第88部 ほう、兄ちゃん。とうとうその気になったかい ♪
1243年12月1日 ポーランド・ブィドゴシュチュ
*)ブィドゴシュチュ支店
「大変な敵が居たわね。」
「それよりも、ソワレは大丈夫なのかい?」
「そうね、塩で清めたから大丈夫でしょ。すぐに赤ら顔であがってくるからビールを買ってきておいて頂戴。」
「ほいきた!」
「あっ、女の三人分ね!」
「三人?」
「そう、エレナにはワクスがいいわ。」
ソフィアは大声で、
「リリー、お風呂の準備が出来たら、私を召喚しなさい。」
「やかましいよ、もっと静かに出来ないのかい。」
「あら、チャイナではこれが普通なのよ。」
「ボーンチャイナだけにしておくれ!」
「骨のある中国??」
変な事を言うソフィアに向かって、それは中国のチャイナ……とオレグが説明する途中で、
「あらあら、ソフィアは服を脱いで行ったよ。風呂上りはどうすんだろう。」
オレグはパブへと足を向ける。
「おかみさ~ん、ビールを一つ。」
「あいよ~。」
「あんた、パ**を貸しなさいよ。これは小さいわ、ブ**-は無いの?」
「ありませんわ! だって私、小さいのですのも……。」
ソワレ用の服を四人で着るはめになった女たち。
オレグには聞こえるようになっていた。
「どうしてあいつらの声が聞こえるんだ? 四人まとめてゲートで飛べばいいのに、なにやってんだか。」
「ちょっと、それやりなさいよ!」
「ダメですわ……」
夜はソワレの快復を祝った宴会になる。
「ねぇ、ソフィア姉さん。ソワレのコブラは、あれはどういう意味なの?」
「あ、あれは呪いではなく、ソワレを見つけるための魔法なのでしょう。」
「どして?」
「発熱が収まらないから、祈祷師を呼んだだろう?」
「うん、そうね。……それで?」
オレグの返事を待つ。
「その祈祷師には魔女も居るから、魔女のネットワークで居場所が判るように仕込んだ罠だな。」
「もし、呼んだ祈祷師がその魔女だったらもう私たちは知られているわね。」
「もし”じゃなく、もう”だよ。だから早く対策を講じないといけない。」
「こうしてゆっくりしているから、オレグには良い考えがあるのね、」
「ぜんぜん、なんにもないよ。」
「ほにゃ!」x4
「ほら見て見ろ。あいつらはもう寝てしまっているだろう?」
「あらほんとだ。もう食事に毒を入れられたのね。でも、私たちは何ともないわよ。」
「この分は俺が先ほど作った料理だ。毒は入っていないよ。だから明日からは宿を出て家を一軒借りる事になるね。」
「そうーですか、……? オレグの支店の開設だね!」
「そうだね。対策会議もここでは全部漏れているから、出来ないんだ。」
「そんな事を言っていいの? ばれちゃうでしょうに。」
「もう、キルケーの攻撃が始まったんだ。同じだろうさ!」
「ふむ、ふむ、ふ~ん!」
オレグは街の中心部のブルダ川沿いに、
「オレグ商会。」という大きい看板を上げた。
「風が吹けば、落ちそうな看板ね!」
「るっせ!!」
一階は事務所にも転用できる大きな家だった。二階から四階までが宿泊できる部屋になっている。食堂も大きい、オレグらの全員が収容出来た。
「この家は家具付だ。どうだすごいだろう。」
「この家の人たちはどうしたの?」
「かわいい魔女のキルケに贈ったよ。」
「そうね、キルケの方が言い易いわ。」
「突っ込むところがそこかい。」
「お姉さま、ここは、お兄さん、頑張ったわね! と、言うところです。」
「ねぇ、リリーお姉さま。この館は魔女の住み家だったようよ。祭事の道具がいっぱい置いてありますわよ。」
(オレグ兄さんはここの魔女たちを、どうやって追い出したんだろう?)と考えたリリーだった。
「むふふふ……。教祖お姉さま。今日から玉依姫になってくださいまし。私たちが仕事を探してまいります。」
「ソワレとエレナ、私になにをさせる気ですの。」
「はい、魔女に苦しむ貴族の厄払いに決まっていますわ。」x3
「ソフィアしっかり頼んだぞ。」
「そんな、オレグまで私にさせるつもりなの?」
「ボブ、教祖さまの看板を作ってくれないか。」
「おう、いいぜ。なんと書けばいいかい。」
「そうだな。 セイレス sos ceirres だな。」
「なによそれ。 sorceressを並べ変えただけじゃない。」
「並べ変えただけじゃないぞ。ギリシャ神話のセイレーンからもじったのさ!」
「おう、旦那はすごいでさ~!」
「セイレーン?? ギリシャ神話??」
「オレグ、もっと有意義な頭の使い方をなさい。」
ソフィアが怒り出す。リリーは呆れてモノも言えない。
「オレグ商会さ~ん、お花のお届けにまいりました。」
花の贈り物を見てソフィアは、
「かわいい魔女より!! ですって。」
全員が集まって生花を見ていたら、突然はじけて花は飛び散る。皆は驚く。
「おうおう性格も同じくブッ跳んでやがる、上等だぜ! 魔女の首を全部刈ってやろうじゃないか!」
戦争の火ぶたが開いた。
「なぁ、リリー。この飛び散った花で倉庫を造ってくれないか。必要な木材も運んでくるからさ。」
「そうですわね、魔女にも手伝ってもらいましょうか。隠し地下倉庫がよろしいでしょう?!」
とても綺麗なバラの花束だった。花には罪は無い。
「そうだな。トチェフの規模までは要らないな。」
「いいえ、オレグ。ここは二倍の大きさに致します。オットー君と戦争をするのでしょう? だったら商人の武器は沢山たくさん仕入れておくべきだわ。」
「ボブの二人、至急トチェフに戻って職人を連れてきてくれ。」
「人足はどうすんだい。連れてくるか。」
「そうだな。五十人を頼む。」
「ほう、兄ちゃん。とうとうその気になったかい。」
「グラマリナさまに伝言を頼む。三年は帰りませんと。」
「おう、任された!」
グラマリナは親切にも、残りの魔女全員も船に乗せていた。
「オレグはこの荷物を見て驚くかしら!」
「グラマリナさま、この箱の荷物はたちの悪い冗談ですぜ!」
「オレグ、思い知りなさい! うふふふf!」
オレグはリリーを呼んで、
「すぐに百人の人間が集まるようになるのだが、」
「オレグ、リリーになにを造らせるのかな~。」
「スズメのお宿さ。借りた館にはせいぜい十五人までは泊めれるだろうが、残り八十人は外で寝泊まりさせる訳にはいくまい。かといって宿屋は金がかかり過ぎるからさ。なんか、こう、そう、長屋がいいな、出来ないか。」
「それよりも簡単な方法があるわ。今度造る倉庫に全員を泊めればいいわ。」
「はて?……あっ! なるほど、その手があったか。OKこの問題は解決したな。」
「うん、三日で地下と建物を建てるわ。順次寝る場所を移動させればいいわよ。でも、それまではどこかに泊めてあげてね。」
「おう、どこかに押し込むよ任せな。」
*)オレグの巨城
オレグが借りた館はブルダ川沿いに建っている。家の後ろがブルダ川だ。
「オレグさん、このブルダ川を掘り込んで港をつくりましょうや。」
「今の船の二艘分でいいのか。」
「なにを言われます。でかい筏を組める大きさにですよ。だから、三艘分になりますね。」
「だったらこの土地は買い上げにするか。その方が安くつくだろう。」
「旦那、ボブ二号は置いていって下さい。少し造りたい仕掛けを考えました。まだ誰も見た事のない、大きい機械です。」
「それは楽しみだ。金貨は幾らだ。」
「すみません、百枚は必要かと思いますが、値は一千枚になると予想いたします。」
「出来なかったら一生ただ働きだぜ。いいか」
「出来ましたら、一生働きません。いいですかい?」
「?……?・おう、任せた!」
「旦那、ありがて~。」
「ボブ、その機械が出来たらなにして暮らすんだい。」
「働いて旦那に金貨百枚を返して、あとは旦那の下請けで働きます。」
「なんだ、同じじゃないか。」
「いいえ、全然違います。俺は遊んで子分が蟻のように働きます!!」
「おう、それはいい。俺にも出来ない事だ。頑張れ!」
ボブはその機械という物を、今から考えるのだった。
「で、いつになるのだ?」
「?……?」
オレグの買い取った土地は、あのミル島から1kほどの下流に在る。ブルダ川の湾曲した土地だった。そこに2500㎡からの土地を買い取る。ここには倉庫と事務所も建てる。とてつもない大きい建物が結果的には完成するのだった。
「オレグさん、木材はたぶん不要かと思います。ここにこれだけたくさんの木々がございます。」
「いや、倉庫にも多数の木材を使うから購入するよ。心配はしなくていいぞ。」
「はい、教祖のご主人さま。」
魔女たちはオレグの呼び方が決まった。「教祖のご主人さま。」だ。
オレグの城の建設が始まる。リリーに渡した略図はトチェフの倉庫よりもほんの少し大きめだった。
「あんたたち、私に魔力を送るのですよ。」
「はい、リリーさま。」
リリーが土地に念を送ると大きな地響きが起こった。
「キャー!!」x20
魔女たちの悲鳴だ。意にも介さずにリリーは強く念じていた。地上に立つ木々は大きくなり、地下の根っこはより深く地中に伸びていく。地響きは止まる。
「ぅわ~~~、大きい鎮守の森になったわ。」
「少し休憩させて頂戴。」
汗だくになったリリーの額にハンカチをあてるソフィア。
オレグは背中に冷たい視線を感じた。
「リリー、冷たいワクスを飲むかい?」
「はいオレグ兄さま。後ろの背後霊にも分けてあげてください。」
「おうおう、お前らしっかり働け!!」
魔女たちは全員が目を回していた。アントニアが各自にワクスを配っている。
魔女たちの休憩中に、
「オレグさん、お願いがあります。ここにもパブを造ってください。」
「おう、アントニア、お前さんも来たのか。」
「はい、主人のボブが三年も帰らないのでしたら、私もついて来ますわ。」
「それよりか、いい名前を貰ったな!」
「アントニア、きれいな名前です。うれしいですわ…♪♪」
(現金なやつだ。かわいい名前をつけてもらって性格も変わるものかね。)
オレグはアントニアを見ながら心で呟く。……と、
「おう兄ちゃん、ありがとうな!」と、どこからかボブの声が聞こえた気がした。
オレグは紙を出して別棟でパブを建てる図面を描く。ただの介の字の家だ。
「ドアはここで、窓は三つは欲しいか。んで、煙突と。厨房はこれくらいか。んでんで、」
園児が描くような絵? オレグには才能が無い。
「オレグ。地下倉庫も造ったら? 魔女に襲われた時に逃げ込むのよ。どうかしら。それと倉庫とも地下通路で繋げたら?」
「おう、それは名案だね。序でに港にも逃げ口を繋げたりするか。」
「お姉さま、地下通路で逃げましたらきっと放火されてしまいますわ。」
「リリーの言う通りだ。放火されない建物がいいか!」
「だったら煉瓦しかないわ。それと鉄の扉とか?」
「無理だ。パブはやめて大きいレストランを建てる事にするよ。魔女にメイド服着せて働かせる方が得だろう。」
「おうアントニア、お前さんの要望通りに造ってやるよ。」
「ありがとう、オレグさま。」
職人と人足とおまけの魔女が揃った。オレグはボブ=ロバートを呼んだ。
「ボブ、すまないが今度からロバートと呼ばせてもらうよ。」
「いいや、ボブの響きがいいのだぜ。あいつの方の名前を変えてやれよ。」
「だったらボブ船長! だ。」
「おう、それがいい、気に入ったぜ! ところで兄ちゃん用件はなんだい。」
「今度はトチェフから馬車も積んできてくれ。当然馬もだ。」
「だったら嬢ちゃんが早いんじゃないかい。」
「あぁ、そうだが、リリーと魔女たちには倉庫を造ってもらうから出来ないよ。」
「だったら任せな。全部持ってくるからさ。」
「いや馬車の部材の在庫が在るはずさ。組み立てればいいから、馬と一緒に運んでくれ。」
「他にはないかい。牛とか肉とかビールとかさ……な?」
「それらは倉庫が出来てから頼むよ。すまね~な、ボブ船長!」
「チェ!」
ボブ船長はトチェフへ、とんぼ返りした。
トチェフからは、他に建設用の木材と鉄材と金物等が届く予定だ。
ボーンチャイナとは、18世紀にイギリスで生まれた陶磁器の事である。
中国より白い粘土が手に入らなくなり、粘土を白くする為に、牛の骨灰が
混ぜられて焼かれた磁器。綺麗な配色が出来たので、今でも重宝されている。




