第90部 港の建設
1243年12月5日 ポーランド・ブィドゴシュチュ
*)港とボブと
ボブは港の建設をも請け負った。積み込み用と搬入用の二つのポートを造るという。ボブが描いた図面では、正面のみ石の階段がある。Eの字の形をしている。
「オレグさん、ここを掘り込んで港にしたいんでさ~。どうでしょうか。」
「おう、頑張れ。人足は二十人で勘弁してくれ。」
「はい、承知しております。」
「リリーさん、あそこと、ここと、向こうにも大木を残しておいて下さい。」
「ボブさん、分かりましたわ、三本ですね。」
ボブによる港の建設が始まった。
倉庫がロとして港はEだ。ロ E のようになる。倉庫の方にだけ石段を造り、中央の埠頭も石垣造りにする。船が接岸しない所は土のままで木を植樹して崩落を防ぐ。
ボブがこの案を考え出すのに、五日もかかっていた。案が出来れば港も直ぐに……は出来ない。港のEの形の、|ー の部分をリリーにより大地の魔法で、先に掘り込んで、そこに石段と石垣を建設する。丈夫な石造りが出来たら今度は船の入る所を、水深が三m程度になるように大地の魔法で掘削する。
その後にリリーと魔女により大地の魔法で川の部分の土を取り除く。これで港は完成する。
「ボブさん、穴の深さはどれほどでしょうか。」
「はい、水深が三mとしましたら、それよりも深い四mにお願いします。」
「Tの字に……この高さならば約六mの深さだね。」
「はい、後は私どもで高低を測りまして調整いたしますので、おおよそで構いません。」
四mと三mの差は、そこを少し広めに掘削して、グリ石を敷き詰める。これは石の重みで不等沈下を防ぐためである。
「で、ボブさん。長さはどこまでですか?」
「はい、あらかじめ杭を打ってございます。この長さでお願いします。」
「穴の幅は?」
「はい正面の階段は一mです。突き出る埠頭は四mでお願いします。」
「分かりました。直ぐに掘削いたします。ボブはそこで見ていて下さい。」
リリーは魔女の二十五人を集めて大地の魔法で地面に穴を空ける。
「ボブ、良かったら線で記しを描いてくれませんか?」
「はい~喜んで~、」
リリーは丁寧にボブの描いた線の上を歩いた。
「分かりました。」
この穴の掘削は難しいのだ。地割れなら力任せに魔法を行使すればいいが、正確に土を取り除くとなると、二度三度の魔法を使うしかないだろう。
「先に階段の部分からです。あなた達しっかり魔法の呪文を唱えなさい。」
「はい、リリーさま。」x24
「そこの貴女、返事はどうしたの!」
返事をしなかった魔女はばれたのが恐ろしかった。
「す、す、すみません。お許しくださいまし。」
「えぇ、次からは返事してください。」
「はい……。」
リリーは呪文を唱える。
「我が聖なる大地の女神よ、モーゼのごとく大地を分けたまえ~。土は横の空き地へ飛ばしたまえ~!!」
「我が聖なる大地の女神よ、モーゼのごとく大地を分けたまえ~。土は横の空き地へ飛ばしたまえ~!!」x26
大地は微動もしなかった。リリーは、
「オレグ!!」
いつもは兄さんと呼んでいるが、今は呼び捨てだ。
「おう任せろ。」
オレグは魔女の中に走り出した。中ほどで立ち止まり、魔女の腕を握りしめ、
「おうボブ。こいつを縛ってくれ。」
「ぎゃ、魔女!!」
意味不明な言を口走る。そうして、
「あぁ、すぐに首に縄を結んで鳥居に下げてやるよ。」
「いや、ここは亀甲縛りでないと、逃げちまう。だってこいつは、すっぽん”だからさ!」
「ほえ? すっぽんぽん?」
「キルケは人間を家畜に変える事が出来るのさ。んで、この魔女はそのキルケのスパイさ。亀臭いからすぐに判ったよ。その逆もありなのさ。」
オレグはリリーの傍に連れていく。リリーは魔女の頭を叩こうとしたら、
「おやおや、首を引込めたな。これでは頭は叩けない。」
「ゲッ、本当に亀だ。首が無くなった。」
「ばこ~ん。」「ばこ~ん。」「ばこ~ん。」
魔女は亀に戻ってしまった。戻った姿で縄でくくられたら、
「おう、アントニア、鍋料理にしてく……。」
と、その時藪から黒猫が飛び出して、亀の縄を咥えて一目散に逃げていった。
「ゲゲ!!」
黒猫の素早さに圧倒されたオレグだった。
「チェ! ドジったぜ!!」
「大丈夫よ、お兄さん。あの亀にはマーキングを取り付けたわ。後程探してウサギに変えてみせますわ。」
さらりと恐ろしい事を言うリリーだった。魔女たちに激震が走る。
(リリーさま、恐ろし!!)x25
再度リリーは呪文を唱える。
「我が聖なる大地の女神よ、モーゼのごとく大地を分けたまえ~。土はキルケの頭へ飛ばしたまえ~!!」
「我が聖なる大地の女神よ、モーゼのごとく大地を分けたまえ~。土はキルケの頭へ飛ばしたまえ~!!」x25
土はミル島へ飛んでいった。キルケの悲鳴が聞こえそうだった。
「リリーは可愛くて優しいのだがな~。」
リリーは段々と誰かに毒されているようだった。魔女たちも、
(リリーさま、恐ろし!!)x25
正面の階段の部分が完成した。踊り場は1mと狭かったから、必要が無いのだろうか。
次は飛ばす土の量が多い中央の埠頭の部分だが、
「ボブ! 少し休ませて。土を飛ばせ過ぎたから疲れたわ!」
オレグとソフィア、それにボブ。ボブ船長も、事務所へ駆けだした。
「リリーさま、ワクスでございます。」
「うむ、ご苦労!!」
「?……?」
アントニアと数人の女たちが昼食に用意をしている。
「すまんがアントニア。昼食と夕食を混ぜてしまって今日は慰労会にする。」
「えぇ、いいですよ。お早いお帰りをお待ちしております。」
魔女たちの疲労が殊の外大きかった。埠頭の深さが不足してしまった。
また、ミル島へ飛ばした土のお返しは届いていない。良かったと言っていいのだろうか。と、悩ましい。
「オレグ、もう穴は掘れないわ。明日も明後日もだよ。これで許して下さい。」
「おう、もう大丈夫だ。あとはあいつらが頑張るさ!」
明日からは人足による土木工事が始まる。
鋤を持ってきて穴掘りをするのだが、他に道具が在ったのかは不明。踏み鋤という農具があるが、これがスコップの原型ななる。ここは踏み鋤と鋤を使用する。
「ボブ、これは俺の墓穴で間違いないか?」
「いえいえ、旦那に死なれましたら私らの働き口が無くなります。」
「これからどうすんだい。」
「最初は正面の階段の建設からですね。まぁ、見ていて下さい。」
ボブは何処から集めてきたのか、割れ欠けの煉瓦を多数山積みしていた。これがグリ石になるというのだ。
「これは聖堂の建設現場から頂いてきました。……ただですよ?」
「そうか、ボブも苦労しているのだな、俺も……。」
「この煉瓦を穴に放り込んでくれ。左端から順番にだぞ。」
ボブは煉瓦を縦に積み上げろと言うのだ。それが済んだら購入した長い石を三列に並べろと言う。
「おう、そうだ。三列の三段だぞ!」
地上から男が六人かがりで、下から引っ張り、そして上から引っ張るのだ。
「下から引き摺るから、いいな。そのまま穴に落としたらダメだぞ。」
「へい、ガッテンです。」
穴の所まで来たら石をゆっくり下ろしていく。
「旦那、泥まで落とさないで下さい。」
「しょう~が~ね~だろ~、そこに泥が在るのだから……。」
「そんな~。」
「おう、ボブ二号。松の木を地面に置いていたらいいだろう。そうしたらさ石も滑り易いしさ!」
「ボブ船長、いい事をいいますね~、の案頂きます。」
最下段に松の杭が六本打たれた。そこまで松の木を横に並べる。それでも松の木が崩れる恐れがあるからと、途中途中にも杭が打たれた。今度は地面の抵抗が無いから、港の水が入る所から長いロープで引っ張る。
ズルズルズルと滑り出したら、上から石を引っ張ってゆっくりと下ろしていく。これを百本繰り返すのだ。
「なに、苦労するのは最初だけだ、頑張れ。」
作業をしないボブだ、気楽な事を言うばっかり。こうして三日間が過ぎる。並べた煉瓦の上に、横に三列、縦に三段が積まれた。
「みんな、頑張ったな。これからは横二列で6段まで積み上げるぞ。」
「そんな~……。」
「なんだい、もうへばったかい。」
石工のマシュが声をかける。今度は弟子に向かって、
「今からこの石積みの平行をとる。高くなっているところを削るんだ、いいな。俺が指示したところだけだぞ。」
「へ~い。」x10
「ボブ、この作業を行わなければ、石段は壊れるからな。」
「おう、ここは任せるぜ。しっかりと水平を出してくれや。」
「あんたらはポートの埠頭の穴掘りをしていてくれ。ボブには秘密兵器があるのだろう?」
「あぁ、そうとも。自慢のクレーンを組み立てるか!」
そう言ってボブは松の木で三本櫓を四機作らせた。櫓の高さは四mと、高いのだ。そこに梁となる木材を架けた。この木材には初めから二か所にロープが結ばれていた。一つはとても長いロープ。もう一つは短くて滑車が着けられている。この梁となる木材は直径が十cmほどの重い物ではない。
片方の櫓に掛けて押し込んで行く。最後は向こうの櫓の上に落とすだけだ。櫓の柱の二本は長くなっていて、落とす木材がずれても受け止めてくれる。
「上出来だぜ、思ったよりは楽ちんだったな。」
「そうですか~・?」
「おう少し待っていろ。俺が上って滑車にロープを通してくるから。」
ボブは枝のある松の木を用意していた。枝に手足を掛けてするすると、苦も無く登り切る。滑車にロープを通して下りてきた。そしてロープを穴に落とす。
「このロープの滑車に籠の紐を掛けてくれ。……あぁ、それでいい。掛けたらすぐに離れろよ。籠が落ちたら死ぬぞ!!」
「ボブ、怖がらせてビビらせてもいいことは無いぜ。」
「へい、旦那。怪我されたら旦那が損しますからね!」
「よく分かっているな、なぁ、ボブ二号!!」
「今度は松の木で橋を作るから、そこの松を全部並べて結べ!」
ボブは次々と作業の指示を出す。橋は三本作られた。
「おう、その籠に土を入れて滑車に掛けてみろ。」
「ボブさん、入れました。」
「よ~し、今度はこのロープをお前らは引っ張れ!」
「はい、ボブさん。……、これ? 土が入っていますのですか?」
「どうだ、軽いだろう。」
「へい、楽に上げる事が出来ます。」
籠が上がる所に左右に橋がある。男二人で天秤棒を差し込んで持ち上げる。
「ボブさん、これは重たいですぜ……ぜぇ、ぜぇ…」
「そのまま運んで来い。出来るだろう!」
「へ~い。」
同じ要領で次の櫓が組まれ、梁が通された。ボブは素早く滑車にロープを通して下りてくる。二組の土の引き上げ用のクレーンが出来上がる。
踏み鋤を十人分が穴に落とされた。予定の深さが無かったから、人員の補充要請がありオレグはトチェフより十人の人足を呼び寄せた。
幅四m長さが十五m追加で掘る深さが約二m百二十立方メートル。そうとうな重量の搬出になった。
魔女の力を借りたいところだが、次は船が入る所の土を掘り上げるのだ。これは一筋縄では出来ない。
「魔女さま、しっかり食べて飲んで、呑んで下さいまし。」
次に失敗したら水が流れ込んでいるから、追加で掘削・浚渫は出来ない。一か八かの勝負になるのだ。
オレグはボブの描いた図面を見せてもらうと、
「ボブ、お前はバカだ。なんでくそ真面目に全部掘るのだ、周りの一mを掘ればいいのだろう?」
「ほえっ??」
「あぁ、幅一mを二mの深さ掘ればさ、そうして石積みをすればいいだろう。全部掘って泥も全部上に上げるつもりかい???」
「あっ、そうですよ。旦那、ありがとうございます。今晩ご馳走いたします。」
「おう、お前ら、今晩はご馳走だ! 頑張れよ~~。」
「おう、頑張りま~す!!」
「そんな~。だんな~。あんまりだ~。」
幅一m深さ二mの土はその場に残されて嵩上げされた。この土は埠頭の中心に入れる土になった。階段の建設で搬出される土も、同じく埠頭に用いられた。
「旦那、俺の傑作は無用になりました。トホホホ。」
「ボブそうなのか?」
「違いますか………?」
「そうだな、石を下ろすのにちょうど良いではないかい?」
「あっ……!」
丈夫な籠に作り変えられて四十cm四方の石が順次下ろされていった。 ここでも底辺には煉瓦が縦に置かれて、水の当たる外面に大きい石垣が積まれる。石と土の間には小さ目の石が突き固められた。他は土を入れて突き固める工法だった。この方法では残土が出なかった。
川の方から順次掘り進めて石と砂利が詰められていく。
石工は階段に六人埠頭に五人が配置された。階段は水平に積み上げるのに苦労する。埠頭は出来るだけ水の浸食がおきないように石の隙間を無くす必要がある。どれもこれも実際に石を置いて調整しなければならない。
石工のマシュはぶつぶつと、
「ボブのやつ、勝手に石の大きさを決めてくるから、こんなにも苦労するはめになったぜ!」
「親方、この長い石は半分に割りませんか、その方が楽になりますよ。」
「いや、長いままでいく。」
石積みの工事に二十日間が過ぎていった。階段から倉庫までは煉瓦を敷き詰めて完成した。
年も終わる三十一日。リリーたちは必死で港の掘削を行った。大地の魔法と言えども簡単ではない。魔力があるかどうかで決まるのだ。
オレグは、
「リリー、土は空き地に置いていいぞ。ミル島のキルケに贈る必要はないからね。未だに反撃が無いからここは大人しくしておこうよ、ね?」
「判ってるわよ、お兄さん。港が出来たら、あとはよろしく面倒を見て下さいよね。魔女たちもだよ。」
「おう、飯も俺が食わせてやるよ。序でに風呂もな!」
「ばこ~ん!」
「さ、みんな、魔法を私に送ってちょうだい。始めるわよ。」
「はい、リリーさま!」
リリーは呪文を唱える。
「我が聖なる大地の女神よ、モーゼのごとく大地を分けたまえ~。土はブルダ川沿いに飛ばしたまえ~!!」
「我が聖なる大地の女神よ、モーゼのごとく大地を分けたまえ~。土はブルダ川沿いに飛ばしたまえ~!!」x25
「ザザザー、ザザー」
ブルダ川から一気に水が押し寄せてきた。
「やったー!」x30~35?
この場の全員が歓声を上げて喜んだ。
離れて見ていたのは、オレグやボブばかりではなかった。ブルダ川には二艘の船が停泊していた。
ボブは大きく手を振って港の完成を知らせる。船でも手を振る男が居た。
二艘の船が入港した。トチェフからの農婦らが降りてくる。デーヴィッドが射の一番に下りて駆け寄ってきた。ソワレとエレナもだった。
「ほぇ~!!」
意外な人物を見てオレグが大きく驚いた。
「まぁ~!!*****。」




