成り上がった人だったでしょ。そこで手に入った物が流れでうちにきたらしいよ」
「じゃあ、何これ価値ある物なの?」
「分からないよ。僕らは別に骨董の類に興味があるわけでもない、価値ある物の目利きの能力もない。それに納屋の中だろう」
納屋の中は砂と埃だらけで、箱に入っているといえども完全に綺麗とは言い難い。
「お父さん達はなぜ、こんな所に入れたのかね」
「さぁね。僕たちが処分する事になるのにね」
僕の言葉に兄は少しばかり口を動かしかけたが辞めた様だった。ただ、もう一度器の箱を見つめる。
「捨てるか」と兄が言う。
「捨てようか」と弟は言う。
割れた茶碗。器を外へと運び出す。父はこの器の価値など知らなかっただろう。だから、こうやって荒い保存の仕方をしたのだ。
所狭しと並ぶ父の農業機材。奥に積まれた箱。
「捨てろよな、自分で。もっと広く使えただろ」兄は吐き捨てる様に言う。
「農作業道具は、僕らに処分させるの謝ってたね、お父さん」
「おぉ、そうだな」
僕ら2人は納屋から割れて、汚れて、何物かも分からないそれらをただ投げ捨てる。何も考えない様に。汗を流す。
箱を余計に高く上げ、音を上げる。頭の中にはその音だけが響いて。響かせて、ただ投げ捨てる。




