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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ
87/257

第87部 はた織り機とソワレの発熱


 1243年10月27日 ポーランド・トチェフ

              


*)はた織り機


 話しが遡る。はた織り機の組み立てが始まった。


「なんだい、これのどこがはた織り機なのだい?」


 ボブが見たはた織り機の部材とは、訳が判らないらしい。オレグにしたって始めて見たのは完成品だったから、違和感は無かった。オレグもボブの言う事が良く分かる。


「そう言うなよ!」

「だってさ~、な?」


「この台座に左右に木を立てるのだが、このままでは倒れてしまうから、台座の木材の左右に固定する石に嵌め込むのさ。」

「嵌め込んで…?」

「立てる木には五個の穴があるだろう?」

「あぁ、あるわな。指でも突っ込むのか?」


「いいや、この穴には枝を差し込むのさ。」

「ふん、ふん。」

「おっと、その前に立てた木の上が二股だろう? ここに梁となる横木を渡してと。この横に等寸大の大きさの真っ直ぐな木だろう?」

「ただの棒切れだぜ?」

「この直径が変わらない、というのがみそなのさ。」

「ふ~ん。で?」

「竹が有れば良かったのだろうよ、こういうように削って研磨しているのさ。」


「そうして出来るだけ真っ直ぐに作っているのか。」


「これで完成さ!」

「ざけんな!! これは物干し台じゃないか、あ、あぁん???」


「次は縦糸だな。鉄の分銅ふんどう・重りに十六本の糸をこうやって結んでさ、な? これを十個作るんだ。」

「なぁ兄ちゃん。あんたがこの織り機を組み立てているのかい?」

「うんにゃ、リリーだぜ。それがどうした!」


「だったら嬢ちゃんに説明させろや。もしかして、兄ちゃんは分かっていないのだろう?」

「むむむ……何を言う!」


「お兄さん、見ても分からないでしょう?」

「あぁ写真じゃな! これ以上の説明が出来ん。」


「でも組み立てだけならば、この俺さまにも出来るぜ。」

「それは良かった。ここにある百八十機を全部頼むな!」

「むぎゅ~ぅ!!」


「でさ! 兄ちゃん。この織物工場の床はどうしてだい。」

「あぁ土間では底冷えがすっからさ、木材を横に敷き詰めたのさ。どうだい、これなら温かいだろう。」

「いいや、凸凹で歩きにくいよ。」

「そう言ってもさ、板の製作はものすごく大変なのだぜ!」

「オレグは水車の動力で作るのだろう?」


「本当は木材を縦にのこぎりで切っていくのさ。だから死ぬほどキツイさ!」

「じゃぁ、素人には出来ないな。板厚が不揃いでさ!」

「不揃いならまだましだよ。途中で切ってしまうからさ、板にもならないよ。」

「そうだな、はわわわ? わははは~!!」


「壁は?」

「壁は木材を積んでいるだけさ。な? 景色が見えていいだろう!」


「オレグ、やっぱ、あんたはバカだ。壁に隙間が多すぎるのだよ。これじゃ嬢ちゃんたちが風邪を引いちまうさ~ね!」


「すまね~な、これが中世のヨーロッパ風の建物なんだ。」

「へ~、そうなんだ!」


「なんだな、今の二十一世紀の人間には理解されなくてもいいよ。どうせ俺は落ちこぼれなのさ! これで精一杯なのだから……。」


「これはなんだ!」

「これは椅子か、脚立だな。高い所に手が届くようにな。」


「やっぱ、俺には解らないよ!!」

「なによ、オレグ兄さんのバカ! ようやく当時の織り機の写真を見て喜んでさ、

 ほんと、バカですわ!!!」



 

 1243年11月27日 ポーランド・ブィドゴシュチュ



*)ポーランドの水の街・ブィドゴシュチュ 


「あの女は、魔女だ~、捕まえろ~」

「イヤよ、私は魔女じゃありません。たまたまオオカミの声に似ているだけですよ。」


 慌てて逃げるソフィアだった。ミイラ取りがミイラになった瞬間だ!


「お姉さま、すてきです!」と、感心したのはエレナの一人だった。リリーはあきれて言葉も出なかったらしい。by,ソワレ。


 ポーランドの水の街と言われるだけあって、美しい街並みが続く。これはベルリンを模して建造されたらしい。運河・ブルダ川に沿って家の軒が隙間なく続いている。(これは、あと百年後からだと思います。)


 デーヴィッドは、


「このブィドゴシュチュは、なんだかブランデンブルク(ベルリン)の街並みみたいに見えます。」


「ヨハンⅠ世さまのお気に入りの街だそうです。昨日パブで聞きました。」

「だとしたら、ブィドゴシュチュは国を挙げての建設かい!」

「保養所でもあるのかな。」


「ブィドゴシュチュ聖堂がそうなのだろう?」

「でも、ブィドゴシュチュ聖堂は後世の建物でしょう? 建立の時期は判らないのよね。」

「それでもいいさ、最近は時代の祖語が激しいしな。史実とは少しずつずれているようだしね。」

「オレグ、それ、あんたが言うのね。」

「あぁ、同一人物だからな。」

「うひゃ~!」


 ソフィアが驚く。


「仕方がないだろう、一地方の情報は少ないのだからさ!」

「そうね、ここはそういうことにしましょか。」


 この頃はまだ地方の貴族が実力を持っていた。貴族に富が集中したので、国のポーランドの発展がままならない。ポーランド王、カジミェシュⅢ世ヴィエルキ(在位・1333年~1370年)が、この貴族社会に手直しを入れる。こうした事実があったからドイツ騎士団VSポーランドの戦争は、ポーランドが勝ったのだ。


「明日は船で水路を回ってみようか。」

「賛成(さんせ~い)!!」


 この頃から五百~七百年間の間の川が綺麗だったかが、私は気になります。セーヌ川が綺麗になったのは確か二十世紀の後半からでした。


「どうだい、綺麗な街並みだろう。」

「そうね、HPの写真ではね!」

「では皆様、HPの写真で遊覧をお楽しみ下さい。」


 ブィドゴシュチュ 検索開始!!



 上空からブィドゴシュチュを眺めてきたエレナは、


「ううん、川沿いは木々が茂っているだけだわ。写真のような夜景を見れるのはたぶん、ミル島の手前の左岸かしら。」

「なんだ、期待して損したよ。」

「で! エレナさん。偵察で収穫はあったかな。」


「そうね、南と北には森林が広がっているわね。お姉さまの故郷かしら!」


 ソワレは、


「エレナ、そういう事を言いましたらソフィアさんが黙っていませんわ!」

「えぇ、そうですわね。でも今は別の船ですので構いません。」


「ドボ~ン!」

「キャ~~、お姉さま! 許してくださ~~~い!」


 大きい石が後ろの船より飛んできて、エレナに水しぶきがたっぷりと降り注いだ。当然、オレグにもソワレにも降り注ぐ。


「あらあら、まぁまぁ、ソフィアさんの怒りの現れだわ!」

「うわ~、ごめんなさ~いぃ!」


「あの木々が茂る島の左岸がそうです。」

「ドボ~ン!」

「キャ~~、お姉さま!」

「ドボ~ン!」「ドボ~ン!」


「お姉さま! 許してくださ~~い!! キャ~~!」

「ドボ~ン!」


「これは怪しいぞ! おい、シビル。船を停めてくれないか。」

「はいな、お兄さん。」

「シビル、お前も何か変だぞ。」

「いいえ、ちっとも変ではありませんわ。」


 石を落としていたのは、リリーだった。


「ソフィアじゃないよ、エレナ一っ飛びして確認してきてくれないか。これはソフィアの怒りではないぞ。」


 オレグが言い終わらない傍からリリーが降りてきた。


「オレグ兄さん、この先は妖しいわ、行くのは止めて下さい。」

「最初の一撃からリリーが石を投げていたのか?」

「ううん、あれはお姉さまです。エレナにぶつける為に投げたものです。少し大きすぎましたかしら。」

「あぁ、全員がずぶ濡れさ。……で、リリーいったい何が怪しいのかい?」

「いいえ、妖しいのです。あのミル島には A sorceress(女の魔法使い)が居ますわ。気づかれないうちの引き返しましょう、どうせこの先は農地と森しかありませんもの。」


「そうかい? シビル。何か感じるところがあるかな。」

「うんにゃ、な~んにも。でも、すぐに引き返すよ。」

「あぁ、頼む。」


「エレナ、あの島には何が在ったかな。」

「赤い大きな建物・館が在ったわね。周りには大きい樹木きぎがあるだけよ。」

「橋は架かっていないのか?」

「そうね、川下に小さな丸太橋が在ったと思う。」

「その館は一軒だけか?」

「そうだよ。畑地は少しあるだけかしら。動物? 家畜は多かったように思う。」


 オレグらは川下りに転じた。昨日とは別のパブに全員が入る。

「ばこ~んん!!」


 ソフィアの鉄槌がエレナの頭に落ちる。


「ぶぇ~~~ん!!」

「あらあら、困りますわね、ソフィアさん!」

「フン!!」


 ここは川沿いにあるパブで、係留している船が一望できるのだった。


「エレナ、あんたは船を見張ってなさい。」


「待って! 私も行くわ。」


 エレナとリリーが南側の船の見える窓の横のテーブルに座る。開き戸の窓を開けると、冷たい風が吹き込んだ。ブルダ川には港らしいものは無かった。下流の方には貯木場と川に浮かべた筏と、たくさんの木材が浮いている。グルジョンツまで輸出されている。


「きっと、グルジョンツも一緒に開発しているのさ。」

「あの辺りも森は在りましたよ。それでも木材が必要なのかしら?」

「いいや、逆に考えてくれ。必要なのはブィドゴシュチュの開発で切出された木材を搬出する事さ。木材の代金は人足の労賃なみに安いのだろう。」


「そうなんだ、グルジョンツにしてみればキコリの人員を住宅の建設に振り分けているのね。」

「まぁ、作業の分担といったところだろう。」

「ふ~ん。」


「もしくは、煉瓦を多数焼いているとか。」

「もしそうならば、トチェフには今後多数の煉瓦が必要になるから、帰りに

 寄ってみるか。」

「そうだね、オレグ。」


 エレナとリリーの横には、いつしかオレグとソフィアが座っていた。


「ほら! エレナ、もっと呑みなさい!!」

「ほぇ~っ!! 私まだ未成年です~」

「15歳はもう大人です。」

「エレナ、逆にソフィアお姉さまに呑ませればいいのですよ。ね!」

「はい、お姉さま。」


 女の魔法使いの件は、すっかり忘れ去られたような昼食とも夕食とも解らない食事になっていた。グルジョンツはこれより百年後まで、ライ麦の穀倉地帯の穀物流通により大きく繁栄していく。


 オレグはビスワ川の主要都市の穀物を牛耳る事になる。というか、オレグの敷いたレールにより発展していくのである。オレグはその事を知らずに転生する事になるのだが……。




*)ソワレの発熱



 ブィドゴシュチュの街に着いて二日後か三日後から、ソワレが熱を出した。


「あんた、サースじゃないの? いやマースだ! すぐにナースを呼べ。」

「ううん、ただの風邪だよ。心配しないで。」

「俺たちはあんたの事より、自分たちの心配をしているんだ。気にしなくていいぜ!」

「ボブ二号、随分な言いようね! もういっぺん死んでみる?」

「いや、もう俺はリンテルンのシャウムブルク城の戦いで死にかけたんだ。もう勘弁してくれ!」


「もう、私は蝙蝠もネズミもヘビも食べていません。ただの風邪です!!」

「そうかぁ~~!!」

「ふん!」


 きっとソワレの部屋が、ネズミの通り道だったのか? ソワレは日に日に熱が上がりだし動けなくなった。街の祈祷師や玉依姫タマヨリヒメを探し出して祈祷してもらうが、効果はなかった。


「玉依姫は呼ばなくてもよかったのだよ、ソフィアが神霊を宿す巫女さんなのだから。」

「オレグ、何を言うのよ。私はそんな便利な女ではありませんわ。」


「ポル=バジンの完結編ではそうだったろう? 他にもモンゴルとか…」

「あれは……確かにそうだけれども、うんもう!! この私が見立ててあげる。ソワレ、服を脱ぎなさい。」

「いやです、殿方の前で裸になるのは勘弁して下さい。」

「なによ。私は三回も……!」

「あら三回も?……ですか。」


「オレグ、急いでパブから塩をたくさん買ってきて。」

「おう、すぐにもらってくる。」


「リリー、エレナ、手伝いなさい。ソワレの服を脱がすわよ。」

「俺は終わったころに来るよ!」


「ガシャ~ン。」


 大きい花瓶が投げられて床に落ちて割れた。


「おう、これは大理石で高いんだぜ! きっとローマ時代のアンティークさ!」


 なおもオレグをめがけて物が飛ぶ。オレグはすぐさま退散した。


「あれ~~~!!」


 と、ソワレの声が飛んだ。オレグは急いで階段を下上した。


「ソフィア、持ってきたぜ。どうすんだい。」

「ギャー、イヤー、スケベ! 来ないで!!」


「オレグ、いいから無視して来なさい。……オレグ。ソワレの背中に塩をぶちまけなさい。」


 オレグは塩の入った壺を逆さまにして塩を一気に振りかけた。」


「ギャー、痛い、イタい、いて~~~~!!」


 ソワレの悲鳴があがる。


「おいソフィア。塩がどうして痛いんだ!」

「それはこういう事なのよ、見てて……。」


「ギャー痛い、イタい、いて~~~~!!」


 ソワレの悲鳴が途切れることなく響いている。


「リリー、エレナ、手足を押さえていなさい。」

「はい、お姉さま。」x2


 ソワレの背中が充血していく。中心辺りが丸い赤い文様が浮かぶ。同時に上下にも一本の赤い紐が浮かぶ。


「ギャー痛い、イタい、いて~~~~!!」

 

 ソフィアは零れた塩を掴んではソワレの背中に揉みつける。塩揉みされただけだはこんなに痛がるはずはないのだ。


「ソワレ、こうして塩もみするとね、お肉の脂が落ちて綺麗な身体になるのよね。知ってた?」

「はい、入浴した時にお腹や太ももを塩をつけてマッサージすると、その部分が細くなると言われています。背中はもうよろしいので、お腹とそのう……太ももをマッサージしてください。」

「そうね、皆様もお試しください、SNSででも広がっていますわ!……何言わせるんじゃい。この駄肉の塊り……。」


「出来たわ。……オレグ、この文様はなにかしら。」


「わっ!」「キャッ!」「ホワッチ?」

「そうだな、ヘビの呪いだろうな。」


 ソワレの背中には紅斑の文様、コブラがドクロを巻いた絵が浮かびあがっていた。


「これはキルケー・かわいい魔女? の呪いだな。あのミル島にはキルケーが居るのだ。」

「そんな~でしたらパトロンのオットーⅢ世も居ますわ。」


「あっ、そうなんだ。オットー君がおかしいのは、魔女・キルケーのせいだったのか。これで納得がいったよ。」

「リリー、もうソワレには用は無いわ。お風呂へ飛ばして頂戴。」

「はい、お姉さま。」


「ぎゃー、ぎゃ~~~~!!」


 ソワレは風呂桶に落とされた。


「おいリリー、風呂にはお湯が入っているよな。」

「お兄さま、そのような事は存じません。お姉さまに訊いて下さい。」


「だとよ、どうなんだいソフィアさん。」

「もち、なにも入っていないよ。たぶん、今から水が入るかもね。」


「きゃ~~冷めた~~~い。ぎゃ~~~ぁ~~~。」


 ソワレの悲鳴が二階まで聞こえてきた。リリーはゲートを開きソワレの元へと跳んでいく。そのようなリリーを追って、


「ソワレ~~今助けに行きま~~~す。」


 と、エレナが服を持って駆けていく。


「大変な敵が居たのね。」

「ソフィア、ソワレは大丈夫なのかい?」

「そうね、塩で清めたから大丈夫でしょ。すぐに赤ら顔であがってくるから、ビールを買ってきておいて頂戴。」

「ほいきた!」

「あっ、女の三人分ね!」

「三人?」


 ソフィアの言葉の意味が解らない。



「リリー、お風呂の準備が出来たら私を召喚しなさい。」


「あらあら、ソフィアは服を脱いで行ったよ。風呂上りはどうすんだろう。」


 オレグはパブへと足を向ける。


「ォおかみさ~ん、ビールを一つ。」

「あいよ~。」


 女四人が風呂桶を壊してしまった。


「旦那、修理代、金貨三枚ね!」

「とほほほ……。」

「休業費に金貨1枚もね!」

「そんな~~!」

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